第68話 バレーとバスケ
澪や椿姫、心海率いる2Ⅾのバレーボールチームは三年生の相手チームに大差を付け勝利を収めた。
澪の運動神経はずば抜けており、アタックを決めるだけでなくどんなボールにも食らいついていく一生懸命さに目が離せなかった。たかが学校の球技大会であるはずなのだが、澪は手を抜くことなく真剣に取り組み、勝利を手にしていた。
(澪らしい闘い方だったな……)
涼も澪の運動神経の良さは知るところだが、ここまでとは思わずそのプレーに目を奪われてしまった。
対して椿姫も、運動は得意でないながらもボールをしっかりと見、チームメイトのアシストとして大活躍していた。
勝利を手にした澪は、眩しい笑顔を浮かべて涼の元へと戻ってくる。
「いえーい! 勝ったよ! 涼!」
「おめでとう」
額の汗を拭いながら澪はにこっと笑う。ジャージを澪に手渡す瞬間、澪が涼へと一歩距離を詰めた。
「涼が応援してくれたからはりきっちゃった! 汗すっごいかいちゃったかも?」
言いながら体操着の中に風を入れようと、ぱたぱたと首元を引っ張る澪。一瞬見えたピンクの肩紐に涼はぱっと視線を逸らした。
「は、早く更衣室に行った方がいいんじゃないか? 汗拭きシートとか置きっぱなしなんだろ?」
「うんっ、じゃあちょっと行ってこようかな?」
澪はむふふんっと怪しげに微笑むと心海と共に更衣室へと向かう。
涼が盛大に溜息をつきたい気持ちになっていると、椿姫がふらふらとやって来た。
「りょ、涼くん、ジャージありがとうございました……」
「椿姫さん、大丈夫か?」
慣れない激しい運動に疲れたのか、椿姫の足元は覚束ない。
「大丈夫です、ちょっと頑張りすぎちゃいました」
えへへ、と恥ずかしそうに笑う椿姫に涼も微笑む。
「お疲れ様。次の委員会の仕事までまだあるから、椿姫さんもゆっくり休んでくれ」
「はい……」
椿姫の首筋からつーっと汗が伝い胸元へと流れていく。周囲でごくりと喉を鳴らす音が聞こえたような気がした。
涼は慌てて椿姫へとジャージを渡す。椿姫はそのジャージを胸元に抱えながら体育館を後にした。
そうしてようやく涼は息を吐き出した。
(どうして澪も椿姫さんもこう無防備なんだ……)
自分がモテる自覚がないのだろうか。穏やかな性格はいいことだが、もう少し危機感を持ってほしいと涼は思う。
白熱したバレーボールの試合が落ち着いた頃。反対のバスケットボールコートに立った涼はまた大きく溜息をついていた。
コートの周りには女子のギャラリーが多く、みな目をハートにしてこちらを見ている。その視線の先はもちろん涼ではない。隣に立っている金髪ピアスのイケメンだ。
「いよいよ俺達の試合だな!」
「そうだな」
「ていうか、なんかギャラリー多くね? さっきまでこんなにいたっけ?」
こてんと首を傾げる幼馴染イケメンの皐月は、どうやらそのギャラリーが自身の応援のために集まったとは到底考えつかないようだった。
お前を見に来てるんだよ、揃いも揃って鈍感め、とは思いつつも口に出さないでおく。
皐月は校内でも一位、二位を争うイケメンである。しかし当の本人は明るくどちらかと言うと三枚目のため親しみやすく、学校行事でもない限りキャーキャー騒がれることはない。当の本人も恋愛とは距離を置いているため、あまり気に掛けていないようだった。
「頑張ろうな! 涼」
「ほどほどにな」
にかっと笑顔を向けて来る皐月に、涼も微笑を浮かべて返す。
ピーっと集合のホイッスルが鳴り、コートの中央へと並ぶ。涼達二年Ⅾ組の相手は、同じく二年のG組男子だった。
整列した顔ぶれを見ても涼は当然誰一人知らなかったのだが、相手は涼と皐月をじろじろと睨み付けていた。
(なんで俺まで睨まれてるんだ?)
皐月だけが睨まれているならまだ理解出来る。「けっイケメンがっ」という単なる僻みだろう。何故自分まで睨まれているのか分からなかった涼だが、その答えはすぐに分かった。
「涼―! 頑張れ~! ついでに皐月くんも~!!」
「涼くんっ! ファイトですっ!」
どうやら休憩から戻ったらしい澪と椿姫が、涼へと応援の言葉を掛ける。
その言葉を聞いたG組男子は、また容赦なく涼を睨み付けた。
「お前、名前なんだっけ?」
G組男子に睨まれた涼はまたも溜息をつきたい気持ちをぐっと堪え口を開きかける。しかし先に口を開いたのは皐月だった。
「あ、俺? 辻堂 皐月!」
「お前に訊いてねえよ! つーか知ってるし!」
皐月が涼を庇う様に答えると、G組男子がすかさずツッコむ。そうして高らかに宣言した。
「今日こそお前に勝ってやるからな!? 日頃の恨み! ここで晴らさせてもらうぜ!」
「OK! OK! 楽しもうな!」
最早会話が成立しているのかどうか怪しいが、どうやら彼は皐月の知り合いであるらしい。もしかしたら皐月と同じバスケ部の生徒なのかもしれない。
なんだ、仲良しか、と涼はほっと息をつく。自分も羨ましいと思われる対象であることは、この際忘れておくことにした。
「いくぞ、涼ちん!」
「ああ」
試合開始のホイッスルが鳴りジャンプボールを皐月が取ると、そのまま颯爽とコートを駆ける。金髪幼馴染のピアスがきらりと光った。




