第7話 第2第3の雄姫様と『王族貴族肛門純潔検査』
「2人目の雄姫様、どうぞー」
赤髪の方が一歩前に出ました。
深みのある真っ赤な紅色の長い髪をキリリとまとめ(カツラです)、メイクアップした雄姫様は碧色の瞳で王太子を見据えています。
体躯はがっちりとしており、身長はゆうに190センチを超えているでしょう。
分厚い胸板を強調したドレスに逞しい腕が覗くそれは、どう見ても『武人』のそれです。
バッキバキに割れた腹筋を魅せる為に装着していた、申し訳程度のコルセットは着地の時にはじけ飛びましたね。
まあ、外付けタイプなのでドレスは無事ですけど。
少女嗜好で好色な伯爵がそのコルセットにぶち当たって伸びていますね。
確か、アルメナさんを手籠めにしようと画策した貴族です。
あ、勿論映像記録として雄姫様達に伝達済みですよ。
なので、紹介したら帰ります。
その存在感だけで空気がビリビリと震えるようです。
「筆頭聖女その②。聖女ヴィルヘルムがご挨拶申し上げます(甲高い声)。この度の引き継ぎの件、承りましたわ(地声)」
私はあんなにゴッツイカーテシーを初めて見ました。
「此処の王太子は雄っぱいが大きくて、王家の血を引く聖女をご所望でしたので」
「まあ、そうでしたのね(甲高い声)」
「違う!そっちじゃない!!!」
「まあッ私も雄っぱいには自信がありましてよッ♡是非ッ」
コンラートさんが自信満々に言います。蒼い艶やかな髪(地毛)と紺色の瞳、身長168㎝と男性としては小柄ながら、筋骨隆々な肉体(と剛毛)を際立たせるドレスを着用しています。
「新米聖女のコンラートがご挨拶申し上げますッ、カルディア国の元公爵候補にして風の精霊の加護の聖女でっす!」
「ご本人は候補から辞退しておりますが、現公爵のご意向にてカルディア国の王位継承権はそのままです。なので、雄姫様にございます」
「ええっ、その通りですわッ♡」
コンラートがウインクをしてラブリーな仕草をした瞬間──
「ひいっ!?」
ヤルム王太子が床に転がる神官長の背中に隠れる。だが神官長は既に泡を噴いている。
「違いますわ!」
コンラートが突然甲高い声で叫び、神官長の袖を掴んだ。
「私は……神官長様が気になるんですわ!運命とかそういう感じがするのぉ~♡」
「へ?」
神官長が目をぱちくりさせる。
「実は昔から……中年の禿げあがって脂ぎった男性を屈服させるのが大好きでェ。
もう、どストライク何ですの」
聖女コンラートはヤルム王太子の手をガシッと掴みお目目をパチパチと瞬かせます。
「そんなイケない雄姫様なので…容赦なくお・仕・置・き☆してくださいませ☆ヤルム王太子殿下っ♪」
王太子の顔が見る見る青くなる。
「やめろ!貴様!離せ!」
ヤルム王太子が叫ぶ。だがコンラートは恍惚とした表情で彼の耳たぶを甘噛みし始める。
「あらー。何か物凄く積極的ですねー」
「わたくしに万が一の事があってはならないと、彼…彼女なりのアピールですわ」
聖女ヴィルヘルムが若干呆れて言いました。
あれでしたね。
女性下着を着用している事を、出会って間もないヴィルヘルムさんに知られて『オワタ…』ってなっているコンラートさんに。
女性下着を着用しても違和感のない仕立て屋さんを紹介して、そういった事情に理解あるメイドを斡旋して自由に女性下着や可愛いものをお買い物出来るように手配したんでしたっけ。
「…驚きはしたけれど、それ以外は真面目で良き臣下なのですわ。民に迷惑を掛けないならば、その位の趣味嗜好を抑圧するべきではないと存じます」
その辺、寛容なんですよね、この人。
「……身体に不具合が出るような……人様に迷惑を掛ける性癖はどうかと思いますが」
今回は私の国の王女殿下を手籠めにしようと画策した事も在って、聖女コンラートの好きにさせることにしたそうです。
良いんですかね、聖女コンラートは神官長を狙ってますけど。
まあ、いいですか。
自身の性癖に理解を示してくれた当時12歳のヴィルヘルム王子に、生涯の忠誠を誓ったコンラートさん。
ヴィルヘルム王子を溺愛している義兄であるアーチバルド王太子殿下に、『ヴィルに妙な真似はしないよね』と圧を掛けられたものの…。
『我がカルディア国の守護者バルヒェットの名に懸けて!!ヴィルヘルム王子に不埒な真似は致しません!!』と断言したそうです。
まあ、実際不埒な事はしていません。ちょっとしたスキンシップはありましたが。
聖女ヴィルヘルムが大きな声で告げます。
「ヤルム王太子殿下ー。わたくしが聖女とはどういうものか、キッチリ教えたく存じます。
ご安心くださいませ。わたくし‥‥‥王族に恥じぬように‥‥‥純潔ですわ」
「!!!???」
そう言って、共和国や周辺諸国で王族貴族の義務とされている、『王族貴族肛門純潔審査:純潔』と書かれた書類を恥じらいながら取り出しました。
シレっと聖女エヴァンスと聖女コンラートも出していますね。
やったんですか、お尻の検査。あ、聖女ヴィルヘルムは‥‥‥えーっと、これで3回目でしたね。
私は思わず目を見張りました。
まさか本当に持ってくるとは思わなかったんで。しかも三人とも。
聖女ヴィルヘルムに至っては「恥じらいながら」ときたものです。
あの筋骨隆々の体格であの恥じらい‥‥‥恐らく共和国のヴィルヘルム王子の兄夫婦…王太子殿下夫妻の指南を受けてやっているのでしょう。
ここまで来たら役になり切った方が恥ずかしくないと踏んだのか、ノリノリです。
……聖女コンラートの『タチで良かった』って発言は聞かないでおきましょう。
「あら。私もしたわよ、両方」
ベルさんと聖女マグノリアもやったそうです。両方の検査。
「当然。――そこのハーレム入りする貴族令嬢もやるわよね?」
令嬢がビクッ!!っと身体を振るわせました。
なお、この『王族貴族肛門純潔審査』は不正防止で第三者機関が入ります。
女性にとっては、相当屈辱的な検査になりますねー。主に、その過程の部分で。
「ふふッ。雄姫様達の肛門純潔検査を受けた証明書……。
次は、ヤルム王太子殿下もそこの公爵令嬢も、『王族貴族肛門純潔検査』に挑戦して頂きましょうか?」
「勘弁してくださいー!」
「ダメ。受けなさい」
……この令嬢、もしかして。あの『王族貴族肛門純潔審査』を知らないのでしょうか。
男性貴族でもこの検査の噂は知れ渡っていて、恐怖対象になりつつあると聞くのに。
「あら、勿論……王太子殿下のお尻も調べますわ」
「ヤメロォ!」
王太子は自分の尻を庇うように身体をくねらせます。
「雄姫様な聖女たちは『王族貴族肛門純潔審査』を通過しておりますの。これぞ正真正銘の『初物』。
王太子殿下のお好みかと存じますわ」
聖女エヴァンスの澄んだテノールの裏声が、まるで祝福の鐘のように響きました。その言葉に王太子殿下の顔色が土気色から青白へと三段跳びです。
「なっ……まさか……」
王太子殿下はもはや声も出せず、口をパクパクさせています。
「お待ちください!そのような審査の証明が必要なのですか?!」
やっと王太子殿下が声を絞り出しました。声は雄姫様みたいに裏返っていますね。
「ええ。当然でございましょう?無論、ヤルム王太子殿下もなさってくださいませ?」
聖女ヴィルヘルムがニッコリと微笑んだ。その笑みは女神像のように慈愛に満ちているはずなのに、190㎝を超える肉体と甲高い声のギャップで妙なプレッシャーを生み出す。
聖女エヴァンスも静かに頷いている。…ほんのり頬を染めて恥じらっている辺り、こっちもノリノリですね。
絶対楽しんでいますよ。
聖女ヴィルヘルムが恭しく書類を掲げます。
「なっ……何故私がそのような恥辱を……!」
「王太子殿下。これは国家間の問題です。複数の国、イデア神道の筆頭聖女様方の雄姫様を召喚し侮辱されたのです。
これを無視すれば、どのような事態になるか……賢明なる殿下ならお分かりいただけますよね?」
「ううっ……しかし……尻の穴を調べられるなど……」
「王族貴族肛門純潔審査条例とは文字通り肛門性交の有無を確認する条例です。
高位貴族の脱糞事故で発令されたもので、当初はグリンホルン共和国だけの法律でしたが、他国も追随する形で導入されました」
淡々と続ける私。こんな珍妙な条例の説明をする日が来るとは思わなかったんですけど、記事のネタとしては面白いかもしれないですね。
「数人の検査技師及び侍医と、不正防止の為魔塔の魔術師が第三者機関として監視します。検査は通常通りの肛門科検診と同じ手法で行われます」
「つまり……普通に診察台に乗って……?」
王太子が震える声で尋ねる。
聖女ヴィルヘルムが補足するように言った。
「検査中の不正防止の為、初期から中級以下の魔術行使は予め禁止とされていましてよ。また、検査後は本日の行為に支障が出る恐れがある為、必ず自室で休養すること。違反者及び脱走者は厳罰に処されますわ」
(野太い声と丁寧な口調のギャップが凄まじい)
「そんな……非人道的だ!」
「誰もが尻込みしましたので、わたくしが先陣を切りましたのよ。仕切りはあるとはいえ、元老院議会議員全員の前で」
聖女ヴィルヘルムが懐かしそうに告げます。
実際、彼の書類には№1と堂々と刻印されていました。
そこまでやるか。やったんですよ。戦争回避の為に。
「もちろん、聖女エヴァンスも受けておられますわ。神龍様の加護を受けた身として、このような些事で疑念を持たれるのは許されないと」
聖女エヴァンスが小さく咳払いをした。その端正な顔に微かな羞恥を浮かばせて。
威圧感をゴリゴリ放っていく侯爵ですが、妙な所で腰が軽いんですよね。
「まあ、どちらにせよ。現状四ヶ国の高貴な御方に喧嘩を売っている以上」
私はにっこりと笑って断言する。
「王太子殿下のお尻検査は確定です」
項垂れる王太子ですが、聖女エヴァンスの声で姿勢を正した。
「正式な記録です。公文書偽造ならぬ公文書偽装は重罪ですので、どうぞご納得を」
聖女エヴァンスが補足します。
「違うッ! そういう意味での『姫』ではない! 貴様らのような筋骨隆々の野郎どもを誰が姫と呼ぶかッ!」
王太子殿下が声を枯らして絶叫します。しかし……
「まあッ! 筋骨隆々でいけないことがあるのかしら!?」
聖女コンラートが目を輝かせました。
「だって『雄姫様』は王太子殿下がご所望されたのでしょ? 納得いただけるまで私が個人授業を──」
「いらん! 近寄るな! 触るな! 汚らしいッ!」
王太子殿下はまるで子鹿のように震えながら後ずさります。が、
「あらぁ~♡ そんな態度を取るなんて……」
聖女コンラートがふわりと舞い上がるような優雅さで王太子殿下の背後に回り込むと、
「もっと虐めて欲しいのかしらぁ?」
耳元で囁きました。
「ひぎゃああああッ!!」
王太子殿下は完全に腰砕けになり、床にペタンと座り込んでしまいました。周囲の神官たちも青ざめて距離を取り始めます。
「はいはい、そこまでです。まだ雄姫様の紹介は続くんですから」
私はパンパンと手を叩きました。
まだ紹介していない雄姫様がいますからね。サクサク行きましょう。




