味方
この場にいた人間すべてが、私だって息を呑んだ。芸術とも呼べるほどの美しい曲線を、ナイフの刃は成していた。人間が力技でするような金属曲げとは程遠い。
「あんた…何したのよ…。」
「…知らない。」
あの男の霊の顔がちらつく。あの霊がやったのだろうか。確証が持てない。私は知らないと言うしかなかった。少なくとも、4人はこれが霊の仕業であることは一瞬でわかった。3人はおそらく霊など見たことはなかっただろうけど、それしか納得のいく言い訳がなかったから。
「っ!!!」
七瀬はナイフを放り投げてその場から一目散に逃げようとした。
「ねえ!ちょっと!」
日南と朱里は私の処遇をどうするべきかと七瀬を呼び止めようとしたが、彼女はさっさとこの異質な路地裏から逃げ出したかったようで、聞く耳を持たない。すると、
「き゛ゃ゛あ゛!!!」
七瀬は転んだ。何もないところで、何にもつまずいていないのに。
「っ!!!」
七瀬は起き上がらなかった。起き上がれなかった。だって、どう見ても明らかに、見えない何かが彼女の足を持ち上げていたから。彼女の足首が、ゆっくりと、捻じ曲がって行って…
ボキッ…
「き゛ゃ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!!!!!!!」
七瀬は痛みをこらえて両拳を握りしめていた。だがその謎の力は働き続けた。足首の筋組織を捻じ切ってもなお捻じれ続ける。
「う゛う゛う゛う゛う゛う゛!!!!!」
七瀬は涙声で唸る。皮膚の裂け目からどろどろと蜂蜜のように血が垂れる。
ブチッ…
足首が取れた。
「はあ…!…はあ!…はあ!…」
尻尾を自切したトカゲが逃げ出すように、自分を引きずる力が解けた隙に七瀬は這ってでも路地裏から出ようとする。路地裏から出たところで助かる保証などないのに。七瀬はナメクジのようにズルズルと、しかし着実に進む。
私たち3人はそれをただ茫然と眺めるしかなかった。動けない。下手に動けば次は自分があの標的になると思った。
七瀬の右腕が後ろに引っ張られる。
「い゛や゛あ゛あ゛!!!!や゛た゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!!!!」
七瀬は必死に左手を振り回して抵抗する。しかし何にも当たらない。そこには何もいない。
「やだあぁ!やああ!お゛ね゛か゛い゛!」
七瀬は泣きながら見えない何かに懇願する。七瀬の行動はその何かを怒らせてしまった。それが運の尽きだろう。その何かがその願いを聞き入れることはなかった。首を押さえつけられて固定された。
「あ…ああ…ぁぁぁああああ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!!!!!!」
グチャグチャグチャグチャ…
一瞬の出来事だった。右肩から左腰にかけて、七瀬の体が引き千切られた。
「きゃあああ!!!!」
数メートルあったはずなのに、その血しぶきは私たちにかかって来た。鉄の味がする。溢れ出る臓物。あまりのショックで私を押さえつけていた2人は悲鳴を上げた。
3人とも動けない。自分は空気であると自分自身に言い聞かせる。目立ちませんように。狙われませんように。
「き゛ゃ゛あ゛あ゛!!!!」
次に狙われたのは朱里だった。何かが彼女の長い髪の毛を引っ張る。
「や゛た゛あ゛あ゛!!!や゛た゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!!!!!」
逝きたくないと私の体に必死に掴まるが、その痛みに耐えかねて腕を放してしまった。路地裏の奥へと引きずられる。
「た゛す゛け゛て゛え゛え゛え゛え゛!!!!!」
朱里は泣きじゃくる。腕をこちらに伸ばすが、そんなもの、到底取る勇気は湧くはずがない。私からすれば虐めグループの一員。日南からすれば、ただ意見が一致しただけの仲間。友とは呼びづらい。
引っ張る力はいずれ上方向に変わった。頭皮だけで朱里の体が宙に浮く。
「き゛ゃ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!!!い゛た゛い゛い゛た゛い゛い゛た゛い゛い゛た゛い゛い゛た゛い゛い゛た゛い゛い゛た゛い゛い゛い゛い゛い゛!!!!!!!!」
宙に浮く自分の髪の毛に掴まって、少しでも痛みを和らげようと腕の力いっぱい体を持ち上げる。非力な女の子ながら、今できる唯一の策と言える。
「た゛れ゛か゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!!!た゛す゛け゛て゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛!!!!!っっっっっっっ!!!!!」
彼女を殺そうとする何かにとって、彼女の喚きは耳障りだったようだ。彼女は髪の毛から手を放して、必死に口元を塞ぐ。勝手に外へ出ようとする舌を、無理矢理口の中に押し込むために。
「っっっっっっっっっっっっっっ!!!!!!!!」
ブチッ、ズズズズズズズズズズズズ…
千切れた舌が口から零れ落ちると同時に、ありえないほどの血が、口から、鼻から、流れ出て来た。
「う゛ぅ゛う゛う゛う゛う゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛!!!!!」
その血は紺色のブレザーを赤黒く、真っ白なシャツを真っ赤に染め上げる。
…気が済んだのだろうか、髪の毛を引っ張る力が消えた…と同時に数メートルの高さから彼女の頭部が地面に急加速する。
グシャッ!!!
地面に叩き押さえつけられた頭部は、何の抵抗もなく、美しく破裂した。血が四方八方に飛散する。
日南の私に掴まる手がぶるぶると震えている。人間は賢い生き物、それが無慈悲にも彼女にこの惨劇の規則性を見出させてしまった。次は絶対に自分が標的となるのだ。七瀬、朱里の死から彼女は思考を巡らせた。そして、私に絡んだ瞬間からこれが始まったと理解した。私から一歩下がり、額から血を流す勢いで地面に擦り付ける。
「こ゛め゛ん゛な゛さ゛い゛!!こ゛め゛ん゛な゛さ゛い゛!!!あ゛や゛ま゛り゛ま゛す゛!!あ゛や゛ま゛り゛ま゛す゛!!!!な゛ん゛て゛も゛し゛ま゛す゛!!!た゛か゛ら゛と゛う゛か゛!!お゛ね゛か゛い゛し゛ま゛す゛!!!……………ゆるして…ゆるしてください……どうか……。」
全身がビクビクと痙攣している。もはや失禁する勢いだった。消えかけの声で日南は誠心誠意私に向かって頭を下げた。それは、命の危険から身を守るための自衛の謝罪にも見えたが、今後一切私には関わらないし嫌がらせもしないという本当の反省にも見えた。だが残念ながら、日南に許しを与えるのは私ではない。私のさじ加減で日南を救えるわけではないのだ。私は別にあの嫌がらせに頭を悩ませていたわけではない。そこまで謝るのであれば私は2つ返事で許しただろう。あとは、怒りの主がどう思うか。そもそも、私に謝ることがそれの怒りを鎮めることに繋がるのかもわからない。私の味方とは限らないから。
「…私を、…たすけてください……。」
日南はゆっくりと頭を上げる。涙、鼻水、ありとあらゆる体液を流しながら、目で私に懇願した。
私は周りを見渡した。この彼女の謝罪に、殺戮者はどう感じているのか。
数秒…何も起きない。静寂が続いている。
「…許して…くれたんですか…?」
日南は土下座の体勢のままキョロキョロと返事を確かめるように見回した。…何も起こらない。
「あ…ああ…ありがとうございます!!あ゛り゛か゛と゛う゛こ゛さ゛い゛ま゛す゛!!!」
日南は私に何度も何度も頭を下げる。立ち上がって私に抱き付いて来た。
「ごめんなさい!!ごめんなさい!!もうしません!!もうしません!!!!うわあああああ!!!!」
しばらく私の肩に頭を乗せて泣いていた。彼女にとって奇跡のようだった。
落ち着いて来たようで、私から放れた。涙や鼻水を腕で拭う。
「別の日に…お詫びのお菓子持って行くから。」
「…うん、わかった。」
「今まで、本当にすみませんでした。」
最後に日南は深々と頭を下げた。
「…またね。」
「…うん。」
日南は別れを告げると、血まみれの路地裏の出口へと、歩んだ。
1歩、2歩、3歩…ゴキッ!!…………
……日南の頭が180度捻じられた。絶望した顔と、最後に目が合ってしまった。力なく前方に倒れる。
「ウヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャ!!!!!!!」
どこからか嘲笑う声が聞こえた気がした。人間を弄んで、満足して笑い転げるように面白がってる声。
私はその場に座り込んでしまった。ドクドクと体が脈を打つ、路地裏中に充満する血肉と内臓の臭い。まともに鼻で呼吸できなかった。次は私なのだろうか?もう逃げる気も失くした。この見えない化け物に狙われれば、どこに逃げようと関係ないだろう。私は死を覚悟して、他人の血でふやけた自分の掌を眺めていた。
「きゃあっ!!!!!」
顔を上げると、そこには神奈ちゃんがいた。引き千切られた七瀬、頭を潰された朱里、首を180度回された日南、真っ赤に染まった地面と壁、その地獄よりも酷い光景に彼女は悲鳴を上げた。
「美咲ちゃん!!何があったの??!!!!!」
「…。」
その真ん中に私が立っている。私が犯人と思うのだろうか。そう思われても仕方がない。そんなことをぼんやり考えていると、神奈ちゃんが路地裏にそのまま侵入して来た。
「っ!!!神奈ちゃん!!来ちゃダメ!!!!」
咽るような臭いにやられそうになるが、それでもこらえて私は神奈ちゃんに近付かないように叫んだ。あの化け物がまだいるかもしれない。それでも神奈ちゃんは聞こうとしない。構わずにこちらへ走って来る。重い体を鼓舞して立ち上がり、制止しようとしたとき、神奈ちゃんは私に抱き付いた。
「良かったっ!!!…美咲ちゃんが生きてて本当に良かった!!」
その言葉に私の中の緊張の糸が切れた。抱き付き返したかったが、今の手じゃ神奈ちゃんを汚してしまう。私は静かに泣いた。ショックで手足の感覚がおかしくなってしまったのだろう。神奈ちゃんの言葉はとても暖かいのに、胸と背中には冷たい感触があった。
神奈ちゃんに支えられながら、私は路地裏を出た。
「…もう、大丈夫だから…。」
「本当?、本当に大丈夫?」
「うん。」
「わかった。…ねえ、何があったの?」
神奈ちゃんは振り返って黒く暗い路地裏を見返す。
「…そこの3人に…殺されかけちゃって。」
「怪我は?どこも血出てないよね?」
「多分…。」
今の自分の服や手についている血が自分のものなのかどうか判別できない。
「でも、本当に良かったよ!まさか霊に襲われちゃうなんて!!」
「うん、でも、どうしてか私だけ……。」
…………???????????????????????????????????????????????????????????????????????????????????????????????????????????????????????????????????????????????????????????????????????????????????????????????????????????????????????????????????????????????????????????????????
全身に鳥肌が立った。背筋が凍った。なぜ今まで私は気づけなかったのか。よくよく考えたらあまりにもおかしな話だった。神奈ちゃんはなぜあそこまで人気だったのか。男子はともかく、私が神奈ちゃんと話してるだけで女子からも妬まれ、恨まれた。ありえるはずがない。伊藤さんは死んだとき、霊となった。そしてその恨みの矛先はなぜか私に来た。普通なら自分を殺した犯人に恨みは向く。伊藤さんが死んだ日、神奈ちゃんも居場所が不明だった。もし神奈ちゃんが伊藤さんを殺したとするなら、誰もが狂ったように愛していた神奈ちゃんに殺されたとするなら、伊藤さんはきっと神奈ちゃんを恨んだりしない。神奈ちゃんに殺される状況の元になった私を恨む。すべてに納得が行った。
私は震える声で言った。
「…神奈ちゃん……私、…霊に襲われただなんて、…まだ一言も言ってないよ?」
「………………………………。」
神奈ちゃんは目を見開いて硬直した。まるでしくじってしまったように。
「美咲ちゃん…。」
神奈ちゃんは優しい目で私を見た。
「そんなこと…、わかってても言ったらダメだよ…。殺さないといケナクナッチャウジャン?」
「神奈…ちゃん?」
神奈ちゃんの体がグチャグチャと音を立てながら変形し出す。
「セッカクココマデキタノニ…。」
口が大きく裂け、ギザギザの歯が見えて来る。両肩から別の腕が生えて来て、四足歩行の姿勢になる。
「ワタシハズーット、ミサキチャントイルノガユメダッタノ。」
首や足があらぬ方向に曲がっている。
「イジメッコモ、ジャマナヤツモ、ミーンナコロシテアゲタノニ。」
「ミサキチャンハ、サイゴニウラギルンダネ。」
「デモワタシ、ソレデモ、ミサキチャンノコト、ダーイスキ、ダカラ。」
「ミサキチャンヲタベテ、コレカラモズット、イッショニイヨウネ。」
「ウヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャ!!!!!!!!!」
私はすぐに周りを見渡した。ここは道の真ん中、誰かいるはず。…しかし、周りのどこにも人影はなかった。
「ウゴカナイデネ…クルシマナイヨウニ、シテアゲルカラ。」
「ミサキチャンモ、イタイノハ、イヤデショ?」
「ナナセトカ、アカリミタイナ、シニカタハ、イヤダヨネエ?」
私は残った靴の片方を”神奈ちゃん”に投げつける。トスッと音を立てて、靴は下に落ちた。
「イテテ……ヤメテヨー。」
「コレデワタシガ、ヒルムト、オモッタノ?」
「アハハハ、ミサキチャンハ、カワイイイイイネ。」
「ハヤク、ハヤク、コッチニ、オイデ?」
「ハヤク、ハヤク、ハヤク、ハヤク、ハヤクハヤクハヤクハヤクハヤクハヤクハヤクハヤクハヤクハヤクハヤクハヤクハヤクハヤクハヤクハヤクハヤクハヤクハヤクハヤクハヤクハヤクハヤクハヤクハヤクハヤクハヤクハヤクハヤクハヤクハ゛ヤ゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」
ドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドド…
私は必死に走って逃げた。誰か、誰かいないのだろうか。何もできなくてもいいから、いてくれるだけでもいいから、それで私は、少しだけ安心できるのに。
少しながらの可能性にかけて、私は幽宮神社を目指した。でもここは学校付近。幽宮神社に行くためには電車に乗らないといけない。
「アハハハ!!!オイカケッコ、タノシイネ!!!ア゛ハ゛ハ゛ハ゛ハ゛ハ゛ハ゛ハ゛ハ゛ハ゛!!!!」
”神奈ちゃん”は私には逃げ切れないと思っている。わざと速度を合わせてギリギリの距離感を維持し続けていた。
駅のホームへの階段を駆け下りる。と、そこには今にも発進しそうな電車があった。
「エ゛ッ゛!!!!マ゛ッ゛テ゛エ゛エ゛エ゛!!!マ゛ッ゛テ゛ヨ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛!!!!!」
私は飛び込むように中に入った。続けて”神奈ちゃん”が入る直前、ガシャンとドアが閉まった。
「ア゛ケ゛テ゛!!ア゛ケ゛テ゛!!ア゛ケ゛テ゛!!!!!!!ア゛ケ゛テ゛ア゛ケ゛テ゛ア゛ケ゛テ゛ア゛ケ゛テ゛ア゛ケ゛テ゛ア゛ケ゛テ゛ア゛ケ゛テ゛ア゛ケ゛テ゛ア゛ケ゛テ゛エ゛エ゛エ゛エ゛エ゛エ゛エ゛エ゛エ゛!!!!!!!!」
バンバンとドアを叩きまくる。電車全体が大きく揺れる。
「早く!!!早゛く゛出゛し゛て゛!!!!!!!」
小さなモーター音とともに、電車はゆっくりと加速する。
「ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛!!!!!イ゛ッ゛シ゛ョ゛ニ゛、ノ゛リ゛タ゛カ゛ッ゛タ゛ノ゛ニ゛イ゛イ゛イ゛イ゛イ゛イ゛イ゛イ゛イ゛!!!!!!!」
加速する列車の後ろから”神奈ちゃん”は走って追いかけて来る。しかし、列車の加速は止まらない。ついには追い付けなくなってどんどん姿が小さくなっていった。
よく見ると、列車の運転席には誰も乗っていなかった。
「なんで!!な゛ん゛て゛誰゛も゛い゛な゛い゛の゛!!!!!」
深呼吸をして、自分を落ち着かせる。まだ、まだ終わっていない。
目的の駅に到着すると、ドアが開くなり、すぐにまた走り出した。幽宮神社へと真っ直ぐに。
石段を一つ飛ばしで上る。
「ウ゛ヒ゛ャ゛ヒ゛ャ゛ヒ゛ャ゛ヒ゛ャ゛ヒ゛ャ゛ヒ゛ャ゛ヒ゛ャ゛ヒ゛ャ゛ヒ゛ャ゛ヒ゛ャ゛ヒ゛ャ゛ヒ゛ャ゛ヒ゛ャ゛ヒ゛ャ゛ヒ゛ャ゛!!!!!!!!!!!!」
あの笑い声が聞こえて来た。もうすぐそこまで迫って来ている。
「はあ!はあ!はあ!来ないで!!!」
「カ゛ク゛リ゛ノ゛ミ゛ヤ゛ニ゛ハ゛、イ゛カ゛セ゛ナ゛イ゛イ゛イ゛イ゛イ゛イ゛!!!!!!!」
「ワ゛タ゛シ゛カ゛、ハ゛イ゛レ゛ナ゛イ゛、シ゛ャ゛ナ゛イ゛カ゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛!!!!!!」
階段を上り切った。あとは鳥居までの道を。あと少し。あと少しのところで、溝につまずいて、転んでしまった。
「ツ゛カ゛マ゛エ゛タ゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛!!!!!!」
”神奈ちゃん”の腕が伸びて来た。関節が何個も繋がって、マジックハンドみたいに。
「ひい!!!!」
とっさに目をつむる。………腕が来ない。
「オ゛マ゛エ゛エ゛エ゛エ゛エ゛エ゛エ゛エ゛エ゛エ゛!!!!!ダ゛レ゛ダ゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛!!!!!!」
おかしいと思って目をゆっくり開けた。
……私の前に、男の霊が立ち塞がっていた。腕が私に届くギリギリで、掴んで止めていた。
霊は腕を握りつぶす。
ボキボキボキボキ…
「ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛!!!!!!!!!イ゛タ゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛!!!!!」
反射的に”神奈ちゃん”は腕を引っ込めた。霊は相変わらず表情を変えず、”神奈ちゃん”を睨みつけている。
「ナ゛セ゛ワ゛タ゛シ゛ノ゛セ゛カ゛イ゛ニ゛イ゛イ゛イ゛イ゛イ゛イ゛イ゛イ゛!!!!!!」
「ワ゛タ゛シ゛ト゛ミ゛サ゛キ゛チ゛ャ゛ン゛ノ゛、フ゛タ゛リ゛ッ゛キ゛リ゛ノ゛、ハ゛ス゛ナ゛ノ゛ニ゛イ゛イ゛イ゛イ゛イ゛イ゛イ゛イ゛!!!!!!!!」
「コ゛ロ゛ス゛ウ゛ウ゛ウ゛ウ゛ウ゛!!!!コ゛ロ゛シ゛テ゛ヤ゛ル゛ウ゛ウ゛ウ゛ウ゛ウ゛ウ゛!!!!!!!」
”神奈ちゃん”は霊に向かって走り出した。
ダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダ……足が止まった。
「エッ………エエッ…ナ、ナンデ…ソレ…モッ……モッテル……」
気が付くと、霊の手には、一本の小刀が握られていた。
その刀身には、繊細で丁寧に、文字が彫られていた。
”幽宮神 太上老君 勅 悪霊去霊界 急々如律令”
”ここに、幽宮の神、及び、最高神、太上老君が尊き勅令を下す。悪霊よ、ただちに霊界に去るがよい。”




