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遭遇

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『がたっ』


「...ん〜、着いたの[][]くん?」

大きな衝撃に目を覚ますと、私は彼の名前を呼ぶ。

「[][]くん?」

隣に彼の姿はなかった。周りを見渡すと座席は埃を被り、フレームは錆だらけである。

乗ってきた車はこんなオンボロではないし、目的地もこんな深い森の中ではなかった。


「あるのは...、これだけ」

しばらく車内を探したが見つけられたのは、電源の入らない携帯電話、財布、寝る前に食べていた梅味の飴、コンビニで買ったメロンパン、オンボロ車に取り付けられていた発煙筒、彼が掛けてくれた毛布だけであり、着替えや食べ物が入った旅行カバンは見つけることができなかった。


「これは、まずいわね」

オンボロ車が見える範囲で探索を行ったが、人はおろか車や飛行機の音も聞こえず、それどころか鳥や虫といった、森の中では嫌でも遭遇するはずの野生生物すら見つけることができなかった。仮に私が事故に遭い、遭難していると考えたとき、まず私はこの場所がどこなのかわからない。そして助けが来なさそうな場所でもある。故に救助まで時間がかかると考えられるが、食料にできそうな野生生物は木の上や空を見ても、土を掘ってみても見当たらない。正直言って絶望的な状態である。


しかし事故にあったと仮定した場合、説明できない疑問が残る。

1つ目に、彼はどこに行った?事故にあったとして、私を助手席に置いて行く理由が思いつかない。

2つ目に、あのオンボロ車である。私の睡眠は浅い、故に車を乗り替えようものなら目覚めるはずだし、そこまで大掛かりなドッキリを彼が行うことはできないはずだ。


「まさか...異世界転移?」

彼にオススメされ読んだ漫画は異世界転生であったが、作品内には異世界転移の説明もあった。私の『目を開いたら直前までとは異なる場所にいた』と言う状況は異世界転移の例に酷似している。自身でも突拍子もないことを考えている事は理解しているのだが、1度思いついてしまったからには、その考えが頭を離れなくなってしまった。異世界転移、()()()()()()()()()と定義したとき、鳥や虫がいない事にも説明をつける事ができ、救助は一生来ないと考えられる。もしかしたら意思疎通可能な存在がいるかもしれないが、淡い期待であると考える。私は『ここがあくまで現実であると考え、助けを待つべきか』、『ここが異世界だと考え、あるかもわからない脱出の方法を探る』かの2択を迫られる事となった。



「おやすみなさい...」

私は何も食べずに一晩を車の中で過ごす事にした。食料が絶望的な状態ではあるが、目を覚ました時にはすでに日が傾き始めていたので、現状最も安全なのが車内であったからだ。また、彼が助けを呼びに言って戻ってくるのではないかという期待を拭いきれなかったのもあった。


「夢でもない...」

朝、痛む体を座席から起こす。昨日と同じ景色である深い森が、これは現実であると告げてくる。私はメロンパンを半分ほど食べ、残りをポケットに入れる。全ての荷物を持つと、昨日遠くに見かけた崖を目指す。崖の下の方が大きく削れているため、下を川が流れているはずだ。


「はあ、はあ...、予想以上に疲れる...」

まだ3ヶ月目だが、体が少し歩いただけで疲れてくる。しかしお腹の子のためにも、まずは水を確保しなければ始まらない。


「あ、あった!」

2時間近く歩いて崖の下に到着すると、清流という言葉すら物足りないくらいに輝く川が現れた。近くに行き覗き込むと、2mもの深さがありそうにも関わらず底の石の模様すらハッキリと見えている。一瞬だけ飲んでもいいのかという考えがよぎったが、喉の渇きには抗えず両手で何度も掬っては飲む。


喉の渇きは完全に消え、若干空腹も抑えられたところで顔を上げると私は息を呑む。向こう岸から巨大な黒い向日葵が私を見つめている。体調は3m近く、茎の太さは神社の御神木並みにある。見た目は向日葵だが、根っこが人間の足のようになっており二足歩行している。そいつはゆっくりと顔?を私に近づけてきていた。


「!%%$&$’」

私は叫ぶのをギリギリで抑えると、一目散に来た道に向けて走り出す。が、

『バキ、バキバキン』

さっきまで静かだった森から木の破壊される音が聞こえてくる。それは徐々に私の方に近づいてくる。

『どこ...、どこ...』

私が岩場の影に隠れた直後、森の中から姿を現したのはこれまた巨大な黒い蜘蛛のような生物であった。8本の足の内、前の6本は人間の手の形をしており、後ろの2本は人間の足のようになっている。頭部は2つの大きな目と6つの小さな目、そして髪の毛と人間の歯が付いた口で構成されている。言うならば人間で蜘蛛を作りましたみたいな見た目だ。しかし驚いたのはある程度知性があるように見受けられる事だ。もしかしたら見た目とは裏腹に助けてくれるかもという考えが一瞬よぎったが、

『かえせ! かえせ! かえせ!』

それはその蜘蛛の化け物が向日葵の化け物に向けて突進し襲いかかるのを見て一瞬で消え去った。


私は急いでその場から離れるため走り出す。

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