↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
三つ星シェフ、街角の屋台から始める異世界グルメ  作者: Green Rabbit
第二部・世界航海&魔境ダンジョン編
PR
120/136

第33話 熱を継ぐ者


 月明かりが港の氷面を白く照らす夜。アルティザン号の甲板に積もった薄雪を踏みしめながら、バルトがレオンの背中に歩み寄ってきた。


 冷えた海風が二人の間を吹き抜ける。いつもなら真っ先にくだらない冗談を飛ばすバルトが、今夜は唇を固く結んだまま、静かに海を見つめていた。


「……レオン。俺、船を降りる」


 レオンは研ぎ石の上に置いた包丁を動かす手を止めず、規則正しい音を響かせながら静かに耳を傾けた。


「……ミルカと一緒に、あの街で生きていきたい。ギドの親父さんの店を手伝いながら、ノースヴェイルの連中に温かい飯を出し続けたいんだ。……勝手なこと言って、すまねえ」


 深々と頭を下げるバルトの頭上に、レオンの静かな声が降ってくる。


「お前が自分で決めた道だ。謝る必要はない」


 レオンは包丁を布巾で拭い、鞘に収めるとゆっくりと振り返った。


「ただし、俺の船に乗っていた男が、生半可な料理を出して街の客をがっかりさせることは許さん。明日から仕込みに入るぞ」

「仕込み……?」

「お前一人で仕込めて、どんな大寒波が来ても客の手を温め、胃袋を満たせる『お前のための看板料理』だ」


 翌朝から、ギドの店の厨房でレオンとバルトのマンツーマンの特訓が始まった。


 レオンが提示したのは、極寒の地に特化した『極厚豚すね肉の濃厚発酵煮込みと、熱々石焼きポケットパン』だった。


 ウツボの白湯で培ったコラーゲン抽出の技術を応用し、安価な豚すね肉と根菜を、地元の発酵麦味噌と香辛料でクタクタになるまで煮込む。コラーゲンとゼラチン質がとろみを生み、表面に油膜を張ることで、氷点下の屋外でも一切熱を逃がさない。


 それを、焼き立ての分厚いポケット状のパンにたっぷりと流し込み、熱した石の上で表面をカリッと焼き固めて差し出す。


「皮はパリッと香ばしく、噛みちぎれば中からマグマみたいな熱々の肉汁とシチューが溢れ出す。持ち運びやすく、手袋越しでも手が温まる」

「す、すげえ……! こんなの、一口食ったら寒さなんて吹き飛んじまうぞ!」

「感心している暇はないぞ。火加減、肉の下処理、とろみのつけ方……すべてお前の腕一つにかかっている」


 レオンの手元を、バルトは血眼になって見つめ、メモを取り、何度も火傷をしながら大鍋と向き合った。その真剣な横顔を、ミルカとギドが温かな眼差しで見守っていた。



     * * *



 数日間の猛特訓の末、バルトが自力で仕上げた煮込みパンを一口食べたレオンは、静かに目を閉じた。


「……合格だ。これなら、あの街の胃袋を一人で支えられる」


 レオンの言葉に、バルトの目からボロリと大きな涙がこぼれ落ちた。


 技術を教え込まれたからではない。レオンが自分を「一人の料理人」として認め、この街に温かな熱を残していける力を授けてくれたことへの、溢れるほどの感謝だった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。