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理由

森を歩き続け数時間、幸いにも蜘蛛には遭遇していない。そしてもうすぐ夜になる。サキュバスの言葉を信じるならここから先休憩をするタイミングは無い。私はもう一本の水筒に入った水を飲み干すと、地面に投げ捨てる。お行儀が悪いが、できるだけ荷物は減らして進みたい。リンゴも同様に狼男に喰われず残った分の内半分を捨てる。

「ふうっ、大分軽くなった」

『バキン!バキン!』

荷物をまとめ終え歩き出そうとした時、遠くから木々の割れる音が聞こえてくる。急いで草むらに隠れると蜘蛛が木々を破壊しながら姿を現した。以前よりも目が血走っているように見受けられる。今遭遇するのはまずい....どうにかしないと...。

『どこ...どこなの?』

しかし、その焦りは蜘蛛の発言によってかき消される。蜘蛛は何かを探しているのか?そういえば川沿いで初めて見かけた時も向日葵に対して『かえせ!』と叫んでいた。仮に蜘蛛が探しているものを見つけることができれば襲われないだろうか?いや、話をする前に盗んだ犯人と決めつけられ襲われる未来しか見えない。やはり夜までやり過ごすしかないのか?

『見〜つ〜け〜た!』

「え!がっ....う..あ」

音は立てていなかった。頭隠して知り隠さずなんかもしていない。しかし私は蜘蛛に見つかった。

痛い.....

蜘蛛に首を絞められ、かろうじで意識を保っているが首から上に強烈な痛みを受けている。


『ズドン!!』

『キエええええ』

全身に力が入らなくなりかけた時、あたりが突如土煙に覆われる。視界が霞み、聞こえるのは蜘蛛の甲高い絶叫であった。私は持てる体力を振り絞り木陰に飛び込む。私の視界に入ったのはフクロウに襲われる蜘蛛の姿であった。どういう事だ?フクロウが蜘蛛を襲っているのは自然な事だとして、空が完全な夜になっていた。先ほどまでの空は夕日の一歩手前の状況であり、夜まで数時間はあった。蜘蛛に首を絞められ意識がなくなっていたとしても、夜になるまで蜘蛛が何もしないのはおかしい。なぜなら蜘蛛の目的は明らかに私であった。

『あああああ!』

蜘蛛は本当に夜目が効いていないようだ。フクロウの空からの攻撃に対して闇雲に腕を振ったり、折れた木々を空に投げつけている。フクロウはそれをなんなんく避けてはいるが、6本の腕で繰り出され続ける物量により決定打を決められないでいる。


『お...あああ!ぎゃあああ$%&$&”」

しかし決着は突然やってきた。蜘蛛の波状攻撃の合間を縫って突撃してきたフクロウの攻撃を避けようとした蜘蛛は折れた木々に足を滑らせたのだ。波状攻撃をするため、2本足で立っていたのが仇になった。それによりフクロウの攻撃を避けられず後ろに倒された。そしてこれまた折れた木々の一つが蜘蛛の腹辺りを貫いた。それに対して蜘蛛は言語化できない声を上げる。ただ勝利したのは蜘蛛の方であった。蜘蛛の絶叫によりフクロウは気絶し墜落したのである。そして自らの自重により死んでしまった。最悪だ、ここからすぐに離れないと....

『ああ...ああ...いた、よかった』

そう思った時に蜘蛛から発せられた言葉が気になり振り向くと、貫かれた腹からは全身真っ黒の2体の人型が出てきていた。人間で言うならば小中学生くらいの身長だろうか。蜘蛛はその2体を優しく抱擁している。....母親なのか?

『もう...離さない、もう....離さない!』

すっかり油断していた。蜘蛛は腹に刺さった木を物ともせずにこちらに近づいてくる。私は身構えるが、蜘蛛はどこからかカゴを取り出す。

『これあげる』

「あ...ありがとう」

入っていたのはブドウであった。私が蜘蛛の豹変ぶりに驚きを隠せないでいると、蜘蛛の体がゆっくりとこちらに倒れてくる。

『ドシン』

「ちょっと、大丈夫!」

「ごめんね....お大事に....』

さっきまでの絶叫からは想像できないくらいか細い声で話したかと思うと、蜘蛛はゆっくり瞼を閉じた。そしてそのまま2度と目を開くことはなかった。


「わっ、何?」

少し瞼に涙が浮かび始めた時、蜘蛛の体が砂のようになり崩れはじめたのだ。崩れるのを止めようとすると、より崩れるのが加速する。最初はゆっくりだったのが、ダムが決壊するように一気に崩れ出す。

蜘蛛の体はものの十数秒で跡形もなく崩れ去ってしまった。襲われ続けた思い出しかないが、最後に見せた親のような振る舞いには、表現できない感情が湧いてきた。私は考えることをやめ、散らばった無事な荷物をリュックに詰め歩き始める。よく見るとフクロウの死体もなかった。この世界で死んだものは皆ああなってしまうのだろうか、そうなると俄然死ねない理由ができてしまった。


『カンカン、カンカン』

そんな時遠くから踏み切りでよく聞くあの音が聞こえてくる。電車がくる!私は痛む体に鞭を打ち走り出す。

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