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期待外れの絵師ですが、描いた聖画が奇跡を起こすようです  作者: シロハラ
第一章 ことの発端は突然で

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第三話:前線からの急報と、見直された価値

レオンが転移魔法で国境へ発ってから、一週間が経過していた。


薄暗い物置小屋に一人取り残された私は、彼が残していってくれたわずかなパンと水を口にしながら、手持ち無沙汰に過ごしていた。驚くべきことに、私が絵を描き終えてからというもの、この埃っぽかった部屋の空気は驚くほど澄み渡り、ひんやりとした心地よさを保ち続けている。


「レオンさん、無事だといいな……。もう一週間か……」


彼曰く、王都から国境までは通常の手段(馬や馬車)を使えば片道だけで一週間近くかかる距離らしい。彼が国境に無事着いたとしても、こちらに戻ってくるにはそれなりの日数がかかるはずだった。


私の拙い絵が、本当に彼の役に立っているのだろうか。

そんな不安に押しつぶされそうになっていた、ある日の夕暮れ時のことだった。


――バキィン!!


激しい破壊音とともに、部屋の頑丈な鉄扉が文字通り「蹴り破られた」。


「ひゃいっ!?」


驚いてベッドから跳び起きると、そこには肩で息を荒くしたレオンが立っていた。

その背後には、数日前、私を「外れ」と罵ってこの部屋に放り込んだ大勢の大神官たちの姿もある。なぜか全員、幽霊でも見たかのように顔を真っ青に引き攣らせ、ガタガタと震えていた。


「スミレ! 無事だったか!」


「レ、レオンさん!? 扉、壊れてますけど……って、その鎧、ボロボロじゃないですか!」


見ると、彼の白銀の鎧は一週間前以上に傷だらけで、焦げ跡や激しい衝撃で抉れた痕が無数に刻まれている。国境での激戦を終え、寝る間も惜しんで一週間かかる道のりを馬で駆け戻ってきたに違いない。しかし、レオン自身は驚くほど血色が良い。むしろ、漲る魔力を纏っていた。


「私は無傷だ。それどころか、すこぶる体調が良い。……スミレ、君の絵が、国境守備隊の全滅を救ったんだ!」


レオンが興奮を隠せない様子で私の両肩を掴む。

彼の話によると、彼が転移で戻った直後、国境の防衛線に過去最大規模の魔獣の群れが襲来したらしい。砦の防壁が砕かれ、兵士たちが退路を断たれた絶体絶命のその時、レオンが私の描いた「琥珀色の結界の絵」を掲げたのだという。


「絵から眩い光の壁が展開され、押し寄せる数百の魔獣を一歩も近づけさせなかった。それだけじゃない。結界の光を浴びた負傷兵たちの傷が、その場でまたたく間に塞がっていったんだ。四肢を失いかけていた者さえ、完全に元の姿に再生した」


「ええっ!? 再生って……私の絵、そんな効果まであったの!?」


イラストレーター時代の私なら「作画崩壊も一発で直せる神作画ですね」と冗談を言えたかもしれないが、現実の命の再生となると話は別だ。絶句する私を余所に、レオンの後ろから大神官が揉み手をしながらすり寄ってきた。


「お、おお、素晴らしい! まさか『絵師』とは、描いた聖画に神の奇跡を具現化する、至高の固有スキルだったとは! さあ、スミレ様、このような汚らしい物置などはすぐに引き払い、中央の大聖堂へお移りください! 最高級の客室と、国中から集めた贅を尽くした画材をご用意させますぞ!」


あまりの調子の良さに、私は不快感で胸が冷めていくのを感じた。

鑑定結果が出た瞬間、私をゴミのように扱い、衣服を破廉恥だと罵り、ここに閉じ込めたのは間違いなくこの老人たちだ。


言い返そうと口を開けかけたその時、私の前にレオンが大きな体で割り込んだ。彼は腰の長剣の柄に手をかけ、神官たちを射殺さんばかりの冷徹な目で見下ろす。


「勘違いするな、強欲な聖職者ども。スミレを『外れ』と呼び、この極寒の物置に幽閉したのはお前たちだ。彼女の安全と身柄は、これより我が国境守備隊が全面保護する。王宮にも教会にも、指一本触れさせん」


「な、なんだと!? レオン、一介の守備隊長の分際で、教会の決定に背く気か! その女の力は国の利益となるのだぞ!」


「背くのではない。国境の兵士三千人の命を救った恩人を、我々の誇りに懸けて守るだけだ。彼女をただの『便利な道具』としてしか見ない者に、この奇跡の筆は渡さない」


レオンは神官たちの怒号を完全に無視すると、私に向き直って優しく微笑んだ。その涼やかな青い瞳には、深い敬意と、それ以上の熱い情熱が宿っている。


「スミレ、ここを出よう。私の砦へ来てくれないか。君にふさわしい、陽の光がたっぷり入る最高の工房を用意する。……君のその美しい手を、二度とこんな埃まみれの場所で汚させはしない」


彼が差し出してきた、剣ダコのある大きな、けれどとても温かい手。

私は迷うことなく、その手の上に自分の手を重ねた。

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