前身
「いたっ!あなた達、あいつをコテンパンにしなさい!」
怒ったサキュバスが動物達に命じる。昼間はおとなしかった動物達が怒りの表情を浮かべて突撃してくる。
『”%%$#’&』
が、私は台所にあったリンゴを握りつぶして動物達にぶっかける。するとかけられた動物達の足が止まり、後続の動物達が激突して大事故を引き起こした。それを避けて突撃してきた動物もいたが、フライパンで横から思いっきり叩きのめす。
「うそ...でしょ...降参!そう降参します!」
サキュバスが命令を飛ばしてからものの数秒で、私は動物達を全滅させた。その勢いでフライパンをサキュバスに向けるたがあっさり降参されてしまった。決意を固めて挑んだだけにやや不完全燃焼な気持ちになってしまったが、深呼吸して気持ちを落ち着かせ始める。
「何逃げようとしているの?」
「いや〜逃げようだなんて〜そんな〜まさかね〜へへっ」
サキュバスは逃げるつもりはないと言いつつ、ちょっとずつドアの方に小刻みに移動している。
「大丈夫でしたか?...よかった。あの、紐とかあります?」
私は麦わら帽子を助け起こすと、サキュバスを縛る紐がないか聞く。
「待って!本当に何にもしないから」
「信用できるわけないでしょ。それに動物達がいつ目を覚ますかもわからないし」
「ほら!今魅了は解いたから、だからお願い!」
「だから...」
私がサキュバスの発言を再び否定しようとした時、麦わら帽子が私に向けて首を横に振る。
「わかりました。けど離れてください」
私がサキュバスと麦わら帽子の間に位置取ると、動物達が目を覚まし始める。皆暴れ出さず、あたりを見渡し状況を把握しようとする素振りを見せている。
「どうやらちゃんと魅了を解除をしたんですね」
「だから言ったでしょ解除したって....」
「それで、あなたは何しに来たわけ?」
「ちょっとフライパン向けないでよ!....私はただ...その....ちょっと....ちょっとだけね羨ましいと思って...」
「は?」
サキュバスの説明に加えて麦わら帽子のジェスチャーを読み解く
「つまり、サキュバスは麦わら帽子が悠々自適なスローライフ生活を送っていたのが羨ましかったけど、素直に話しかけられなかったから襲撃したと....呆れてた...」
「....ごめんなさい」
サキュバス自身には命を取るようなつもりは無いはずだが、魅了されていた動物達にそんな器用なことはできない可能性の方が高かったはずだ。そう考えると今のサキュバスの謝罪で抱擁しに行く麦わら帽子は相当優しい。
「あなたにも、ごめんなさい」
「はあ...正直納得していないけど、麦わら帽子が許しているみたいだから私は何も言わないよ」
「ありがとう」
「なんかさっきと全然態度が違うね」
「いやまあ、さっきはアドレナリンが出まくってたんだよ。だって男が全くいないんだよ、そこに女性だけど人型の麦わら帽子さんがいる。しかもスローライフをおくっている!そりゃ欲しくなるじゃん!」
「ん?男がいないってどういうこと?」
「そのままの意味だよ。バケモノばっかり」
「あなたみたいに喋れるのはいた?」
「いや、いなかったよ」
話しを聞く感じ、サキュバスはあちこちを飛び回っているようだが人型自体がかなり珍しいようだ。
「私、向こうの山にある駅に行きたいんだけど安全な道わかる?」
「え、あそこ行くの?確かあそこは蜘蛛女のテリトリーだよ」
蜘蛛女は向日葵と戦っていたバケモノのことだろう。あの機動性は見つかったら一貫の終わりだろう。てか女だったのか。
「流石に人をおぶって飛ぶことはできないし〜、目標になるものが皆無なんだようね〜。あっ!そうだ夜目が効いてなさそうだったよ」
それが本当なら作戦が立てやすいと思っていた時麦わら帽子の食事が食卓に運ばれてくる。
「うわ〜美味しそう!うう〜ん、うまうま!」
「あなたね、手をつけるの早すぎよ...」
サキュバスが素直な欲望を出し、私がその行動に呆れる、その一連の行動を見て麦わら帽子が嬉しそうにしている。なんとも不思議な時間である。
「おっはようー!」
「...おはよう」
翌朝起きるとサキュバスが元気に挨拶してきた。朝からそのテンションは正直羨ましい。
「いっただきまーす!」
「いただきます」
重い瞼を開きながら朝食を食べる。
「じゃあ行ってきます」
「いってら〜。気をつけてね!」
サキュバスの元気なお見送りと、麦わら帽子の強目の抱擁を受けた私は1人、駅に行くため歩き出す。
『振り返っちゃダメだ...』
異世界転移して初めての温かい食事と生きている温もりをくれた麦わら帽子。最初はうるさかったが、その振る舞いは人との会話する感覚を呼び覚ましてくれた。そんなサキュバスにも感謝しかない。
私は今にも溢れそうな涙を堪えながら。麦わら帽子特製のお弁当などが入ったリュックを背負い直し、力強く歩き出す。




