↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
未練探し  作者: 理系
2/8

霊

「行って来ます。」

「行ってらっしゃい。…美咲。」

「ん?…」

「…気を付けてね。」

「うん。」

あれから、私は高校2年生になった。静香ちゃんは中学3年生。私が中学生の頃はよく遊んであげてたけど、勉強漬けの毎日になって会うのがご飯を食べる時ぐらいになってた。

"あの日"から霊に遭遇することはなかった。あの男の霊も。珠子さんは心配性で、あれから10年以上経ったのにまだ気にかけてる。10年以上経って何もないなら大丈夫と思ってもいいと思うけど。

私は電車で通学している。最寄りの駅に向かって歩いた。流れるように定期券を取り出して改札を通る。今日も満員。最初は少し息苦しかったけど、もう慣れた。

「美咲ちゃん、おはよー。」

電車から降りて階段を上ってる時、声をかけられた。神奈ちゃんも同じ電車に乗ってたらしい。気付かなかった。神奈ちゃんも同じ高校に通ってる。

「おはよ。」

他愛ない神奈ちゃんの話を聞きながら、私は校門をくぐった。数学教師の教え方が分かりづらいや、誰かと誰かが付き合ったらしいやら。神奈ちゃんは高校でも教室の中で一目おかれる子だった。積極的という言葉を体現する人だった。

「じゃ。」

「うん。」

神奈ちゃんとは教室は違う。私は1組であの子は3組。一緒にいるのは登下校時がほとんどだった。昇降口で別れてそれぞれの教室に向かう。

教室に着いた時に私の机にまず目が止まる。"ブス"。目立たない程度に机の端にそう書かれていた。離れた場所からヒソヒソと笑い声が聞こえる。私は虐められている。確証はないけど、神奈ちゃんとよく話しているのが原因じゃないかと思う。神奈ちゃんにこの事は伝えてない。迷惑をかけたくないから。何より、落書きとか、陰口とか、変な噂を広める程度の幼稚な虐めで、別に大きなストレスというわけでもなかったから。ちょっと我慢していれば悪化もしない。いつか飽きて止めてくれると思う。気にすることじゃなかった。私には神奈ちゃん以外にこれといった友達がいないから、この均衡を崩したくない。私は机に書かれたその文字を消しゴムで擦って消し、なかったことにしてあげた。

私の成績は、中間よりちょっと高いぐらいだったから、授業もテストも特に苦労しなかった。トップを目指してるわけじゃないし。

「美咲ちゃん、一緒に帰ろー。」

「うん、いいよ。」

「今日カラオケ行きたい。奢るから行こうよ。」

「うん。」

放課後になると早速神奈ちゃんが絡んで来た。”絡んで来た”はちょっと酷い表現かもしれないけど、自分から話しかけない陰気な私にとってはこれぐらいが嬉しい。一緒に階段を下りて、昇降口に辿り着いた。靴箱を開ける。何も入ってなかった。私はすぐにロッカーを閉じて神奈ちゃんに見られないようにした。

「ん?どうしたの?」

「ううん、何でもない。忘れ物したから取って来る。神奈ちゃんは先に外出といて。」

私の脳裏に虐めっ子たちのクスクスと笑う顔が浮かぶ。今日はちょっぴり虐めの度合いが酷い。きっとどこかのゴミ箱とかに隠したと思う。それをすぐに見つけないと…。

「…。」

神奈ちゃんはこういう時に限って勘が鋭かった。私を退かして私の靴箱を開け、中に何も入ってないことを確認した。

「…どういうこと?」

「靴、どっかに置いて来ちゃったから。」

「…そんなわけないでしょ。」

「…。」

「誰に虐められてるの?」

「…。」

「言゛っ゛て゛!!!!」

怒声が響き渡る。周りの人は一瞬目を向けるが、様子を察して気にしないように動いていた。

神奈ちゃんを怒らせてしまった。私は彼女に意地悪をするつもりじゃなかったのに。

「…伊藤さん。」

圧に押されて名前を答えてしまった。虐めグループのリーダーの名前。

「…。」

神奈ちゃんは黙って昇降口を上がり始める。

「ダメ!」

「放して!」

「もういいから!」

「…。」

沈黙が続く、次にどう出るか心理戦を繰り広げている気分だった。

「…わかった…。じゃあ、私も手伝うから靴探そ?」

「…うん。」

昇降口付近の教室、2年生の教室、ありえそうな場所を順に潰していく。

「美咲ちゃん!靴見つけたよ!」

振り返ると、神奈ちゃんが右手で私の靴の踵を挟み持って掲げていた。

「見つけたんだ。ありがとう。」

「うん!……」

神奈ちゃんの表情が見る見る暗くなる。気分転換をし切れなかったようだった。靴を持ったままブツブツとつぶやき始める。

「…私の美咲ちゃんになんてことを。ふざけやがって。私の美咲ちゃんが何をしたって言うの。同じ苦痛を与えてやる。美咲ちゃんを傷付ける奴は、私の楽しみの邪魔をする奴は、みんな死んでしまえばいい。」

「神奈ちゃん?」

「っ!!…ううん、何でもない。はい、どうぞ。」

「…ありがとう。」

「行こ行こ!」

「うん。」

神奈ちゃんは私の手首を掴んで引っ張るように学校を出た。

「カラオケ行こ!」

「うん。」

さっきの事であまり気が乗らなかったが、神奈ちゃんの機嫌取りのためかのようにカラオケに付き合った。

「やっぱり美咲ちゃん歌上手いね。」

「ありがとう。」

「いいなあ。歌上手い人ってモテるよね。」

「そんなことないよ。私はかっこいい曲とか歌えないし、バラードとか弾き語りしか歌ってない。」

「だからいいんじゃん!メロくてきっとみんな惚れちゃうよ。」

「あはは。」

私は乾いた笑いしかできなかった。あの時からその日の神奈ちゃんの笑顔は、怒りを紛らわすための作っただけの笑いにしか見えなかった。


今日はいつもの満員電車を降りても神奈ちゃんは来なかった。これは別に変なことではない。放課後はよく一緒に帰るけど、登校時は偶然会えばって感じだったから。でも今日は何か違和感を感じた。考えすぎなのだろうか。


その日は私を虐めてた内の伊藤さんが休みだった。元々あの人は不真面目な人だったから、サボりで休んでも別におかしいことではない。

でも、神奈ちゃんも休みだった。無遅刻無欠席が当然だと思ってたから、先生含めて3組のクラスメイトたちは少し驚いてたらしい。リーダーがいなくなってその日は虐めがなかった。計画をしていたのは伊藤さんだけだったのかな。特に何もなく、神奈ちゃんもおらず、その日は家に真っ直ぐ帰った。


「先日、伊藤さんが亡くなりました。」

次の日、担任の先生はそう告げた。教室中がざわつく。

「みなさん静かに。」

虐めに加担していた者、黙認していた者が私の方を振り返った。私は何もしていない。伊藤さんに何があったかなんて知りっこない。だって、私は復讐などしようとせず、ただ関わらないようにしていただけだったから。死因はなんだったのか。先生は詳細を答えることもなくその話は終わった。神奈ちゃんは今日も休みだった。

「あんたが殺したんでしょ?言いなさいよ。」

伊藤さんと手を組んで私を虐めていた子たちが、屋上へと続く踊り場で囲んで私の襟を掴んだ。

「私は何も知らない。本当。」

「嘘をつかないで。あんたを殺人で訴えるからね。」

私は本当に知らない。でも、心当たりはあった。

神奈ちゃん。神奈ちゃんが休んでから伊藤さんは死んだ。神奈ちゃんがそんなことをするはずはないと思ったけど、でも、どうしても悪い予感が頭をよぎっていた。

「水無月さんは今日も来てないけど、あんたなんか知ってるんじゃないの?それとも水無月さんも殺したの?」

「知らない。」

「連絡してるんじゃないの?何も知らないはずないでしょ。」

「いつも神奈ちゃんから連絡が来るから。私から連絡したりしない。」

「その”神奈ちゃん”っての止めてくれない?不快なんだけど。自慢したいの?”私は水無月さんと仲がいいんですよ”って。何で水無月さんはあんたなんかに執着するわけ?」

「知らない。小学校の時からずっと話してたから。」

「知らない知らないって…ふ゛さ゛け゛な゛い゛て゛!!あんたにもあの子と同じ苦しみを味合わせてあげるから。覚悟してよね。」

そう言うと、押し飛ばすように襟から手を放して、踏みしめるように階段を下りて行った。

「……知らないものは知らないよ…。」


放課後になった。あの人たちは横切る私を睨み付けてきたけど、特に何かをされることはなかった。

昨日と同じで、今日も独りで帰る。神奈ちゃんがいない帰路はとても静かだった。秋の日。夕日を背に巣へと向かうカラスの鳴き声が大きく感じる。今日も、あの時と同じように無意識に下を向いて歩いてしまう。

「お姉ちゃん、帰り?」

早足で付けて並走した誰かがそう言った。振り向くと静香ちゃんだった。

「静香ちゃん帰り道ここ通るっけ?」

「いいや?勉強疲れ対策でコンビニでお菓子買って帰るところ。試しにいつもとは違う道から帰ってみようと思って、そしたらお姉ちゃんがいた。」

「そう。」

「最近霊災が増えてるって、私の学校で注意喚起された。何かあったらすぐに近くのお寺や神社に逃げるようにって……お姉ちゃん絶対悪いことあったでしょ。」

「…なんで?」

「顔見たらわかる。」

「…。」

私は顔に出やすいらしい。虐めの事、伊藤さんの事、神奈ちゃんの事。これを静香ちゃんに言っても仕方がない。また迷惑をかける人を増やすだけ。

「ねえ、あの人ずっとこっち見てるけど、お姉ちゃんの知り合い?」

「ん?」

静香ちゃんの指差す方向を見ると、そこには"伊藤さん"が立っていた。

「え…。」

自分の見ている光景が矛盾している。先生が嘘をついたとは言い難い。車道を挟んで、"伊藤さん"は表情一つ変えずに真顔とも呼べない無表情顔でじっとこちらを見ている。

「なんで…。」

「やっぱり知り合いなの?」

「知り合いも何も、あの人死んだはず。」

「死んだ?!どういうこと?」

「今日朝の会で先生が言ってた。」

「でも、その人はあそこにいるんでしょ?」

もう一度同じ場所を見ると、もう"伊藤さん"はいなかった。

「あれ?どこに…。」

静香ちゃんはキョロキョロと周りを見てる。心臓の鼓動が聴覚を支配する。生き返った?幻覚?そもそも最初から死んでなかった?……霊?

嫌な予感が脳裏を走った。霊に会うことは滅多にない。普通の人ならそんなことは真っ先に考えたりしない。でも私は一度"見ている"から。"何かあったらすぐに近くのお寺や神社に逃げるように"。

私は静香ちゃんの手を取って走り出した。

「ちょっとお姉ちゃん!急に何?!」

「急いで近くの神社に逃げるよ!ここにいたら危ない!」

静香ちゃんは用心深い子だった。私の必死さを見て事態の緊急性を理解したらしく、手を放しても付いて来てくれた。

ここの近くには幽宮(かくりのみや)神社がある。神社に行く分には減るものはない。ただ一安心を得るために、私は必死にそこを目指した。百段近い階段を上っているだけなのに、終わりがないように感じた。横の林から殺意のある視線を感じていたが、そんなことに注意を払う気になれなかった。

階段を駆け上がり切ったところだった。運動不得意な2人揃って息を切らしてた。夕日が階段から鳥居までの道を赤く照らす。

「お姉ちゃん…。」

静香ちゃんの目線の先を見ると、"伊藤さん"が待っていた。鳥居と階段の間。私たちを行かせまいと道の真ん中にそれは立っている。

「伊藤さんなの?」

「…。」

それは黙ったままこちらを見ている。品定めではない。明らかな敵対の目だ。表情は死んでいたけど、そう思った。

「なんで私のところに来るの!」

「…。」

「お姉ちゃん、あの人様子がおかしいよ。」

「わかってる。」

”伊藤さん”は、カラスが観察するかのようにカクリカクリと首を折っている。

「伊藤さん聞こえてる?」

声をかけると、ぐりんと顔の位置を正面に戻して、すごい形相で私を睨みつけてきた。

「え…。」

何か地雷を踏んだ気がして私は息を吞んだ。

「オマエノ…オマエノセイ…」

「私の…?どういうこと?私何もしてない!」

”伊藤さん”が、グインッ!と片足を上げると、ダンッ!!!と地面を踏みしめた。そしてもう片足を上げ、再び、地面を踏みしめてこちらに歩んで来る。

ダン、ダン、ダン、ダンダンダンダンダンダンダンダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダ

”伊藤さん”は、壊れた人形のように走りながらこちらに迫って来た。

「ひぃっ!!!!」

静香ちゃんは腰を抜かして立てない。その間も、”伊藤さん”は右手だけはこちらに伸ばして、体をぐちゃぐちゃにしながら来る。

「静香ちゃん!!早く立って!!」

腕を引っ張っても静香ちゃんの体は上がらない。

「無理!!動けない!!」

もうすぐそこに右手が…。私の首を掴むはずだったのに、一寸で止まった。驚きで私も尻を付いてしまった。

右手は私を完全に捉えているのに、”伊藤さん”の顔は、上を向いている。…何かに引っ張られてるように見えた。まるで、頭を鷲摑みにされているかのような。

次の瞬きで、もう一人が現れた。”伊藤さん”の顔面をガシリと掴んで、”伊藤さん”を睨みつけている。それはあの”男の霊”だった。

「ア…ア…アアア…」

”伊藤さん”は必死で私に手を伸ばす。でもその霊がそれを許さなかった。

「アガガガガガガガ…」

男の霊は”伊藤さん”の頭を後ろに引いた。プツッという音とともに”伊藤さん”の首に裂け目ができる。

ブチブチブチブチブチブチブチブチブチブチブチブチ…

脊髄を引き千切られる音が聞こえたと同時に、神経と支えを失くした胴体がこちらに倒れてきた。

「き゛ゃ゛あ゛あ゛あ゛!!!!!」

その光景を見た静香ちゃんは恐怖して、顔をうずめるように私の腕にしがみ付いて来た。私は生理的恐怖でとっさにその胴体を手で払い退けた。動悸が激しい。自分が過呼吸になっていることに気付いていなかった。それに気付いた時には、あの男の霊はいなくなっていた。分かたれた”伊藤さん”の頭部と胴体だけがその場に転がっている。おかしいことに、それらからは一切の血が流れていなかった。思考が加速する。十数秒後、そしてついに私は我を取り戻した。

「はっ…静香ちゃん、早く神社の中に。」

「見たくない!…見たくない!」

静香ちゃんは涙声になりながらそう懇願した。

「目をつぶっててもいいから。とりあえず立って…ね?」

「…うん。」

静香ちゃんを抱きかかえるように持ち上げて、起立の補助をした。

血の流れない死体を横目に、一歩ずつ鳥居まで歩いて行く。静香ちゃんも落ち着いてきたようで、目を開けられるようになった。でもまだ私の腕にはくっついている。

「あとちょっとだから。」

「うん。」

メキメキメキメキメキメキメキメキメキメキメキメキ…

背筋に緊張が走った。ありえない音が背後から聞こえて来た。振り返ると、動けるはずもないのに、胴体が骨を鳴らしながら180度捻じれていた。四つん這い…とは少し違う。両手は地面を付いているのに足の爪先は後ろを向いている。次に何が起きるかすぐに予想できた。

「静香ちゃん!走れる?!」

静香ちゃんの顔は青ざめ切っている。静香ちゃんは振り返ってないが、あの音が嫌でも耳に届いたのだ。

ペタペタペタペタペタペタペタペタペタペタペタペタペタペタペタペタペタペタペタペタペタペタペタペタペタペタペタペタペタペタペタペタペタペタペタペタペタペタペタペタペタペタペタペタペタペタペタペタペタペタペタペタペタペタペタペタペタペタペタペタペタペタペタペタペタペタペタペタペタペタペタペタペタペタペタペタペタペタペタペタ

捻じれ切った体が地面を這いながら高速で迫って来た。私たちから鳥居まであと数メートル。

「静香ちゃん!!!急゛い゛て゛!!!」

焦りで声が上ずっている。

「はっ…!はっ…!はっ…!」

上手く息ができていない静香ちゃんと必死に鳥居を目指す。静香ちゃんは上手く走れない。迫る胴体は、もう7メートルほどまで来ていた。

「跳んで!!!!」

最後の力を振り絞って私たちは鳥居に飛び込む。

ガシッ。鳥居の内に入れていない足首を掴まれた。とてつもない力で外に引きずられる。

「いや!…嫌!!!!」

「はっ!!!お姉ちゃん!!!」

その姿を見た静香ちゃんは、私を守るためにようやく体を鼓舞した。

「お姉ちゃん!!!ダメ!!!!」

静香ちゃんは私の腕を引っ張る。それでもこの怪物の力には到底及ばない。

「グググガガガガガガガ…」

千切られた首の断面が形を変え始めた。大きく開いて、深海魚の口のように、串刺すための歯が生えてきた。

「オマエノセイ…オマエノセイ…オマエノセイ…」

「お姉ちゃんを放して!!!」

静香ちゃんは怪物の肩を蹴りつけるが、びくともしない。

しがみ付く床との摩擦で、手から血が出ていた。地面に引きずられる血の道ができる。

ガチンッガチンッガチンッ…

首の口を何度も咬合しながら足に近付けて来る。

「い゛や゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!!!!!!!!!」

私は遠くの誰かに聞こえることを願って全力で叫んだ。

ペタリ…

怪物の”口”に御札が貼られた。その瞬間怪物の動きが止まった。

「ア…アア…アアアアア…ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛!!!!!!!…」

怪物は私の足を放して、もがき苦しみだした。貼られた御札を必死に剥がそうとするが、御札に触れた部分からどんどん真っ黒に染まって炭のように崩れ落ちて行く。それは向こうにポツリと転がっている頭部も同じだった。

「ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛アアアアアアァァァァァァ………」

そして怪物は炭になって消えた。

「はあ…はあ…はあ…はあぁぁ。」

私たちはくたびれた。仰向けで地べたに倒れる。

「お前さんたち、散々な目に遭ったね。大丈夫かい?」

猛烈な疲労で上体を起こすことはできなかったので、顔だけを声の方向に向けると、一人の老婆が立っていた。

「えっと…神主さん?」

いっぱいいっぱいの頭で状況を把握する。

「そうさ。騒がしい声が聞こえるなと来てみれば…。」

老婆は山積みとなった炭の方に目をやる。

「”あれ”を見て神社に行くっていうのはとてもいい判断だった。判断を間違えていれば、今頃お前さんは足から順番に食い千切られていたね。おぉー、怖い怖い。…できるだけ”浄化”はしたくないがね。”あれ”の未練はきっとお前さんを殺すことだったろうさ。今回は致し方ない。……落ち着いたかい?ならさっさと立ち上がって中にお入りな。境内で地べたに寝転がるのは行儀が悪いからね。まあ、あんなことがあったなら多少お神さんは許してくれるだろうが。」

「はい、ありがとうございます。」

2人揃って立ち上がり体のいたる所を確認する。静香ちゃんは特に怪我などしていなかった。私の手は血だらけだった。

「痛っ!」

足を踏み出すと、足首が痛んだ。見ると、くっきりと手形の痣が残ってた。

「ふん、それの手当てもやらないとね。」

静香ちゃんの肩を借りながら神社の中に入って行った。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。