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三つ星シェフ、街角の屋台から始める異世界グルメ  作者: Green Rabbit
第二部・世界航海&魔境ダンジョン編
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第21話 失敗の味


 市場での屋台営業を無事に終え、夕闇が迫る路地裏の借家に戻ったレオンたちは、すぐさまテーブルの上に持ち帰った試作の携帯食を広げていた。


 それはかつて王都でヴォルフたちに伝授し、サン・ロザリアへの長旅でも『アルティザン号』の船内で重宝していた「冒険者用戦闘携帯食」、厳選したスパイスと塩を揉み込み、煙でじっくり燻製した干し肉(ジャーキー)と、水分を限界まで削ぎ落として焼き上げた硬焼きの乾パンだ。


「……やっぱり、この土地じゃ完全にダメだな」


 シェラが腰の革ポーチから取り出した干し肉をテーブルの上に放り投げると、カン、と硬い石でも叩きつけたかのような乾いた重い音が室内に響いた。


「ノースヴェイルの寒気に数時間晒されただけで、肉の中にわずかに残っていた水分まで完全に氷結してる。手で無理に曲げようとしてもビクともしないし、こんなもん腹が減ったからって噛みついたら、一発で前歯が欠けるぞ」


 バルトも手元に置いた乾パンを指の関節でコンコンと叩きながら、苦々しい表情で深くため息をついた。


「港の作業員も言ってたが、皮の水筒に入れた水すら半日もしねえうちにカチコチの氷の塊になる街だ。ダンジョンの中でモンスターに怯えながら、火を起こす余裕もない場所でこんな石コロみたいな食料を食うのは、拷問以外の何物でもねえな」


 昼間、屋台の熱気の中で出会った大剣の冒険者が残していった生々しい言葉が、レオンの脳裏に蘇る。


 『携帯食料はカチコチに凍りついて歯が立たなくなる』、過酷極まる『氷鱗洞窟』の深層において、食料の凍結による体力低下と体温の奪い去りこそが、冒険者たちの生命線を容赦なく引きちぎる最大の脅威なのだ。


「水は零度で凍りついて氷結晶を作るが、油脂や高濃度の塩分、それに糖分は凍結する温度……つまり凝固点が極端に低い。要するに、これまでの携帯食は『保存性を高めるために水分をそのまま保持させていた』からこそ、この極寒の中で凍りついてしまったんだ」


 レオンはテーブルの上に並べた大鹿の発酵バター、精製した純度の高い鹿脂、そしてサン・ロザリアから携えてきた熟成魚醤(ガラム)の小瓶を順に見つめた。


「王都やサン・ロザリアで作った携帯食は『水分を飛ばして乾燥させ、腐敗を防いで長持ちさせる』のが目的だった。だが、この氷点下の地で真に求められているのは、それとは真逆の発想だ。『水分を一切排除し、マイナス数十度の環境でも固まらず、口の中の体温だけで即座に溶けて高カロリーな熱へと変わる糧』を作らなきゃならない」

「水分を完全に抜いて、脂と塩で食料を作る……? そんな夢みたいな真似が本当にできるのか、レオン?」


 シェラが防寒用の毛皮を脱ぎ捨て、身を乗り出すようにしてレオンの手元を覗き込んだ。


「ああ。北方の極寒地帯に伝わる古の極地保存食『ペミカン』の技法と、フレンチにおけるエマルション(乳化)を組み合わせる。これなら、マイナス数十度の極寒の世界でも柔らかさを保ったまま、高カロリーと体温を一度に身体へ供給できるはずだ」


 レオンは薪ストーブの火力を強めると、厚手の鉄鍋を火にかけ、ノースヴェイル特産の濃密な発酵バターと純白の鹿脂を静かに放り込んだ。


 ジワジワと溶け出す甘く芳醇な香りが、凍えきっていた部屋の中にゆっくりと満ち始めていく。

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