第75話 ……告白?
施設の外に出ると、辺りはすっかり暗くなっており空には一番星が輝いていた。夏も近いせいか湿気を孕んだ蒸し暑い空気が通り抜ける。
(椿姫さんは、きっともう大丈夫だな)
椿姫の友人関係については、涼も少し気になっていた。あんなにも男女共に人気があるというのに、本人は酷く壁を作っており他人との関りを怖がっていた。それがどうしてなのか、やっと分かった上に、新しい友人も出来た。きっとこれからの椿姫の友人関係は目まぐるしく変わるだろうと涼は思っている。一応親友である涼からすると一抹の寂しさはあるが、友人であるからこそ、椿姫のことは応援したいとも思う。
「俺も、頑張らなくちゃな……」
椿姫は過去のトラウマを乗り越えた。次は自分の番だ。
「戻るか」
急にいなくなった涼を澪や皐月が気になっているかもしれないと思い、カラオケルームに戻ろうとしたのだが、アミューズメント施設の入口に見慣れた桜色の薄手のカーディガンを羽織った女子生徒が目に入る。
(澪……?)
声を掛けようと思ったが、誰かと話している様子だったため涼は思わず柱の陰にこっそり隠れた。
(いや、隠れる必要あったか? 別にそのまま挨拶して通り過ぎれば良かったんじゃ……)
そう思いながらも、澪の話し相手に視線を移すと、相手はクラスメイトの男子、勝山であった。
勝山とは浅草の校外学習時にたまたま同じ班になったが、以降涼は話していない。
(勝山か……澪に気があるんだよな……)
とそこまで考えて、涼ははっとする。
「もしかして……告白か……?」
ここからではよく聞こえないが、必死に何かを言い募る勝山に、澪は困ったような笑みを浮かべている。
(間に入った方がいいか? いや、でももし告白なら邪魔することにならないか?)
当然澪には自分以外の男と付き合ってほしくないと思う反面、それを決めるのは自分ではなく澪であるとも承知している。であるならば、ここで涼が口出しするのも可笑しな話だ。
そう頭では理解していたはずなのに、涼は二人の前に飛び出していた。
「澪」
急に出て来た涼に、澪も勝山も同じように驚いた表情を見せる。
「涼っ!? びっくりしたぁ~」
澪は驚きながらも、ほっとしたように小さく息をついた。
「悪いな、勝山。澪に用があるんだが、もういいか?」
ぽかんとする勝山にそう告げた涼は、次に澪に視線を向けて言う。
「行こう、澪」
「えっ、あ、うんっ!」
話は既に終わっていたのか、澪は涼の誘いに平然とついて来た。涼と澪はカラオケルームから少し離れたドリンクバーへとやって来る。
「涼? 用って?」
澪に尋ねられ、涼は苦虫を噛み潰したような顔をすることしか出来なかった。涼は思い切って正直に打ち明ける。
「……悪い、特に用はなかったんだ」
「へっ??」
澪はきょとんと大きな瞳を瞬かせながら涼を見つめる。
(まずいな……咄嗟に澪を連れ出してしまったが、何だか嫌だったから、なんて幼稚なこと言えないよな……)
それは高校生にもなって恥ずかしいことだ。しかし好きな女子が他の男と二人きりでいるところを見てしまってはどうにも動かざるを得なかった。
涼は何か言い繕うべきか悩んでいたのだが、その様子に澪がぷっと吹き出した。
「あははっ! なにそれっ」
急に笑い出した澪に、今度は涼が目を丸くする。
澪はむふふんっと締まりのないにやけた表情を浮かべながら涼を見つめる。
「涼ってば、もしかして澪ちゃんが他の人に取られちゃうっ! って思ったのかなぁ??」
その表情は酷く緩み切っており、何故だか物凄く嬉しそうだった。
「……別に……そういうわけじゃないが……」
急に恥ずかしくなった涼は、もごもごと続ける。
「邪魔したか?」
もし先程の勝山の話が告白でそれを澪が受けるつもりだったのならば、涼は邪魔者以外の何者でもないだろう。
澪の返答を待っていると、澪は少し困ったように眉を下げて笑った。
「全然っ! 邪魔なんかじゃないよ。寧ろありがとうね。そろそろ部屋に戻りたいって思ってたから」
「……そうか」
「うんっ!」
澪と勝山がどんな話をしていたのかさっぱり分からないが、ひとまず澪とどうこうなると言う話ではなかったようだ。
「涼」
「ん?」
「ちょっとだけ、二人きりで話さない?」
澪はにっと口角を上げる。時々その表情が妖艶に見えることがあり、涼は少しドキッとする。
「……いいけど」
澪に連れられてやって来たのは、アミューズメントパークを出てすぐの小さな公園だった。暗くなったこともあり、もう遊んでいる子供たちの姿はない。
「話ってここじゃなきゃ駄目なのか?」
前を歩く澪に尋ねると、澪は「うん、人にあんまり見られたくないから」と言う。
不思議に思いながら澪の後についてやってくると、澪はくるっと涼を振り返った。
「じゃあ、始めよっか! 潔癖症の克服練習!」




