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(第二部完結) 潔癖症の俺は、どうしても彼女に触れたい  作者: 四条 葵 


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第78話 彼女の手に触れる


 気が付けば涼は澪の手に直接触れていた。柔らかくて小さくて、そして温かく優しい手だと思った。


(人と触れ合うって、こんな気持ちになるんだな……)


 握った澪の手が心地よく、心が凪いでいくのが分かる。しかし、それと同時にもっと澪に触れたいという欲求が溢れ出す。


 公園の街灯は薄暗く、澪がどんな表情をしているのかはっきりとは分からないが、その頬は少し赤らんでいるように見えた。澪の胸元が忙しなく上下しているように見え、涼は目を見張った。


(もしかして……、澪も緊張しているのか……?)


 先程も、涼にどこを触られても全く問題ない、などと言っておきながら、手に触れただけで澪は顔を真っ赤にしているように見える。


「……澪……」


 名前を呼ぶと、反射的に顔を上げた澪は真っ赤な顔で涼を見た。その瞳は潤んでいて、何かを期待しているように揺れた。


 触れたい、と強く思う。

 澪をこのまま抱きしめて、好きだとはっきり伝えたい。


 そんな衝動に駆られる。


「……澪、俺…………」


 澪の頬に触れようと手を伸ばすと、澪の肩がびくんと揺れる。


 涼ははっとして、澪の手をゆっくり離した。先程まで手の中にあった優しい熱が離れていく。


「……ごめん……」

「え?」


 ぱっと自分の手を握りしめる澪に、涼は頭を下げた。


「嫌、だったよな……。ちょっと調子に乗りすぎた……」


 ストッキンググローブの上から触れた澪の手は、ほとんど直に触っているかのように優しい体温が伝わってきた。今ならきっと、このまま直接触れられる、いや、触れたいと、涼は強く思ってしまった。

 触れていいかと聞いたとき、承諾してくれた澪の熱に浮かされた瞳が、涼の理性を揺るがせた。


(そんなの言い訳にならないよな……。いくら澪がいいと言っても、これは俺のための克服練習なんだから、協力している澪が拒むわけないのに……)


「本当に、ごめん……」


 涼が頭を下げると、澪は慌てたように首をぶんぶんと横に振った。


「謝る必要なんてないよ! いつも言ってるけど、私、涼に触られて嫌なわけないんだし!」

「……あのなぁ……、そういうこと簡単に言うのやめろよ。誤解するだろ……」


 澪は涼の心を軽くするために口にしている言葉なのだろうが、澪に想いを寄せる涼にとってはしんどいものがある。

 しかし澪は小さく首を振った。


「……誤解、してもいいの……。本当の、ことだから……」

「は…………?」


 澪の言葉が理解できず、涼はフリーズする。


(誤解してもいい? 澪は何を言ってるんだ? それじゃあまるで、澪が俺のこと……)


 涼の思考が鈍っている間に、澪が涼に距離を詰める。そうして涼の手を優しく握った。

 いきなり繋がれた手に驚いて目を見開きながらも、澪の潤んだ瞳から目が離せなかった。


「……涼、私と手を繋ぐの嫌じゃなかったんだよね……?」

「あ、ああ……」

「じゃあ、他も触ってよ……」

「え……」


「どこでもいいから、私の身体、触って……?」


 自然と喉がごくりと鳴った。


「み、澪……、何を言ってるんだ……?」

「だって私、涼のことが……」


 真っ赤な顔をした澪は、唇が触れそうなくらい近くまで涼に近付き、そして……。



 ピリリリリリリッッッ‼



 突如辺りに響き渡る電子音に、二人ははっとして距離を取る。

 音の出所は、涼のズボンのポケットに入っているスマホだった。着信を告げている。電話に出なくてはと思いつつも、涼は澪から目が離せなかった。


「りょ、涼? 電話、鳴ってるけど……」

「あ、ああ……」


 澪に言われ、うるさい心音を落ち着けるようにゆっくりと電話に出た。


「も、もしもし……」

『涼くん? 椿姫です。突然お電話してしまってすみません。先程からメッセージを送っているのですが、なかなか既読が付かなかったもので……』


 電話口からおとっりとした椿姫の声が聞こえてくる。涼は、そうだ、カラオケから抜けて来ていたのだ、と思い出す。


「ああ、悪い。すぐ戻るよ」


 椿姫にそう返事をして、通話を切った。


「み、澪、そろそろ解散するって……」

「あ、ああ! うん! そうだよね! も、戻ろっかぁ~!」


 澪はぎこちなく言うと、これまたぎこちなく歩き出す。その横に涼が並ぶと、澪は「ひゃっ」と小さく声を漏らした。


(澪はさっき、何を言おうとしたんだ……?)


 まさか澪が自分を好きだなんてことはないと思っている涼にとって、澪の発言は混乱するものばかりだった。



『だって私、涼のことが……』



 一連の流れを思い出すだけで頬に熱が籠っていくのが分かる。


 これから椿姫や皐月の元に戻るというのに、こんな状態ではとてもじゃないが二人に顔を合わせられない。


(早く引いてくれ……)


 涼が顔の熱を冷ますようにぱたぱたと手で風を送っていると、澪も同じように手を顔の前でぱたぱたさせていた。


 当然のように目が合って、二人はぎこちなく笑った。



(……澪も俺と同じ気持ちならいいのに……)

(……涼も私と同じ気持ちならいいのにな……)



 こうして涼の潔癖症克服練習は無事九つ目を終え、残すところあと一つとなったのだった。




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