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潔癖症の俺は、どうしても彼女に触れたい  作者: 四条 葵 


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第41話 克服練習復習編


「あ! そうだ! せっかくだから、やってみない!?」

「やる? なにをだ?」

「潔癖症の克服練習!」


 澪の言葉に、涼は少しドキリとする。


「澪、さっきも言ったが、ここのところ除菌が手放せないんだ。もしかしたら、」


 以前みたいに触ることはできないかもしれない。


「涼!」


 表情を暗くした涼に対して、澪は明るく笑う。


「この【潔癖症さよなら大作戦】で大事なこと、忘れてない?」

「え?」

「明るくポジティブな思考で取り組むこと! できなくてもいいんだよ! 今日できなくても、明日以降はできるかもしれないんだから! 気楽に気楽に!」

「ああ……、そうだったな」


 澪の力強い言葉に、涼はまた明るい方へと引っ張られて行く。


(いつか俺は、澪にこの想いを伝えられる日が来るのだろうか)


 潔癖症になったあの日。盛大に恋へのトラウマも生まれた。

 それでも涼は、澪を好きになってしまった。一度自覚してしまうと、その想いはもう変えようがなかった。


「で、ここのところ除菌がやめられないって話だけど、私が見てるかぎり、そんなに除菌してるようには見えないんだけど……」

「え……」


 確かに澪が来てから、除菌しただろうか? 食べる前に手を洗ったりはしたが、過度な除菌はしていないように思う。


 澪は徐にパンツのポケットからスマホを取り出すと、すいすいとなにか画面をスクロールし始める。急にどうしたのだろうかとその様子を窺っていると、澪は涼にスマホを差し出した。


「涼、これ見て」


 澪から差し出されたスマホを、涼はそのまま受け取り、表示された画面に目を落とす。


「な……っ……」


 そこに表示されていたのは、著しく面積の少ない、なにを隠すためのものなのかわからない用途の怪しい真っ黒のランジェリーが写し出されていた。


(澪が着たら、色々はみ出しちゃうんじゃないか……)


 などと妄想が膨らみそうになっていると、澪が涼の手からスマホを奪い取った。


「はい! おしまいでーす!」


 そう言って澪はスマホをパンツのポケットへと戻す。


「涼ってば、やっぱりちょっとえっち……?」

「はぁ? お前が急に見せてきたんだろ!? ていうか、やっぱりってなんだ!?」

「え~そのわりには結構じっくり見てたでしょ~?」


 澪はむふふとからかうように笑う。


(くそっ、なんだ急に。こっちは真面目に潔癖症の克服に取り組もうとしてるってのに……)


「まぁまぁ、そんなに怒らないで! 涼ママの美味しいパウンドケーキでも食べてさっ! はい、あーんっ」

「んぐっ!」


 澪に無理やりパウンドケーキを突っ込まれた涼は、それを慌てて咀嚼する。


「急になにするんだ!?」

「ほら! 全然大丈夫じゃんっ」

「え?」

「私のスマホも普通に触ってたし、食べ物のシェアだってできたよ?」

「それは……」


 確かにそうだ。ついこの前までできなかったことが、簡単にできている。除菌がしたいと、心が落ち着かずに騒ぐこともなかった。


「大丈夫だよ、涼。どれだけ立ち止まったって、涼は確実に前に進んでる。振り出しになんか戻ってないよ。今までやってきたこと、無駄じゃなかったよ」


 澪はそう言ってにこりと笑う。


「それになんだかんだ、七つ目の項目、

・他人を家にあげる

もできちゃった! 涼、すごいよ!」

「……ああ……」


 家に澪を強引に上げたのは母ではあるのだが、特に嫌悪感はない。


 きっと澪とならこれから先も涼は前を向いて歩いていける、そう目の前の頼れる幼馴染を見ていると自然と思えてくるのだから不思議だ。


(こんなに心強い幼馴染がいて、立ち止まっていられるわけがない)


 立ち止りたくてもきっと、澪なら強引に背中を押してくるのだろう。しかし涼にとってそれは心地の良いものであった。


「ねえ、涼、大丈夫そう?」

「ああ、大丈夫だ」

「よかった!」


 このやり取りも、もう何回目だろうか。きっとこうして繰り返して、少しずつ潔癖症とさよならしていくのかもしれない。

 目を瞑ると、笑顔の澪が涼に笑いかける。


(もう大丈夫だ。俺はまた、前を向いて進んでいける)


 眩しいほどのオレンジ色に包まれたあの日の教室は、もう涼の網膜には映らなかった。穂乃の顔も浮かんではこなかった。


「澪、これからもよろしくな」

「うんっ! もちろんだよ!」


 さて、今日はこれでお開きかな、と思っていると、澪が突拍子もないことを提案してきた。


「ねえねえ! ついでと言ってはなんだけど、せっかく涼の家に来たんだし、部屋、行ってもよかったりする?」

「え……」


 部屋、とはもちろん涼の部屋のことだろう。人を自分の部屋に上げるのは、実に小学生ぶりのことであった。


「澪が嫌じゃないなら……、俺は構わないが……」


 少し怖さもある。汚いなどと言われたらと思うと、当然怖い。けれど澪がそんなこと言うはずもないし、また一歩踏み出すことを決めたのだ。チャレンジするだけしてみてもいいだろう。


「やった! 涼の部屋行くの久しぶり!」


 澪は嬉しそうに涼の後ろをついてきて、階段を上がった。




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