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(第二部完結) 潔癖症の俺は、どうしても彼女に触れたい  作者: 四条 葵 


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第64話 side 椿姫


「それでは、おやすみなさい」

『ああ、おやすみ』


 スマホから聞こえる機械を通した少しくぐもった穏やかな低い声に、名残惜しく思いながらも椿姫は通話を切る。


 ふうっと小さく息をついて、今まで話していた相手のアカウントが表示されているスマホ画面を見つめる。抹茶のロールケーキのアイコンの横には、「藤沢 涼」と表示されていた。


 椿姫は自身の胸に手を当てる。とくとくといつもより少しだけ早く動く心音に、心地よさを感じながら。


(好き……です……)


 涼を想う度、涼と話す度、彼を好きになる自分がいる。


(今日はやっと、中学の頃のお礼が言えました……。涼くんが少しでも覚えていてくれて嬉しかったな……)


 どうして急に涼が中学の話など持ち出したのかは不明だが、少しでも覚えていてくれたのならそれで十分だった。

 そうして椿姫はまた、今日何度思い返したか分からない、体育倉庫での出来事を思い出す。


 立ったりしゃがんだりと忙しなく作業していたせいなのか、はたまた倉庫の暑さに気分が悪くなったのか、詳細は定かではないが結果的に涼に迷惑を掛けてしまった。

 と同時に、ラッキーだったと思ってしまう自分もいることに、椿姫は猛省していた。


(涼くんに迷惑を掛けておいて、涼くんに近付けたことを嬉しく思うなんて! なんて自分勝手なのでしょうか!)


 きっと椿姫に近付かれてものすごく嫌だったはずだ。人に触れるのが苦手だと散々聞いていたのだ。


 しかし涼は驚きながらも、椿姫の体調を最優先してくれた。


(どうして涼くんはそんなにもお優しいのですかっ! 本来なら突き飛ばされても可笑しくはないと言うのにっ!)


 涼がそんなことをしないとは思いつつも、椿姫としてはそれだけ涼に対して精神的な負担をかけてしまったと思っている。


「……でも、涼くん……なんだか優しい匂いがしました……」


 腕の中にいると穏やかな気持ちになり安心するような、そんな心安らぐ匂い。


「いただいたスポーツドリンクも美味しかったな……」


 恐らく涼の飲みかけであろうスポーツドリンクは、半分ほどが減っていて甘く少しだけしょっぱさを感じた。


「か、か、間接、き、キス……だったのでしょうか……っ」


 恐らく授業中に飲んでいたものを、わざわざ口を付けずに紙コップなどに移して飲んでいるとは考えにくい。普通ならば口を付けて飲んでいるだろう。


「涼くんと、か、間接キっ……っ!」


 顔を真っ赤にした椿姫は、敷かれた布団の上にぱたりと身を横たえる。

 本意ではないとはいえ、潔癖症である涼と間接キスが出来るは思っていなかった。 そうして椿姫の中には少しずつ、欲が出てくる。


(た、例えば私と涼くんが恋人同士になれたとして、いつか涼くんと手を繋いだり、直接き、キスをしたりすることは出来るのでしょうか……?)


 潔癖症である涼では現状難しそうな気がしてはいるが、いつかそんな未来があったら、と想像するだけで椿姫の頭はまたくらくらとし出し、身体が熱を持ってくる。


「いつか、涼くんと恋人になれたら……」


 窓から差し込む月明かりを見つめながら、椿姫は願う。

 そうして椿姫は、いつもより少し早いが眠りにつくことにした。


 布団に入っても結局涼のことを考えてしまい、ドキドキして上手く寝付けなかった。




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