37/41
ホーム
第三十七話 ホーム
走っていた。
俺も。
笑っている俺も。
「何だよあれ!!」
俺は叫ぶ。
後ろを見る。
笑っている俺は座席の間を走っていた。
顔はずっと同じだった。
笑ったまま。
気持ち悪いくらい変わらない。
「見られてる」
走りながら言っていた。
「見られてる」
また言う。
距離が近い。
速かった。
「黒崎」
凪原だった。
外へ出ている。
「早く」
「分かってる!」
俺も飛び出した。
ホームへ足が着く。
その瞬間だった。
プシュー……
背後でドアが閉まる。
俺は反射的に振り返る。
笑っている俺は窓の向こうにいた。
ガラスへ手をついていた。
笑ったまま。
ずっとこっちを見ている。
数秒。
ゴォォ……
電車が動き始めた。
ゆっくり遠ざかる。
笑う俺も小さくなる。
消えた。
静かだった。
俺は少し息を整える。
「……何なんだよ」
返事はない。
横を見る。
凪原が固まっていた。
俺は少し眉をひそめる。
「……おい」
返事がない。
凪原の視線は前で止まっていた。
俺も前を見る。
そして息を止めた。
ホームにいた奴らだった。
何百人も。
全員。
こっちを見ていた。
さっきまでと違った。
今度は近い。
近すぎた。
そして、一人だけ前へ出る。
女子だった。
制服姿。
長い前髪で目が隠れていた。
そいつが小さく言った。
「……来た」
次の瞬間。
ホーム中の全員が口を開いた。
「来た」
第三十七話 ホーム 終




