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三つ星シェフ、街角の屋台から始める異世界グルメ  作者: Green Rabbit
第二部・世界航海&魔境ダンジョン編
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第40話 巨岩茸


 二層の奥へ進むにつれ、石造りの回廊は生ぬるい湿気と硫黄の匂いに包まれていった。壁面には蒸気を吐き出す細かな亀裂が走り、足元の石畳もかすかに熱を帯びている。


「待って。足元に異変があるわ」


 先頭を歩いていたエレナが魔導測量ゴーグルのレンズをカチリと回し、手をかざして全員を制した。ゴーグルの多角レンズが青い魔力光を帯び、複雑な歯車がシャキシャキと小刻みな音を立てて噛み合う。


「四歩先の石畳だけ、周囲と気圧の変化が違う。感圧式の落とし穴トラップよ。……ただの落下罠じゃないわね。下に膨大な熱風と蒸気脈が溜まってる」

「罠か。構造そのものが冒険者を追い散らすようにできているな」


 シェラが短剣の柄に指をかけ、警戒して周囲を見回す。


 その時だった。エレナの回避指示が出されるより早く、壁の亀裂から噴き出した高圧の蒸気が回廊を遮断した。足元の石畳がゴゴゴと鈍い音を立てて傾き、一筋の傾斜した滑り台となって四人を地下深くへと滑り落とす。


「うわっ!?」

「慌てるな、姿勢を低く保て!」


 滑り落ちた先は、赤く揺らめく地熱脈に照らされた、広大な天然の岩塩洞窟だった。


 洞窟の床からは熱湯と蒸気が吹き荒れ、その中央には巨岩と見紛うばかりの巨大な傘を広げた魔物植物、巨岩茸の群れが群生していた。傘の表面からは、どろりとした紫色の胞子液が垂れ落ちている。


「出たわね……! これ、ギルドの掲示板で『触ると強烈な痺れと吐き気をもよおす胞子を吐くから、近寄るな』って書かれてた邪魔なやつよ!」


 リオが大杖を構え、即座に爆炎の魔力を練り上げる。


「待て、リオ! そのまま燃やすな」


 レオンが制止の声を上げた。ペティナイフを握り直し、足元の岩盤にこびりついた結晶を指で削って舐める。


「……純度の高い天然岩塩だ。エレナ、ゴーグルで奴らの柄の内部構造と、紫色の胞子液の熱変化を見ろ」


 エレナはすぐさまゴーグルを調整し、波長を切り替えた。


「……嘘。あの毒胞子液、特定の熱風と塩分に触れると急速にタンパク分解が進んで……毒性が完全に消えていくわ。それどころか、強烈なポルチーニのような旨味香気成分に変性してる!」

「当たりだ。アルカロイド系の毒胞子は熱分解に弱い。蒸気と岩塩の環境で育った菌類だ、ダシが取れないわけがない」


 レオンが不敵に笑い、指示を出した。


「リオ、直撃させるな。あの洞窟の天井に蓄積している高圧蒸気に向かって熱波を流し込め! 天然の高温スチーム釜を作るんだ!」

「……了解!」


 リオが杖を突き立てると、頭上の蒸気層が一気に高熱の蒸留気流へと変わり、洞窟全体が均一な熱で満たされた。


 巨岩茸たちが熱気で水分を絞り出され、カサのカサカサとした表面から香ばしい極上の濃縮ダシの香りが一気に立ち上る。


 シェラとレオンが滑り込み、熱の通った柄の根元へ的確に包丁と短剣を滑り込ませて刈り取った。


「よし、確保だ!」


 熱気が収まった洞窟の中で、下処理の済んだ巨岩茸からは、松茸すら凌駕する芳醇な香りと、そのまま極上スープのベースになる濃密なエキスが溢れ出していた。

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