第2話 雄姫様(おひめさま)計画発動
何で、筆頭聖女の王子や貴族たちが女装しているかと言いますと、
ぶっちゃけ、ご本人たちの権力乱用防止です。
いきなり500人以上の聖女が覚醒しまして、それはもう混乱しました。
なので、代表の聖女として筆頭聖女を四人程選出したんですよ。
取り敢えず、半神半人・王族・魔女・一般枠()が代表になりましたね。
え?魔女が何で筆頭聖女かって?
この辺は他の聖女の希望ですよー。
で、聖女の扱いですが…。
真っ当に信仰する国もあるんですけど、馬車馬の如く酷使する所もチラホラ。
手に職ある場合は兎も角、孤児や平民で神殿や教会しか行き場が無くて労働環境劣悪なパターンもあります。
その辺りの問題解決に筆頭聖女たちは頭を悩ませていました。
「バーンベルク家や貴様の…王族の名を出して連中を諫めるのは簡単だ。
しかし、それでは本来の聖女の役目とはならない」
「次世代に王族貴族が筆頭聖女に選ばれる慣習を付けるのも問題だな。
それと、平民や孤児の聖女は神殿に囲われ、重労働を強いる。
そういう悪習を断ち切り、聖女らを保護し世界の平穏を維持する機関の役目を担うべきだ」
「力で屈服させるのは簡単だけれど、自身で事を収める能力が芽吹かなくなると問題ね。未だに他責思考の馬鹿神官共の教育も要るだろう」
「聖女と王族貴族の兼業だとその辺曖昧ですし、どれだけ自国の王権やらを抑え込めるかでしょうねー」
他の聖女も交えて悩み、日中の政務や仕事を終えて作戦会議をする日々。
ちょっと疲れが見えてきた頃でした。
「いっそ、王族だとか貴族だとかの威厳をかなぐり捨てて、女装でもするか」
三日ほど完徹だったヴィルヘルム王子の発言に、全員が食いつきました。
「「「それだ」」」
‥‥‥全員テンションがおかしかった気もしますが、まあいいでしょう。
現地の聖女が冷遇された時。
派遣される聖女が能力はあれど、筋肉の鎧を纏った女装集団ならば?
馬鹿な連中でも聖女に依存する危険性を抱くのではないか。
人々を救う一助となる聖女に垣根無し。
女装することで自らを戒め、内部での序列の壁を取り払えるのでは。
「神への儀式で男性が女装する事は珍しくはない。ふむ、逆に男装での儀式も取り入れるのも良いな」
「はあ…。幸い武闘派で筋骨隆々の聖女もいるけれど。私は筋肉付けられないわよ、義足だし」
「貴女の能力は500人の聖女の中でも凶悪です。その美貌と凶悪な能力、我々の珍妙な出で立ちとの落差で馬鹿どもに逃げ場はないと認識させられる」
「あら、そう?じゃあ、そのまま行って脅してくるわ」
「そうなると、初手の様子見は私が担って構いませんよね。
鏡の加護で相手方の出方を終始、映像記録として中継できますし」
「えっ、それで行くのか」
完徹三日目の聖女ヴィルヘルムの発言は、冗談のつもりでしたが……。
「──女装ですか」
ヴィルヘルム王子の側近、新米聖女コンラート(男)が瞳を輝かせました。
190㎝のヴィルヘルム王子に比べると小柄に見えますが、蒼い髪のツーブロックを後ろで結わえた、38歳になる副官ですね。
確か、聖女ヴィルヘルムのお母様――側妃の母国の元次期公爵候補でしたっけ。
ただ、ご自身の性癖を危惧して自ら辞退。
弟さんに跡目を譲って、自国の子爵令嬢の母君を持つヴィルヘルム王子の護衛騎士に昇りつめた実力派ですね。
「素晴らしい。我が家の密室に保管していた『男性専用ランジェリー特注コレクション』が遂に日の目を見る時が来たのですね」
「あっ」
聖女ヴィルヘルム、失念していたようです。
聖女コンラートが女性下着を着用する男色家だと。
年上の男性が好きすぎるので、生涯独身でいるそうです。
「そういえば、そうだったな」
幼少期からのお付き合いらしく、馴染み過ぎていたので忘れていたそうです。
「はいっ、殿下にこの趣味を知られても受け入れられた御恩を!ようやく返せますっ」
「あ、ハイ」
新米聖女コンラートの熱量に押され、聖女ヴィルヘルムは引き気味に頷くしかなかったみたいですね。
「ふむ、こちらでも仕立て屋の手配しよう」
隣国の王子の腹心の発言に興味をそそられたようです。
エヴァンス・バーンベルク侯爵が興味深い様子でその方面で進めます。
普段は凛とした眼光がどこかウキウキしていました。
この方、そういったノリが案外良いんですよね、普段不愛想なんですけど。
「胸囲はどのあたりまで拡張可能だ?」「腰のラインはどうすれば優雅に見える?」
侯爵の質問攻めにコンラートが興奮気味に応じます。
「侯爵様はその筋肉を魅せる美しいラインに」「下着はご安心ください。女性用デザインですが男体に合わせた採寸も可能です」
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「あら、教皇…私の夫も女装するそうよ」
魔道通信機でやり取りしていたベルさんからまさかの爆弾発言。
「えっ、ベルさん。ローレル教皇、御年92歳ですよね?」
「聖女に高位貴族に応対させるような礼節を叩き込むのならば、本人も受けるそうよ。
ただ、ハイヒールは心配だから、ローヒールで良いかしらね?
――どうしても講師がハイヒールを夫に履かせたいというならば、私を通して貰うけれど」
ローレル教皇は、神の教えを権力で縛り付けない為ならば、淑女教育も王太子妃教育だって受けるとのことです。
マジすか。
ローレル教皇は118年もの間、死の呪いが掛かった教皇の座に就き3年が経つ御仁です。
最長で3日で死ぬ事態となり百年以上、空位だったんですよね。教皇の座。
ある種の奇跡を持つ教皇自ら女装するならば、一介の神官や神官長が拒否できる筈がないでしょうけど。
どんな姿になるのでしょう。
何より、女装による動揺よりも90歳超えの教皇がここまでやる衝撃の方が大きい気がします。
そして、筆頭聖女ヴィルヘルム王子や侯爵などの主要人物が率先して女装するなら、彼らの関係者も従わざるを得ません。
「……貴族って色々凄いんですねぇ」
「そこの王子は尻の穴の潔白を周知させて戦争回避しただけある」
「うるせえ!高位貴族が諸々やらかしたからなあ!!」
ヴィルヘルム王子は額に青筋を浮かべながら、机に拳を叩きつけた。
「……あの事件で、国王から肛門を公開検査しろと命じられ……!」
そりゃあ、大戦の英雄で男色家の側近がいる王子が潔白なら、向こうも矛を納めるでしょう。
聖女コンラートが目を輝かせて記録帳を開く。
「『肛門純潔審査条例』施行により、我が国の老齢の貴族も含めた3割の肛門に異常がありまして……」
「うっせえよ!!!多すぎなんだよ!!!!フィギングって何だよ!!!???」
あれでしたっけ。生薬を尻に突っ込む貴族が結構居たんでしたっけ。
そこへ静かな声が響きました。
「ふむ、大馬鹿者の中には聖女の純潔を重要視する。…ふむ」
「おい、何だ。なにを考えている?」
「奴らの望む、高貴な淑女で純潔な聖女を派遣する手筈を整えてやろう」
筆頭聖女エヴァンスさんの目が怪しく光りました。
「……もう誰も止められないぞ」
聖女ヴィルヘルムが遠巻きに見守る中、計画と製作は加速していきました。




