出発
「遠い....」
早く着きたい気持ちに押され、駅までの道のりがひどく遠く感じる。血は出ていないが、全身の骨が悲鳴をあげている。フクロウ、狼男、そして蜘蛛。現状私の知っている範囲で襲ってくる可能性のある存在はいない。もしいたとしても歩みを止めることはできない。
『けど、あの駅に電車が来たことなんてなかったはずだよ?』
サキュバスの言葉が脳裏に蘇る。サキュバスは昼夜を問わず飛行している事が多く様々な情報を集めていた。東西南北のそれぞれの特徴や食べ物についても知っていた。しかし駅に関しての情報はほとんどなかった。
『私が知っていることは3つくらいだよ〜。1つ目に駅は無人でボロいの、2つ目に駅の周りは異様に霧が濃いんだ。3つ目は時々駅の周りだけ地震が起こるだよ。それ以外には特徴はないかな〜』
サキュバスの言葉が本当なら普段は起こっていないことが起きている。それだけで期待が持ててしまう。
「着いた!」
おおよそ1時間くらいだろうか、すっかり月が空の頂点に登ってきており、森が薄暗くなっている。数分前から立ち込めた霧の中を進み続けた結果突如として駅が現れた。
「#&$%駅?」
!?
読めないけど、読めた?しかも無意識に口から発せられた。怖い....が、そんなの私は気にせず駅に足を進める。
駅は確かに無人でありかなりオンボロだ。木製の壁やベンチは腐りかけたり、割れている。塗装もボロボロでポスターは何が書いてあったか判別できない状態だ。私はサッと待合室の観察を終えるとホームに出る。遠くにあると思われる踏切の音は未だ続いている。駅に着くまでは、まだ電車が来ないでと脳内でひたすら願っていたのに、いざ到着してからというもの早くきてくれと願い続けている。ただ遠くから聞こえるのは、未だ踏切の音だけである。仕方ないと思い、私は駅の探索を始める。
ホームは片側ホームであり、駅名には『%#”$$駅』と書かれている。
「ん?これ...拭いたような後に見えるな」
看板は文字の部分を最近強く擦ったような後が残っていた。私以外にも似たような人がいたのか?
私はその後、壊れた自販機、箒と塵取り、消化器などを調べた何も見つけることはできなかった。仮に私以外にも似たような境遇の人がいたのなら、何かしらのメモでも残しといてくれればよかったのにと思ったが、ないものは仕方ないと割り切り、比較的腐っていないベンチに座り、蜘蛛からもらったブドウを取り出す。リンゴと同様に不味い可能性もあるため覚悟して口に入れたが、その味は極上の甘さであった。皮を歯の先で突き刺した瞬間、果汁が口全体を巡る。果肉はシャーベット状になっており、ほんのり冷えている。あまりに予想外な味ゆえにいつの間にか全て食べ終わっていた。
踏切がなり始めてからおそらく3〜4時間は経ったはずだ。未だ電車が来そうな雰囲気はない。それに合わせて私の気分は期待から不安へと移り始める。もし仮にこれが踏切がなっているだけの状態ならば、私はいったいどうすればいいのだ?自身が収集した情報とサキュバスの情報を照らし合わせると駅以外での脱出する方法は見つけていない。正直駅に行けば助かると思っていただけに現在の状態は絶望に近い。ただ、まだ電車が来ていないだけだ。希望は捨てちゃいけない。そう自身の心に言い聞かせ線路を眺める。
朝が来た。来てしまった。駅は変わらず霧に包まれ、遠くから踏切の音が聞こえてくる。
「行く...か」
私は思い体をあげ線路に降りる。踏切がどうなっているのかを確かめるのためだ。最初からこうすればよかった。自分から目的地に行けばよかった。私は早歩きで線路の上を進む。
「あれ?....駅」
少し考えればわかったはずだ。こういった場所では元いた場所に戻ってくるのが定番だと言うことを、そしてそれは駅の出入口も同様であった。駅から出てもいつの間にか駅の前に戻ってきてしまう。
「はあ...はあ...美味しい....美味しい!」
私は現実から逃避するため暴食に走った。最初は吐くほどであったリンゴも今や美味しく感じてくるほどには現実から逃げたかった。
「どうして...何で?」
あれから2日が経った。すでに食料は尽き、意識が朦朧としてきている。未だ鳴り続ける踏切の音に耳が慣れてしまい無気力なってくる。しかし最も問題なのは私の腹が大きくなってきたことだ。食べた反動ではない。なぜなら私のお腹を蹴る感覚があるからだ。
私は妊娠していた。
ただし成長速度が異常だ。この世界に来たときは妊娠している事さえ知らなかった。なのにお腹は膨れ、もうすぐ産まれそうであることを本能的に私に教えてきた。
もうどうしたらいいかわからない
それが私の出せる精一杯の想いだった。
『ガタガタ.ガタガタ...」
そんな私を突如として地震が襲った。強い...立っていられない。私は仰向けになりながらベンチの下に隠れる。そん時下半身に強い痛みが走る。
「オギャー、オギャー、オンギャー』
生まれた...生まれてしまった。私は慌てて半身ベンチから出し生まれたての赤ちゃんを抱き上げる。女の子だ。私と彼の子供。涙が流れ始めたとき下半身に別の痛みが走る。地震で崩れた天井が落ちてきて、ベンチ毎私を押し潰したのである。覚醒していた私の意識は急速に朦朧としてきた。
「誰?』
ぼやける視界の端に人影が映る。死の間際の幻覚だろうが私は気力を振り絞り告げる。
「...私 の娘..を助けて くださ い....名前 は『結』です。どう...か」
私の薄れゆく感覚の中、確かに胸周りの重みが無くなった事を感じる。
『お願い結、幸せに生きて...」
ここまで読んで頂きありがとうございました。




