第5話 ちゃんと女性も招集しましたよ
天蓋の召喚ゲートから現れたのは、濡れ羽色の長い髪を無造作に背中に流した女性です。長いまつ毛で陰影を帯びた金の瞳は深淵を覗くかのように底の見えない色合い。
身に纏う衣装はシンプルな黒いドレスですが、それがかえって彼女の静かな威厳を際立たせています。
肌は白く透き通るように美しく、まさに絶世の美女。馬鹿王太子が好むボンキュッボンですね。
真打登場と言わんばかりに、皆が見惚れていました。
ですが。
分かる人には分かるのでしょうね。
鼻の下を伸ばす王太子に、側近が『あの女はヤバイ』とガタガタ震えて進言しています。
「死の‥‥‥聖女‥‥‥‥」
「せ…聖女殺しの‥‥‥大量虐殺犯の!!邪視の魔女ですよ殿下!?」
「えっ」
アハー。
雄姫様って言ったじゃないですか。
それにふさわしい御方をご紹介していくんですから、深窓の令嬢は呼びませんよ。
『世界の調整者』諸侯王・序列『総裁』。
邪視の魔女ベアトリス。
ベルさんは邪神や魔王寄りの序列最下位の存在です。まあ、魔女ですが姫属性もあるでしょう。諸侯王ですし。
何で神官長達が怯えているかと言いますと。
118年前。神が定めた聖女及び、歴代の教皇を呪い殺した張本人だからです。
まあ、ベルさんもあんなことを聖女がやらなければ、そんな虐殺はやりませんけどね。
その聖女がやらかしまして。
神託を受けた聖女なのに、教会の権威を高めるために無実の人たちを魔女として処刑しました。
当時の人口の3割は粛清されましたね。
で、ご友人を処刑されて怒れるベルさんに殺されました。
ついでに、無実のご友人の処刑を悪意を持って見物していた、王都の5分の1の民衆たちも。
魂を込めて『死』を送ったからでしょう。神の恩恵を受けた聖女は二度と生まれなくなりまして。
現代は聖女に準じる者に過ぎない精霊の加護の強い者を『聖女』にしました。
なので、私達の上位互換の聖女を殺害したベルさんが、どれだけ強力な聖女かと言いますと、…ねえ?
そういう経緯で聖女が大嫌いだからか、内容がそれはもう穏やかではありません。
神の腹心である先代バーンベルク侯爵に強制的に『聖女』という役割を与えられて以来、不服そうではありますが、今は大人しく聖女の任に就いています。
ある種の『雄々しい経歴』を持っているので、抜擢されました。
ちなみに何でベルさんが筆頭聖女かと言いますと。
『邪視で助けられました。何度も』
『目から血を流しながら世界終焉に抗う様は聖女に相応しい』
『悪意や邪念の有無を見極めるのに長けている。ついでに、聖女デイジーの鏡の加護を併用した攻撃は凶悪極まりない』
って、理由ですね。
本人は非常に不服でしたが、子供に弱いので押し切られました。
‥‥‥ん?何でヤルム王太子殿下は目をつむっているのでしょう。
ベルさんに視認された時点で、術の範疇なんですけど。
本気で術を凌ぎたいなら、眼球を刳り抜くくらいしませんと。
それを伝えましたら、王太子殿下や神官たちの地面が濡れ始めていますね。失禁でしょうか?
まあ、漏らしたくなる気持ちは理解できます。普通ならトラウマ級ですし。
でも、聖女ですから、それなりに手加減してくれますよ?
ベルさんご本人は不遜に笑って雄姫様方の元に向かいました。
「さて。馬鹿王太子に紹介しよう。この者は当代の筆頭聖女だ。彼女の存在が許されているのは、世界の調停者であり、真なる魔王を足止めすべく最前線で奴を封じ込めた故にだ。」
「一瞬だけよ。直ぐに邪視を潰された」
聖女殺しの際も邪視を潰されたそうですが、再生能力高いので問題なく使用できるそうです。
聖女殺しの際も邪視を潰されたそうですが、ご本人の再生能力が高いので問題なく使用できるそうです。
「後はマグノリア王女の通訳さんが揃えば紹介できますねー」
「フシャアアアアアアアア!!!!!」
けたたましい鳴き声と共に、マグノリア王女の通訳兼侍女として一緒に降り立ったのは同じ二重王国の子爵令嬢。
煮詰めた蜂蜜色の金髪に同じ色の狐の耳と青い瞳が印象的な小柄な少女フォクス・フェイスさんです。
…その横には、侍女の出で立ちで帯剣した猫獣人の青年が、王太子に向かってフシャーフシャー言っていますね。
「ああ、彼…コホン。こちらは私と同じく侍女のウィローです。ウィローは私との運命の番なので、少々興奮しておりますが」
「フギャアアアアアアアシャアアアアアアアアアア!!!!!」
そう言って手の甲にある番紋をお互い見せてくれました。
…ウィローさんが王太子に中指立てそうになっているのを、フォクスさんが抑えています。
『運命の番』とは、天命によって定められた魂の番ですね。
番への執着は抗えない引力となり、番に愛を囁くことが至上の喜びとなるのだとか。
番への執着は問題視されていることもある上、王太子がハーレム発言していますからね。
フォクスさんを取られないように威嚇するくらいは可愛いものです。
「ぐ……ぐわぁ!?」
突然の悲鳴に皆が振り向くと、壁際で神官長が尻もちをついています。背後にいつの間にか近づいていたコンラートが、その立派なお尻に熱烈な視線を注いでいました。
「あらあら~? 大丈夫ですか神官長様♡」
「ひぃっ!? コンラート殿!? いえ!これは……これは恐怖で……!」
「コンラート。神官長がどストライクだからと言って、殿下の御前ですわよ」
聖女コンラートの野太い声と艶めかしい笑み。そして聖女ヴィルヘルムの発言に神官たちが悲鳴を上げています。
一方マグノリア王女は巨大な姿のまま退屈そうに欠伸をしていました。
すみませんねーグダグダで、さっさと紹介して、出て行きたいんですけどねー。
取り敢えず揃ったんで、自己紹介できそうです。




