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問題

「はあ〜」

2体のぶつかる音が聞こえなくなる距離まで走ってくると、私は息を吐き座り込む。エネルギーを消費しすぎたが、あの場にいたら命の危険があった。幸い荷物は毛布が汚れたくらいで落としてはいない。私は服の汚れを落とすと歩き出す。あの蜘蛛は上流の方から来ていたから、下流の方に向かえば避ける事ができるはずだ。


「やっぱり1匹もいない...」

水を飲んでいる時も見かけなかったが、下流に向けて歩いている際も魚を見かけることはなかった。寝床問題は解決できそうではあるが、食料問題を解決できなさそうで不安になる。

「とにかく下流に歩きながら食糧になりそうなものを探そう」


「南側は全滅。東側は調査したのは一部だけど...食糧になりそうなものはないと...」

私は地面に車を中心にした東西南北図を書いていた。あの後西側の崖から川沿いを3時間近く歩き続けたが、南側は澄んだ川から一転して泥だらけの湿地帯になっていてとてもじゃないが飲めそうになかった。また向日葵や蜘蛛のように巨大なワニが陽を浴びていた。

そのまま東側に行くと、昼間であるにも関わらず薄暗い森が広がっていた。木々は一本一本が高く育った杉の木であり、そこにはこれまた巨大で全身真っ黒のフクロウが止まっていた。幸いにも発見した時は寝ていたが、もうすぐ夜になるはずだと考え車に戻ってきた。


「つまり成果なしっと!ハハ!...ほんとどうしよう」

この調子だと残りの東側や北側にも食糧になりそうなものはない可能性が高い。しかしそうしたらあの化け物たちはどうやって生きているのだろうか?向日葵はまだしも、蜘蛛やワニも水と日光で生きてはいないと思いたい。

「あれって食べられるのかな...」

栄養の足りていない私の脳は化け物たちを食糧として考え始める。蜘蛛やワニは明らか危険であるし、フクロウは飛ばれたらどうしようもない。それに比べて向日葵は始めて見た時の衝撃はあるが、冷静に考えると動きが緩慢であった。蜘蛛に襲われていた時も一方的に攻撃を受けていたはずだ。

「問題はどうやって倒そうか...」

探索の過程で拾った枝と蔓、石を合わせて簡易的なハンマーを作ったが、あの巨体に対しては心許なさすぎる。

「発煙筒を使うか...」

発煙筒を使えば向日葵の注意を引く事ができるはずだが、あの蜘蛛が現れる可能性がある。

「けどそんなの気にしてられない...[][]さん私行ってくるね」



翌朝、私は川へ歩き出す。最初は不気味に思っていた森も3日目になると何も感じなくなってくる。朝、残っていた飴とメロンパンを全て食べたため後がない。

「まさに背水の陣だな〜...いた」

向日葵は昨日蜘蛛に襲われた場所からほとんど動いていなかった。昨日こちらを見つめていた部分は太陽の方を向いている。根っこは地面に埋まっているのか見えず、微動だにしていない。

「ん?あれって...りんご?」

向日葵の茎の部分にあるのは真っ黒ではあるが、形は間違いなくりんごであった。前回出会った時は気づかなかったが足元にも無数に転がっている。


「チャンスは一度きりだ...」

作戦を変更し、ハンマーを作った際に残った材料を使いスリングショットを作る。形は不恰好だが石はちゃんと飛んだから大丈夫なはずだ。

「スー...フッ!」

着火した発煙筒をのせて思い切り投げ飛ばす。風にやや流されたが向日葵の頭上を通って私とは反対側に落ちる。綺麗に描かれた煙の円に向日葵の注意を引けたようで、茎を折って身を屈め始める。私は音をたてないようにしながらゆっくり近づく。発煙筒がどれぐらい続くかわからないため走って取りにいきたいが、あの向日葵が視覚・嗅覚・聴覚のどれで私を認識しているかわからないため慎重にならなければならない。


「あっと...落ち着け私...」

毛布の四方を結びあわせて作った簡易的なバックにりんごを入れていく。今や風にのって辺りは煙だらけであり、私の心には()()が生まれてしまった。

『シュルシュル...ギチ』「え!」

「キャアアアアアー」

りんごのひとつを掴んだ瞬間、私の腕に葉が絡まり、吊り上げられる魚のように引き上げられる。

「あ...う」

昨日以上の至近距離で向日葵に見つめられる。死んだ..と思った。

「え?...え?」

しかし私は食べられなかった。そっと煙に飲み込まれていない岩の上に置かれると、向日葵は再び太陽を見始める。

私は落としたりんごを再び毛布に入れると、向日葵に一礼して森に戻る。


向日葵は危険な存在ではなかった。しかし私を助けてくれる存在ではなかった。死を悟り、冷静になった結果、向日葵を十分に観察する事ができた。向日葵は全身傷だらけであった。昨日ついたもの以外にも細かい傷が無数についていた。なのに場所を移動していない。おそらくだが向日葵には知性はあるが、感情や知覚は無いのだと考えられる。私はそれがただ無気力に1日を過ごす人に見えたのだが、私を食べないのを見るに食事自体は見た目通りの水と()()なのだろうから、やはり化け物なんだろう。


「いただきます」

私は車に戻るとさっそく黒いりんごを食べることにする。割ってみると中の実はよく見る白色であり、タネもあった。

「匂いも問題なし」

『シャク』

意を決しってりんごを口に入れる。

「うっ!$&’%’’&&$オエっ)’$#オエエエエ」

実に歯が刺さり、りんごの果汁が舌に触れると同時に激しい嘔吐感が襲ってくる。私は急いで車を飛び出すと我慢できずに吐き出す。しかし嘔吐感は止まらず、嗚咽が止まらない。


「ハア.......ハア........」

ようやく嘔吐感が止まった時には著しく体力を消耗していた。これは今朝食べた分まで戻してしまったのではないかと感じるほどの大惨事だ。

「水を飲みにいく....いやだめだ体力が持たない」

元々万全の状態でも川に着くまでには時間がかかった。今の状態では帰ってくる前に夜になってしまう。昼間でも危ない状態なのに、視界が制限される夜の方が安全なんて保証はどこにもない。私は今日はもう寝て明日に備えることにした。


『アオオオオン』

しかしそれは全身の細胞を震わせてくるほどの大きな遠吠えによって叶わなかった。

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