水無月 神奈
「…が…。」
「…め……。」
「…イ、イヤ…ヤダ……」
その小刀を見た”神奈ちゃん”が後ずさりする。とても怯えているようだ。
「ァァァァァァァァァァ…………………」
男の霊は唸るように息を吐く。前に足を踏み出す。
「ヤ、ヤメテ!!!…コナイデ!!!!」
小刀が夕日の光をギラギラと反射する。霊の歩みは止まらない。
「ナンデ!!!ワタシハ、ミサキチャント、イ゛タ゛イ゛タ゛ケ゛ナ゛ノ゛ニ゛イ゛イ゛イ゛イ゛イ゛イ゛!!!!!」
”神奈ちゃん”は踵を返してその場から離れようとした。しかし、
「キ゛ャ゛ッ゛!!!」
”神奈ちゃん”の動きが止まった。いや、止められた。あのトラックの時と同じだ。
「ナ゛ン゛テ゛ナ゛ン゛テ゛ナ゛ン゛テ゛ナ゛ン゛テ゛ナ゛ン゛テ゛ナ゛ン゛テ゛ナ゛ン゛テ゛ナ゛ン゛テ゛エ゛エ゛エ゛エ゛エ゛エ゛!!!!!!」
指1つ動かせない”神奈ちゃん”の横に霊はしゃがみ込んで、ゆっくりと背中に小刀を突き立てた。最初は服越しに肌が弾力を以て刃先を押し返していたが、すぐに表皮が破れて見る見る体の中に刀身がすんなりと入って行く。
「キ゛ャ゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛!!!!!!!!!!!」
その刃先が腹部から出て来た時、どす黒い液体が”神奈ちゃん”の体内から溢れ出て来た。一度死んだ者が再び血を流した。
叫び苦しむ”神奈ちゃん”の背中に柄まで小刀を刺し込んだ霊は、ゆっくりと抜き、今度は少し位置をずらして再び皮膚を突き破った。まるで、すぐに死なないように刺す位置を考えているかのようだった。
「ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛!!!!!!!!!」
霊は”神奈ちゃん”の表情を観察するかのように横目で彼女の顔を見ていた。冷たい眼差しで。
「コ゛メ゛ン゛ナ゛サ゛イ゛!!!!コ゛メ゛ン゛ナ゛サ゛イ゛!!!!!!!」
痛みに悶えながら”神奈ちゃん”は霊に謝っていた。私がその処刑に割って入る隙などなかった。転んだ時の体勢のまま上体を起こして見ているだけ。
「キ゛ャ゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛!!!!!」
霊は”神奈ちゃん”の声に耳を傾けているようには見えたが、構わず次々と胴体を貫いていた。家畜を解体する人間のよう。
「モ゛ウ゛ミ゛サ゛キ゛チ゛ャ゛ン゛ヲ゛コ゛ワ゛カ゛ラ゛セ゛マ゛セ゛ン゛!!!!モ゛ウ゛ミ゛サ゛キ゛チ゛ャ゛ン゛ニ゛チ゛カ゛ヨ゛リ゛マ゛セ゛ン゛!!!!」
”神奈ちゃん”の目から真っ黒な涙が漏れ出ていた。一通り背中全面を小刀で刺し終えた霊は、最後に”神奈ちゃん”の頭頂部に刃先を乗せた。
「ヤダァ…ヤダァ…ジョウカ…ジョウカヤダアァ…」
霊は容赦なく腕に力を込める。恐ろしい切れ味の小刀は、頭蓋骨でさえも容易に突破した。
「ヤ゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛!!!!!!!!!!ッッッッッッッッッッッッッ……………………………」
「…神奈ちゃん…。」
瞬きの後に残ったのは、どす黒い血だまりと地面に残る異形のシミ跡だった。
「ァァァァァァァァァァァァァァ………………」
林中に唸り声が響いた。一帯の邪気へのあの霊からの警告だろうか。
……車のエンジン音やアスファルトの上をタイヤで転がる音が色んな場所から聞こえることに気付いた。山の麓は人の気配で溢れている。
私は立ち上がり、神主さんに会うために幽宮神社の中へ入って行った。
「いやああああ!!!どうしたんですかそれ!!!!」
落ち葉掃きをしていた巫女の人が、痣と血だらけの私の姿を見て悲鳴を上げた。
「神主さああああん!!!!!」
ほうきを投げて駆け足で神主さんを呼びに行ってくれた。巫女に引っ張られてやって来た神主さんが私を見るなり顔をしかめる。
「…こりゃ酷いな。」
神主さんは社屋の風呂を貸してくれた。血塗れの制服も、漂白剤を入れた水入りの桶に浸して、余った巫女の服を私に着せてくれた。神主さんには助けてもらってばかりだった。
「あー、そりゃ呪いやな。」
クラスメイトたちの"神奈ちゃん"への異常な執着に対して、神主さんは断言した。
「思うに、お前さんの友人は、元々社交的な自分をアイデンティティにしとった。1番はお前さんと仲良くすることだったようだが、誰からも嫌われないように周囲に呪いを振り撒いてたってことやな。」
「なんで私は呪われなかったんですか?」
「お前さんはそもそもその友人に対して敵意などなかったからな。呪いを撒く必要がなかった。それか、その呪いが、何者かによって乱されていたか。」
「呪いって乱されたりするんですか?」
「するよ。複数の霊から相反する呪いをかけられた時、より強力な呪いが上書きされる。」
「そうなんですか。」
「…それで今回もあの霊の世話になったんかい?」
「…はい。」
神主さんは得意げな顔をした。
「私が渡したものが役に立ったようやね。」
「あの小刀ですか?」
「そ。本来は守り刀として使うものだったがね。私の祖先が何を思ったか、あれに強力な呪文を彫ってたもんであの霊に武器として持たせた。おかげでお前さんは今もピンピンしとるわけや。」
「別にピンピンはしてないですけど。」
「それで、お前さんの友人がいつ頃死んだかわかるか?」
「…どういうことですか?」
「まさか産まれてからずっと霊だったとでも思っとったんか?霊の姿は肉体主が死んだ時で止まってるんや。お前さんは友人と高校までずっと一緒におって、それでちゃんとその友人は成長しとったんやろ?」
「はい。」
「ならそいつは高校に入った後にどっかで死んだ可能性が高いやろ。心当たりはないんか?ある日から髪を切った話がなくなったとか。」
「…1年生の時からですね。」
「死亡した場所は?」
「…わからないです。なぜ死んじゃったのかも。」
「そりゃそうか。そもそも霊だったことに気付いていなかったからな。」
神主さんは外の景色を眺める。今日は曇り空でいつもよりもかなり暗い。
「お前さん妹いたやろ?」
「従妹です。」
「ここに服を届けに来てもらいな。」
十数分すると、バッグを下げて静香ちゃんが神社にやって来た。最初は歩いていたが、巫女服を来た私を見るとすぐに駆け出した。
「お姉ちゃんどうしたの?!ここで働くことになったの?!」
「違う!」
「あっはっはっはっは!!」
静香ちゃんに持って来てもらった私服を着て、神主さんに頭を下げた。
「今日はありがとうございました。これはお返しします。」
やり方も分からぬままに畳んだ巫女服を神主さんに差し出した。
「構わん。」
「制服の方は…。」
「明日取りに来な。今日だけじゃあれほどの汚れは落とせない。家はここから近いやろ?干して置いてやる。」
「ありがとうございます。」
「日が暮れて来てる。早く帰りな。」
神主さんに見送られて、私たちは家に向かった。
「…。」
「…。」
街灯が点き始めた歩道を歩いた。気まずい沈黙が続いていた。バックを体の前でぶら下げていた静香ちゃんが先に口を開いた。
「…また何かあったの?」
その言葉に、前の”伊藤さん”の件がフラッシュバックした。
「…うーーん。」
言うべきか言わないべきかで迷っていながらも、何か反応を示さねばと私は小さく唸った。
「私嫌だよ。」
横を見ると、静香ちゃんは哀しい目で私を見ていた。
「何かあって、もしお姉ちゃんが死んじゃったら…。」
最後まで言葉を言うまで堪えることができなかった静香ちゃんは、その場に立ち止まっては正面を向いて鼻をすすり、腕で目を拭った。私は進みすぎた足を引き留めて、耳が真っ赤な静香ちゃんの前に立った。
「…死なないよ。」
根拠もなければ自信もなかったが、泣く静香ちゃんを前にしてそれを言わざるを得なかった。
静香ちゃんは一歩前に出て、私の胸に顔を突っ込んだ。
「もう一人でどっかに行かないで!」
「…うん。」
私は静香ちゃんの頭を両手で抱えた。
静香ちゃんが落ち着いて来た時、私は静香ちゃんに神奈ちゃんの件を伝えた。もちろん、七瀬、日南、朱里の3人のことについては伏せた。静香ちゃんは小学校の頃から私と神奈ちゃんの関係を知っていたので、すぐに事のあらすじを理解した。
「水無月さん霊だったの…。」
「…私も気付かなかった。」
「…。」
「…。」
私たちは俯いていた。快晴だった空は気付けば雲がかかり、夕日の赤も西に消えかけてあたりは灰暗くなっていた。赤いポストが濁って見える。
「ワン!ワン!ワン!」
犬の鳴き声が聞こえた。声のする方を2人揃って振り向くと、車道を挟んで一匹の犬がこちらに向かって吠えていた。それは敵対ではなく、自分の存在を知らせるための鳴き声だった。
「あれ…、水無月さんの飼い犬じゃない?」
「…むぎ?」
神奈ちゃんの家は一匹の秋田犬を飼っていた。名前はむぎ。小中の頃、神奈ちゃんが散歩に連れているのをよく見かけた。人懐っこくて、散歩の現場に会うたびに尻尾を振って私に近付いて来ていた。むぎをよく見ると、リードが繋がれていなかった。
「迷子なのかも。」
横断歩道を渡ってむぎの下に向かった。
「家まで送ってあげないと。」
最後に会ってから数年が経っているのに、私が近付くとむぎは尻尾を振って迎えてくれた。間違いない。これはむぎだ。昔のように慣れた手つきで頭を撫でた。
「えっ…。」
私は咄嗟に腕を引っ込めてしまった。冷たかった。
「どうしたの?」
「…霊。」
私たちは後退して身構える。いつむぎの体が変形して化け物になるのか予測が付かない。
……………………。しかしいつまで経っても変わる様子はない。舌を出して尻尾を振りながら、再び私のナデナデを待っている。
「ワン!ワン!」
突然、むぎは後ろに向かって走り出した。
「あ!待って!」
むぎは私たちの方を振り返りながら進んで行く。それは町中から大きく離れて、真っ暗な山の中に入って行った。むぎの後を追いかけて山の中に入ろうとした静香ちゃんの腕を掴んだ。
「入ったらダメ!」
「でも、むぎが!」
「霊だから死んだりはしない。もう遅いから、一回諦めよう。」
「…うん。」
私たちは山の中から聞こえて来る”むぎ”の声を尻目にその場を後にした。
次の日、市一帯の学校は休校になった。”神奈ちゃん”と会った日の夜、警備員が学校の見回りをしていると、生徒指導室で一人の教師が見つかった。それはその日の放課後、”神奈ちゃん”を呼び出した担任の先生だった。意識不明の重体で、警備員は救急車に電話して搬送されたが、助かる見込みはないらしい。噂によると、全身の皮が剥がされて辺り一面が血だらけだったとか。きっとあの先生は気付いてしまったのだと思う。”神奈ちゃん”に。
生徒4人教師1人の被害。生徒1人の行方不明。度重なる私の学校の霊災と思わしき現象の数々を受けて、校長は休校を宣言した。市内の他の学校も警戒態勢を取り、一斉に休校になった。
神奈ちゃんが行方不明になったことについて、彼女の両親から行方を知らないかと聞かれた。両親は神奈ちゃんが霊であったことに気づいていなかったのだろうか。どちらにしろ、私は本物の神奈ちゃんの場所を知らない。首を振るしか出来なかった。
静香ちゃんはより勉強に力が入ってた。本来学校にいる時間をすべて勉強に費やすことができる。そう言ってた。そこまでして勉強する気持ちはわからないかな。
神主さんが言ったことを守り、私は朝に制服を取りに行った。あの血だらけだった制服は真っ白になっていた。家で過ごしてた時、ずっとむぎの姿が脳裏にチラついた。私たちを山の中へ導いていたが、それに悪意や敵意を感じなかった。何かを伝えようとしているような。
私は着替えて出かける準備をした。学校からは家から出ないようにと全校生徒に釘を打たれていたが、それよりもむぎのことの方が私にとっては重要だった。
「どこ行くの?」
玄関のドアノブに手をかけた時、静香ちゃんが声をかけて来た。
「…ちょっとコンビニに。」
「…むぎでしょ。」
バレた。
「ちょっと待ってて。」
確信した静香ちゃんはすぐに自室にかけて行った。戻ってくると外出用の服に着替えていた。
「私も行く。」
また"あの時"のような大惨事に巻き込みたくはないと思ったが、今回はむぎの霊。
「…わかった。」
色々考えたが、どうせ何を言っても静香ちゃんは付いて来る。仕方がない。
私たちは昨日むぎを見た場所に来た。そして"それ"を見つけた。
「いた。」
変わらず、私たちを待っていた。
「ワン!ワン!」
私たちの合流を確認すると、再び誘導するように"むぎ"は動き出した。私たちはそれに着いて行く。そしてあの山の中へ。昨日の夜は何も見えなかった山の中は、真昼間の今だと遠くまで良く見えた。
「ねぇちょっと!もうちょっとゆっくり!」
”むぎ”は道無き道を進んで行く。出来れば平坦な道を行って欲しいけど。私たちは息切れしながら体力知らずの”むぎ”を追いかけた。
ついに”むぎ”は足を止めた。傾きが少ない平坦な場所。そこには一つの大きな岩が転がっていた。”むぎ”は私たちが着いて来たのを確認すると、岩の裏に回り込んで行った。
私たちも続けて行こうとすると。
「うわっ。」
死臭がした。わずかに。私たちは顔を見合わせる。決心して岩の後ろを覗いた。
「…神奈ちゃん。ここにいたんだ。」
そこには人間と犬の白骨化した死体が、岩に上半身を潰される形で存在していた。その死体が着ている制服で、すぐに神奈ちゃんだと思った。
「この人が水無月さん?」
「そうだと思う。」
「何でここで。」
「わからない。」
私たちはその光景を呆然と眺めていた。
「ワン!ワン!」
”むぎ”は再び走り出した。
「またぁ?!」
また変な山の傾斜を登らされるのかと思ったら、まさかの石段に出会った。”むぎ”は石段を登って行く。
「何でこんなところに。」
上って行くと、鳥居が見えて来た。
「神社?」
石段の一番上を超えると、すぐに神社の全様が見えた。塗装が剥がれてボロボロ。幽宮神社とは比較にならないほど手入れが行き届いていなかった。
「あっ!むぎが!」
静香ちゃんがそう叫んだ。見ると、”むぎ”の体が徐々に白い灰となって風に乗って散って行っていた。満足して、楽しそうに。そして”むぎ”は消え失せてしまった。
「…成仏した?」
「…もしかしたら、見つけて欲しかったのかもしれない。」
静香ちゃんがそう呟く。確かに、もし”むぎ”の未練が”自分と神奈ちゃんの遺体、この神社を見つけてもらう”なのだとしたら合点がいく。
顔を上げると、神社の屋根にあの男の霊が腰かけていた。
「あの人…。」
「まただ。…境内に入ってる。」
霊は空へと舞って行く”むぎ”の灰を目で追っていた。まるで神主が死者を送るかのようだった。
「こんなところにお参りに来たのか?」
声を掛けられて振り返ると、一人の若い男が鳥居の下に立っていた。気付けば男の霊はいなくなっている。
「ああ、えっと。」
「まあ、偶然見つけたんですよ。」
「あ、はいそうです。」
静香ちゃんはややこしくならないように嘘をついた。犬の霊がここまで導いてくれたなどと言っても変な奴だと思われるだろう。霊は社会に蔓延ってはいるが、実際に遭遇する人は、交通事故に見舞われる人よりも少ない。
「よく見つけられたな。こんな場所。」
「そっちこそ何でこんなところにいるんですか?」
「俺が今日の掃除当番だから。」
「当番?」
「そうだよ。ここまでボロいともうどうしようもないと思うけどな。」
「神主さんはいないんですか?」
「死んだらしい。結構若い内に。そのせいで後継ぎが出て来なくて、結果この神社は放置されちまった。完全に放置するのは悪いからって、ここらの家で定期的にこの場所を掃除してるんだよ。それで今日が俺ってわけ。ただの悪足掻きでしかないと思うけどな。」
男は話しながら、慣れた手つきで近くの小屋からほうきを取り出しては落ち葉を掃き始めた。
「お参りするなら近くにある幽宮神社の方がいいだろ。ここも昔は人が集まって来てたけど、今は見ての通りだ。」
「この神社は何なんですか?」
「名前ってことか?何だったっけな。確か、星詠神社だったかな。」
「星詠?どっかで聞いた気がする。」
静香ちゃんは首を傾げているが、私にはわかる。
「私の母方の祖父母の苗字も星詠です。」
「ああ!それだ!」
「へー、名前被りとかそんな偶然もあるもんなんだな。もしかして本当におじいちゃんおばあちゃんがこの神社運営してたり。」
記憶がぼんやりしていて確信は持てない。私の祖父母はお母さんが死ぬ前からもう病死していた。私は首を傾げる。
「え、本当にマジでありそうなのか?」
「うーん、わかりません。」
「そうかー。もし本当にそうだったら鍵があって、本殿開けられそうなんだけどなー。」
「本殿?」
「そこ。」
男は神社の正面扉を指差す。
「誰もあそこ開けられないんだよ。鍵がどこにあるかわからないとかなんとか。祖父母の家にあれの鍵があったりするんかなーみたいな。」
「…まあ、探してはみます。」
「あそこ開いたらなんかワクワクしない?」
「確かに。」
静香ちゃんはそう頷く。好奇心で神様に近付くのはあまり良くないとは思うけど。
「とりあえず、今日はもう帰ります。」
「そうか。気を付けてな。」
私たちは石段を下って行った。
「ねえ、どうする?」
「神奈ちゃんとむぎのこと?」
「うん。」
どうするか。それは警察に言うべきかどうかだろう。だが死体を見つけたにしては場所が不自然すぎる。普通はあんな場所に人は行かない。私たちが犯人だと疑われる可能性がある。むぎが連れて来てくれたと言っても信じてくれるかどうか…。
「…わかった。警察に通報しよう。」
「そうだね。」
私の脳裏に神奈ちゃんの両親がよぎった。自分の娘が死んでいることすら知ることができないことに私は同情した。
警察は私たちの話に耳を傾けてくれた。霊が導いたなどあまり聞かない話ではあるが、苦渋の顔をしながらも信用してくれた。神奈ちゃんの両親は自分たちが一年間面倒を見ていた彼女とむぎが実は霊だったなんて知って絶望したことだと思う。でもあの人たちは一言、”見つけてくれてありがとう”と私たちに告げた。珠子さんと和夫さんは神奈ちゃんの所在に衝撃を受けると共に、”生きててよかった”と言ってくれた。
”祖父母の家にあれの鍵があったりするんかなーみたいな”。家に帰った後もあの言葉が私の中に残っていた。休校となって暇を持った私は調べたくなった。そしてあの男の霊も。あの霊の姿をよく見かけるようになってから霊絡みの事に巻き込まれることが多くなった気がする。
「何者なの。」
自室でそう呟く。もちろん返事は返ってこない。
次の日、私は祖父母の家を目指して1人外に出た。




