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次のホーム

第二十九話 次のホーム


カン――


乾いた音が、静かな空間へ響いた。


私は足を止めた。


長い廊下はいつの間にか終わっていた。


その先に広がっていたのは、駅だった。


駅……のはずだった。


ホームがある。


ベンチもある。


時刻表もある。


線路もある。


でも、変だった。


ホームはどこまでも続いているのに、線路の先が見えない。


外があるはずの場所は真っ白だった。


空もない。


壁もない。


ただ白いだけだった。


私はゆっくり歩く。


手には白い傘。


もう片方には小さくなった黒い傘。


ポケットの中でクロのキーホルダーが揺れる。


チリン。


その時だった。


ベンチに誰かいることに気付いた。


女子だった。


肩くらいの髪。


最初は黒く見えた。


でも、ホームの光が当たると少しだけ青かった。


夜の海みたいな色だった。


制服姿。


俯いたまま、本を読んでいる。


私は止まった。


こんな場所で人を見るのは初めてだった。


怪異かもしれない。


そう思った。


少し警戒しながら近付く。


でも何も起きない。


黒い水も。


腕も。


雨も。


何もない。


私は通り過ぎようとした。


その瞬間だった。


ページをめくる音がした。


パサ。


そして。


「……止んだ?」


私は止まる。


ゆっくり振り返る。


女子はまだ本を見ていた。


「……何が」


少し間。


「雨」


顔を上げる。


眠そうな目だった。


でも、ちゃんと私を見ていた。


「さっきまで、ずっとうるさかったから」


私は何も言わなかった。


黒い雨のことだと何となく分かった。


でも、分からないことの方が多かった。


何で知っているんだ。


何でここにいるんだ。


何で普通なんだ。


私が黙っていると、女子はまた本へ視線を戻した。


「座れば?」


ベンチの隣だった。


私は少し迷った。


今までなら断っていたと思う。


でも今は違った。


ほんの少しだけ迷って。


私はベンチへ座った。


少し間が空く。


静かだった。


そして初めて思った。


独りじゃない。


それだけで、少し変な感じがした。


第二十九話 次のホーム 終

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