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第13話 アロマの衝撃


 カンカンとカンノの甲高い音が、昼下がりのスラムの路地裏に響く。


 レオンは自家製手押し車の鉄板横に設けた小さな炭火焼き台で、下処理済みのオークホルモン串を並べた。


「おいおいシェフ、本当にあれ売るのか……? いくら血臭さが消えたって、内臓だぞ?」


 木箱に腰掛けたゴルドが、まだどこか半信半疑といった様子で喉を鳴らす。


「まあ見てろ。客の鼻は嘘をつかない」


 レオンはフッと口元を緩め、炭火の火力を【微火】で均一にコントロールしながら、串を返した。


 ジュワアアァァッ……!!


 炭の上へ滴り落ちた澄んだ脂が弾け、白い煙が一気に立ち上る。


 だが、その煙はスラムの住人が知る「内臓のドブ臭さ」では断じてなかった。


 【微風】で芯まで定着させたハーブのさわやかな青い香りと、安酒のフルーティな芳醇さ、そして炭火で焦げたタレの香ばしさが混ざり合い、路地裏全体へ一気に広がっていく。


「……なっ!?」


 ゴルドが勢いよく立ち上がった。


 路地を歩いていた貧民や荒くれ者たちが、吸い寄せられるように足を止める。


「な、なんだこの匂いは……!? いつものステーキと違うぞ!?」

「炭火焼きの香ばしさに……なんだかフワッとハーブのいい匂いが混ざってやがる!」


 あっという間に、屋台の前には昨日以上の人集りが出来上がった。


「へいへい、順番に並びな。本日の新メニュー、『オークホルモンのアロマ串焼き』だ。一本、銅貨二枚」

「内臓(ホルモン)だと……!?」

「おいおいガキ、正気か!? 内臓なんて臭くて喰えたもんじゃねえぞ!」


 客たちから困惑と疑問の声が上がる。だが、レオンは動じない。


 熟練の手つきで仕上げに秘伝の塩ハーブと安酒のフランベをひと吹きし、表面をカッと香ばしく焼き上げた一番最初の串を、最前列の男へ差し出した。


「喰ってみれば分かる。まずかったら代金はいらない」

「……ちくしょう、匂いに免じて喰ってやるよ!」


 男は半信半疑で串を奪い取り、熱々の肉塊、オークの腸(ホルモン)へ豪快にかぶりついた。

 噛みついた瞬間、クニュッとした嫌なゴム感は一切存在しなかった。


 代わりに弾けたのは、サクッと心地よい歯切れの良さと、溢れ出す濃厚な旨味の汁だった。


「――っ!?」


 男の目がこぼれ落ちんばかりに見開かれる。


「な……なんだこれ……!? 噛むたびにジュワッと脂が溢れんのに、ちっとも臭くねえ! それどころか、口の中に爽やかな草の香りと酒の旨味が広がって……飲み込むのがもったいねええぇぇっ!?」

「おい! 本当かよ!?」

「俺にも喰わせろ! 銅貨二枚だ!」

「俺は三本くれ!!」


 疑念は一瞬で熱狂へと変わった。


仕込んでおいた大量のホルモン串が、飛ぶように売れていく。


 人混みの後方では、食材を納入したバルトが、信じられないものを見る目でその光景を呆然と眺めていた。


(捨てるはずの内臓が……あのガキの手にかかれば、銅貨の山に化けるのか……!?)


 10歳のシェフの指先とプロの技が、異世界の食の常識をまた一つ、鮮やかに塗り替えていた。


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