蜘蛛
『ゴクゴク..ぷは〜、うま!」
2人と別れて数時間、川沿いで休憩をする。麦わら帽子に渡された弁当はキノコ入りのハンバーグを中心にバランスのとれた内容で、生きている活力を与えてくれる。今は木々に阻まれ駅を見ることはできないが、太陽の傾きを見るに大きく間違ってはいないだろうと予測できる。この調子でいけば夜が来るタイミングで蜘蛛のテリトリーに着くだろう。夜に行動するのはリスクだろうが、蜘蛛が夜目が聞かない可能性があるならリスクを冒してでも行くべきだ。サキュバスの話によれば少なくとも蜘蛛のように大きな個体はいないはずだ。
「まあ、小さいのがいたらこれで対処しなきゃ...」
麦わら帽子からもらったフライパンが私の手には握られている。またリュックの中には、2度も命を救われたリンゴの果汁を入れた水筒が入っている。私は空になった弁当箱をしまい、再び歩き出す。
「なっ、谷?」
さらに数時間歩いたところで大きな谷が現れた。幅は10m近くある。辺りを見渡すが橋の一つもかかっていない。
『グルルル...』
「冗談でしょ」
谷の向こう側にいたのは狼男だった。低く唸る声を出しこちらを見ている。このままじゃ橋を見つけても危ない。とりあえず森に引き換えそう。と、思った時狼男が身を屈めた。
「ちょっと待って、嘘でしょ」
私の予感は的中した。狼男は谷を飛び越えてきたのだ。私は全力で走り出すがすぐに追いつかれる。
「くらえ!」
私はリンゴの果汁が入った水筒の蓋を開け狼男にぶっかける。しかし狼男はそれを地を這うように身を屈めることで避けてきた。同時に振り抜かれる右手の爪を、ギリギリジャンプすることで避ける。
知能がある!初めて会った時は怒りに飲まれているようであったため騙された。今ので水筒の1/3を消費したが、狼男は水筒を警戒し突撃してこない。
「あなた何が目的!どうして私を襲うの」
呼びかけてみたが反応はない。私たちは互いに構え牽制し合う。
数分経った。私が後退すれば、狼男が一歩前進する。少しずつではあるが木々が密集したエリアに足を踏み入れる。
「だあああああ!」
私は思いっきり水筒を振り、果汁を撒き散らす。狼男は大きく後ろに飛び退き、そのタイミングに合わせて全力で後ろに走り出す。
『ドン!ドン!」
後ろで木々を破壊しながら追いかけてくる音が聞こえてくるが、私は草むらに身を潜める。
『グルルル...ウオーン!』
しかし狼男は正確に私が隠れている草むらに目を向けてくる。私は慌てて後ろに走り出す。
「いや、やめて!」
私が叫ぶのと同時に狼男の牙がリュックに突き刺さり、体が空中に浮く。
『#%%#’’(』
狙い通りであった。リュックの中には大量のリンゴを詰めておいた。狼男は私が水筒の中身を全部ぶちまけて走り出せば脅威はないと判断し、突撃してくると想像できた。上手く誘導できれば、あとはリュックを噛ませるだけだ。私はすかさずフライパンを出すと、脳天を思いっ切り叩く。
「くっ、弱い」
こんなことなら麦わら帽子に包丁でも借りてくればよかったと思ったが、そんな暇はない、何度も頭を叩き続ける。
『ク~ン』
やがて狼男が弱々しい声を出す。
「やめてよ...そんな声出さないでよ」
現状狼男に最も命の危機を脅かされた。けど今の声を聞くとやる気が失せてくる。麦わら帽子の性格が映ったのだろうか?まあ仕方ない...
「行きなさい...」
私はフライパンを下ろすと、谷とは反対方向に行くよう促す。
「キャ!」
しかし狼男の行動は違った。素早く私の体を持ち上げると、谷の方向に向けて走り出す。
「ちょ、何するの!」
私が狼男の行動に困惑している中、狼男は谷を飛び越える。素早く下ろされると、困惑から立ち直る前に狼男はさらに往復し、私にリュックを差し出してくる。
「あ...ありがとう?」
狼男は私のお礼を聞くと一礼し、再び谷を飛び越え森に消えていく。正直展開が急すぎて未だ立ち直れない。しかし第一関門は乗り越えたということだろう。私は疲れから息を吐くが、休憩はせず荷物をまとめ歩き出す。
戦いはこれからだ....




