歓迎
第三十八話 歓迎
「来た」
「来た」
「来た」
「来た」
声が重なった。
男の声。
女の声。
低い声。
高い声。
全部違うはずなのに、何故か同じに聞こえた。
耳の奥へ直接入ってくるみたいだった。
ホーム全体が喋っているみたいだった。
俺は動けなかった。
目の前の奴らは動いていない。
足も。
腕も。
顔も。
何も変わらない。
口だけだった。
口だけが動いていた。
「来た」
「見てる」
「来た」
「見てる」
少しずつ言葉が変わり始める。
何百人もいる。
なのに全員こっちを見ている。
「……何なんだよ」
俺は小さく言う。
「何なんだよ」
前の方から聞こえた。
俺は止まる。
誰が言った?
もう一度聞こえる。
「何なんだよ」
後ろだった。
「何なんだよ」
右。
「何なんだよ」
左。
俺は息を止めた。
俺の声だった。
全部。
全部俺の声だった。
その時だった。
カツ。
さっき前へ出てきた女が歩き出した。
長い前髪。
制服姿。
他の奴らと同じだった。
でも違った。
そいつだけ、口を動かしていなかった。
静かに歩いていた。
俺達の前で止まる。
そして少し首を傾けた。
「ねえ」
普通の声だった。
不気味なくらい普通だった。
「気になるよね」
俺は黙っていた。
「何が」
女は少し笑った。
「自分が、どう見えてるか」
ゾワッとした。
その瞬間だった。
パッ。
ホームの端にあった広告板だった。
画面が急に点いた。
そこへ映っていたのは俺だった。
教室だった。
俺は一人で座っていた。
周りは楽しそうに話している。
でも誰も俺を見ていない。
次の画面。
俺が誰かへ話しかけていた。
相手は少し困った顔をしていた。
次。
笑われている俺。
次。
教室へ入ろうとして、やめた俺。
次。
窓際で外だけ見ている俺。
全部違った。
でも全部、俺だった。
「変だと思われてる」
「浮いてる」
「見られてる」
「笑われてる」
周囲から声がする。
何百人もの口が動いていた。
俺は耳を塞ぐ。
うるさかった。
違う。
違うはずだった。
でも。
少しだけ思ってしまった。
本当にそうだったらどうする。
その瞬間。
コン。
肩へ何かが当たった。
俺は我に返る。
凪原だった。
閉じた本を俺の肩へ軽く押し当てていた。
「黒崎」
初めてだった。
少しだけ声が強かった。
「見るな」
俺は横を見る。
凪原は前を見ていた。
でも表情が少しだけ崩れていた。
いつもの顔じゃなかった。
少しだけ苦しそうだった。
そして俺は気付いた。
ホームのガラスに映っていた。
今度は俺じゃない。
凪原だった。
しかも、一人じゃなかった。
第三十八話 歓迎 終




