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潔癖症の俺は、どうしても彼女に触れたい  作者: 四条 葵 


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第48話 球技大会委員


 三者面談も四日目を迎えた四限目のLHRにて。涼達の担任である国語教諭、餅月が教卓の前で筋肉によってぱつんぱつんのTシャツを更にはち切れんばかりにぱつんぱつんに膨らませ、よく響く低音ボイスで言った。


「今日のLHRは、球技委員を決めようと思います。再来週末は球技大会があります。去年参加した君達は知っていると思いますが、球技大会委員は、試合の審判、準備などを担当してもらいます。放課後には、委員会の集まりもあります」


 教室中が剣呑な雰囲気に包まれる。


 涼達の通う高校で行われる球技大会は、六月の中旬、三者面談週間の終わりに開催される。サッカー、バスケ、バレーボール、テニス、卓球にそれぞれ分かれ、クラス対抗で学年関係なく試合が組まれる。


 その球技大会を取り仕切る、球技委員を決めようというものだった。


 球技大会は生徒主体で開催されるので、その代表が生徒会と球技委員であった。


(競技大会……もうそんな時期か……)


 涼はスポーツが苦手というわけではないが、潔癖症故に自分が汚れることはあまり得意ではなかった。いつも清潔を心がける涼にとって、一日中球技に勤しみ、汗をかかなくてはいけないのは少し憂鬱であった。


(澪や皐月は、球技大会を楽しみにしていそうだよな)


 涼の幼馴染二人は運動が得意である。皐月は現役バスケ部であるし、澪も運動に関しては幼少の頃から得意なようだ。


(椿姫さんはどうだろうか……)


 椿姫も涼と同じく、勉強は得意だが運動の方には然程得意なイメージはない。四月に行われた体力測定の後の勉強会でも、疲れて眠ってしまっていたくらいだ。体力は平均くらいか、それ以下かもしれない。

 涼がそんなことをぼんやり考えているうちに、餅月が話を進めている。


「男女一人ずつ、球技委員を決めます。やりたい人はいますか?」


 餅月の良く通る野太い声が教室中に響くが、室内はシーンと静まり返っていた。

 運動部や運動が得意な生徒は恐らく立候補しない。自分の試合に集中したいからだ。


 ふと涼が皐月の方へと視線を巡らせると、皐月はそれにすぐに気が付き手でバツ印を作ってみせた。やはり皐月としては競技に集中したいようである。

 そうして自然と皐月の隣の席である椿姫とも目が合って。椿姫が相変わらずの優雅さで涼へと手を振った。涼もそれに振り返す。


 餅月の困ったような声が耳に入る。


「困りました。立候補はいないようですね。先生が適当に決めてしまってもいいですか?」


 その言葉に生徒達が渋々首を縦に振った。勝手に指名されるのも心底嫌だが、このままでは拉致が開かないのも事実だ。運命を神、いや餅月に委ねるしかない。

生徒達の反応を確認した餅月は力強く頷く。


「わかりました。では、今朝測定した僕の骨格筋率で決めてしまいたいと思います」


 骨格筋率……? と生徒達の頭の上にはてなが浮かぶ。


 この学校は日付の出席番号だけでなく、将棋の動きや、骨格筋率の数字で当ててくる。ようは日付だけ警戒していても意味がないのだ。どんな訳の分からないところから数字を導き出してくるのか、生徒は気が気ではない。因みに骨格筋率とは、体重に対する骨格筋の割合の数字である。


「今朝の僕の骨格筋率は四十八パーセントだったので、四+八で出席番号十二番の方!」


 餅月が右手を挙げて教室中を見回す。しかしいつまで経っても生徒から手は挙がらなかった。

 餅月は教卓に置かれている出席簿を確認する。そうして、「ああ、そうでした」と一言呟いた。


「出席番号十二番の加藤さんはお休みでしたね」


 加藤と呼ばれた生徒は、涼の前の席で本日は朝から体調不良により欠席していた。欠席している者に対して、貴女が休んでいる間に球技委員になりました、とはさすがに言えない。

 餅月は逡巡して、「では」と口を開く。顔を上げた餅月と涼の視線がばちっと合った。


(まさか……)


 涼はいつかのような嫌な予感を覚える。そしてそれは的中するのだ。


「では、後ろの席の、藤沢くん。お願いします!」


(だからなんで前の席のやつもいるのに、二択で後ろの席の俺を選ぶんだ⁉)


 以前数学教師に当てられた時も、右も左もいるというのに何故か涼が指名された。嫌な予感はしていたが、涼は自身の運のなさを恨んだ。

 文句を言いたい気持ちはあるが、餅月の爛々に輝いた瞳が有無を言わせることはなかった。


 大きなため息をつきたい気持ちをぐっと堪えていると、ふと視線を感じて涼はそちらに目を向けた。

 廊下側の座席から、澪が驚いたように涼を見ていた。澪は何か決意しように前を向き、右手を挙げようとして、瞬間後ろの方の座席から、震えたような声が聞こえた。


「せ、先生! わ、私、やりますっ!」


 その綺麗な声に、二年Ⅾ組の生徒全員の視線が集まる。


 涼も驚いて後ろを振り返ると、控えめに手を挙げていたのは、椿姫だった。




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