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(第二部完結) 潔癖症の俺は、どうしても彼女に触れたい  作者: 四条 葵 


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第79話 第二部エピローグ 踏み出した先にあった未来


 三者面談、球技大会と六月の行事が終わると、次にやって来るのは一学期末期末テストだ。

 期末テスト一週間前となった六月三十日は、部活動も停止期間となり、全生徒が直帰を強いられる。


 部活に所属していない涼にとっては普段と然程変わりはないのだが、全校生徒が一斉に帰路に就くので自転車通学の多い高校故に駐輪場は混雑を極めていた。急いで帰る理由も特にないので、少し時間を置いてから帰ろうとのんびり帰り支度をしていると涼の席に二人の女子生徒がやってきた。


「涼!」

「涼くん」


 顔を上げるとそこにいたのは、明るくにこっと笑みを浮かべる幼馴染みの澪と、上品に微笑む親友の椿姫だった。


「ああ、どうしたんだ、二人とも」


 最近は二人でいるところをよく見るように思う。澪はもともと友人も多く色んなクラスメイトと話しているが、椿姫も八重の一件があって以来、友人関係に一歩踏み出せるようになったのか、一人でいることが少なくなった。親友としては嬉しいことではあるのだが、なんとなく寂しさもある。


「どうしたんだって……。涼、今日が何の日か忘れたなんて言わないよね?」

「え……」

「涼くん、まさかなのですか?」


 澪と椿姫は同じように困惑の表情を浮かべていた。


「二人と何か約束してたか?」


 涼の問い掛けに二人は首を横に振る。


「約束は、してないけど……」

「ちょうど約束を取り付けようとしていた、というほうが正しいかもしれませんね」

「今日なんだけど、」

「今日なのですが、」


 と二人が同時に話し出すと、そこへ皐月がやって来る。


「涼! 今日お前ん家行ってもいいか?」

「「「え?」」」


 涼、澪、椿姫の三人の声が重なる。


「家……?」


 涼が皐月の言葉に驚いていると、皐月は申し訳なさそうに眉を下げる。


「あー、やっぱりまだ無理か?」

「あ、いや、大丈夫だが……」


 確かに最近、澪や椿姫の家に行ったりしていたわけで、澪もよく涼の家に来るようになった。しかしそれを皐月には話しておらず、涼の潔癖症の克服が進んでいることを皐月は知らないはずなのだ。


(やっぱり皐月って、なんか鋭いところあるよな……)


 澪と二人きりで始めた潔癖症克服練習も、皐月にはなんとなく気が付かれているのではないかと、涼はずっと思っている。


「皐月がいいなら俺は構わないよ」


 皐月が所属しているバスケ部も今日から部活動停止期間のため、放課後は暇なのだろう。期末テスト勉強のために設けられている期間だが、皐月は決まってこの期間にゲームの誘いをしてくる。今日も涼の家で一緒にゲームをするつもりなのかもしれない。

 涼の返答に皐月は嬉しそうににっと笑う。


「おっしゃ! 涼ん家めっちゃ久しぶりだぜ!」


 皐月がオーバーに喜ぶ姿に、(きっと皐月も俺の潔癖症を気に掛けて、誘えなかったんだろうなぁ)と、申し訳なく思いながらも、こうしてまた友人を家に招けるようになったことを嬉しく思った。


 涼と皐月が和やかに話す横で、澪と椿姫は揃って頬を膨らませていた。


「ちょっと涼! それに皐月くん? ちょっと酷いんじゃない? 私達をのけ者にするなんて!」

「私達も、涼くんをお誘いしたかったのに……」


 涼は二人の表情にはっとし、慌てて謝罪する。


「ああ、二人共悪い。えっと、二人も今日、俺に何か用事が?」

「あるに決まってるでしょ!」

「あるに決まってます!」


 ぐいっと二人の美少女から詰め寄られ、涼は一歩後退る。


「大変だね、藤沢くん」


 ちょうど通りかかった佐久間が、涼を見て苦笑する。

 すると突然、「そうだ!」と皐月が大声を上げる。


「みんなで涼ん家行かね?」

「え」


 皐月の提案に、澪と椿姫も頷く。


「そうだね! そうしよ!」

「涼くんのお家、お邪魔してもよいのですか? で、でしたら是非!」

「佐久間も来いよ」

「え? 僕も? いいけど」

「おーい! 岬さん! 今日遊ばねー?」


 涼がぽかんとしている間に、皐月が佐久間と心海にも声を掛け、あっという間に大所帯となってしまった。


 そしてそこにもう一人。金髪ハーフアップの美少女がやってくる。


「えー? なになに? ふじりょーん家でパーティーでもすんのー? つばっきーもいるならあたしも行くっ!」


 どこかから八重がやってきて、輪に加わる。

 八重に腕をぎゅっと抱き締められた椿姫は、嬉しそうに微笑む。どうやらあだ名で呼び合う程仲良くなったようだ。


「えっと……」


 涼は自身の席の周りに集まった友人達を目を瞬かせながら見回す。

 するとちょいちょい、と澪が涼のワイシャツの袖を引っ張ってくる。


「涼、大丈夫? 人数めちゃめちゃ多くなっちゃったけど……」


 心配そうに小声で尋ねてくる澪に、涼は表情を緩めた。


「ああ、大丈夫そうだ」


 澪との潔癖症克服練習で幾度となく口にしてきた言葉だ。しかし本当に無理などしておらず、心からの言葉でもあった。


 涼の言葉に、澪は一瞬驚いたように目を見開いて、それからにこりと笑った。


「よかった!」


 涼は皆に向けて言う。


「狭い家だが、まぁ、うちで良ければどうぞ」


 「おっしゃー!」、「藤沢っちの家お初~」、など口々に感想を漏らしながら、一行はスクール鞄を肩に掛け、楽しそうに談笑しながら教室を出て行く。


 そんな姿を後ろから眺めていた涼は、漠然と思う。


(俺の世界って、こんなにも温かかったんだな……)


 幼馴染の澪と皐月しかいなかった涼の世界に、椿姫が加わり、浅草校外学習を経て佐久間と心海が加わり、そして球技大会を経て八重が加わった。

 潔癖症の克服練習をする前は、自分の世界がこんなにも変わることを、涼は想像していなかった。


「涼! なにしてるの? 行くよー!」


 潔癖症克服に向けて親身になって協力してくれた幼馴染の澪。


「涼くん、行きましょう?」


 涼が潔癖症の克服を目指すきっかけをくれた椿姫。


 涼の口角は、自然と上がっていた。


「ああ、今行く」


 澪と椿姫の横に並ぶと、澪が「えいっ」と言って涼の腕に抱き着いてきた。


「なっ!?」


 驚く涼に、同じように目を丸くしていた椿姫が、恐る恐る涼の反対側の腕をとった。


「つ、椿姫さん!?」

「み、澪ちゃんが大丈夫なら、私も、大丈夫かな、と思いまして……」


 涼の様子を窺うように上目遣いで見つめてくる椿姫。


「いや、まぁ、多分、大丈夫、だけど……」


 涼の返答に、椿姫はほっとしたように、そして誰もが目を奪われるような満面の笑みを浮かべる。


「よかったです!」


 女神のような微笑みに、相変わらず綺麗だな、と涼が思っていると右腕がぎりぎりと締め付けられた。


「ちょっと涼~???」

「み、澪、腕……」


 涼の言葉などまるで聞くことなく、澪は反対にいる椿姫に言う。


「椿姫ちゃん! 涼にくっついていいのは、幼馴染だけなんだよ!」

「親友では、だめなのですか?」


 椿姫のしゅんとした表情に、澪はうっと言葉を詰まらせる。


「ちょっとだけなら、……いいかもだけど……」


 澪の言葉に、椿姫は「それでは!」と言ってぎゅっと涼の腕を抱きしめた。


「ちょっ! 椿姫ちゃん!? ちょっとだよ!? ちょっとだけ!」

「うふふ」


 澪が慌てて椿姫を止めるが、椿姫は楽しそうに笑うだけだった。

 両側から押し当てられる柔らかなものに意識を向けないようにしながら、涼は言葉を絞りだす。


「二人共、随分仲良くなったんだな?」

「昨日、澪ちゃんのお家にお邪魔して、今日のために一緒にケーキを作ったんです」

「ケーキ?」


 そんなに仲良くなっていたのか、と単純な感想しか持たなかった涼に、澪はまったくといった表情で言う。


「涼、本当に鈍いんだからっ」

「え?」


 きょとんとする涼に向かって、澪と椿姫は言った。



「お誕生日おめでとう! 涼!」

「お誕生日おめでとうございます。涼くん!」



 六月三十日、今日は涼の誕生日であった。


 ああ、そうか、それで、と涼はようやく合点がいく。皐月が遊びに誘ってきたのも、涼の誕生日を祝うためだったのだろう。賑やかになるよう友人達を誘ったのも。


「ありがとう、二人共」


 涼がお礼の言葉を口にすると、二人は満面の笑みを浮かべる。


「涼のために、抹茶のケーキ作ったんだからね? 楽しみにしてて!」

「澪ちゃん、ケーキ作りとってもお上手なんです! さすがお菓子作り部ですね」


 椿姫の言葉に、澪はえへへ、と照れたように笑う。

 どうやらこの仲の良さは昨日のケーキ作りにあったようだ。


 二人でどのような話をしたのだろうか。


「それは楽しみだ」

「うんっ! やっと涼に食べてもらえるね!」


 涼の言葉に、澪は嬉しそうに笑った。




 自転車を押す涼の隣で、澪と椿姫が楽しそうに談笑している。

 その前では皐月がなにか言って、佐久間を笑わせている。

 さらにその前では、心海と八重がお腹を抱えて笑っていた。二人は気が合うのかもしれない。


 ふと澪に視線を向けると目が合って、そうして澪はいつものようににこっと笑い掛けてくれた。涼も笑顔を返しながら、決意を新たにする。


(きっとこのまま潔癖症の克服練習を続ければ、俺は除菌に頼らず生きていけるようになるだろう。そうして心を強く保てるようになったら、俺は……)


 これから先、自分の運命に何が待ち受けているかなんて、きっと誰にも分からない。

 しかしどんなことがあったとしても、こうして支えてくれる友人達の力に自分もなりたいと、そう涼は強く思ったのだった。





(心を強く保てるようになったらと、確かに思ったが……)



 あれから数時間後。

 藤沢家で涼の誕生日会が催され、解散してすぐのこと。



 何故か涼のベッドの上には澪がいて、そしてその澪を涼が押し倒す形になっていた。




(いや、どうしてこうなった!?)




第二部 終わり





「潔癖症の俺は、どうしても彼女に触れたい」、第二部をお読みいただきありがとうございました!

椿姫ちゃんエピソードてんこもりでございましたが、お楽しみいただけましたでしょうか?

涼くん達の物語はまだまだ書く予定ではあるのですが、ひとまずここまででお休み予定です。

第三部は冬頃投稿できたらいいなと思っています。


まだまだ楽しく書いていく予定ですので、またお見掛けの際はよろしくお願いします!


四条 葵




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