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潔癖症の俺は、どうしても彼女に触れたい  作者: 四条 葵 


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第32話 班決め


 四月も四週目の半ばに差し掛かっていた。カーディガンで過ごすくらいがちょうどいい気候が続いている。


 六限目はLHRで、そんな暖かさから少しうとうとしかけていたときだった。担任の餅月先生の低くよく通るいい声が教室に響いた。


「では、来週の校外学習の班決めをしてもらいます」


 先生は爽やかな笑顔を浮かべて、筋肉でぱつんぱつんのTシャツの前で腕を組んだ。


(校外学習……もうそんな時期か……)


 四月の終わり、または五月の初めに、津田森高校では校外学習に行くのが恒例となっている。この学校は毎年クラス替えがあるので、その親睦も兼ねての校外学習なのだろう。涼たち二年生は今年、東京の上野・浅草方面へ行くことになっている。


「じゃあ自由にグループを作ってみてください。あまり時間が掛かるようなら、くじ引きになりますからね」


 先生のその言葉を合図に、生徒たちが一斉に立ち上がる。涼も一応立ち上がったはいいものの、行く先は一つしかないので慌てる必要はなかった。


「皐月」

「お、涼」

「俺と同じ班になってくれ」

「もちろんだぜ! つーか今涼のこと誘いに行こうと思ってたとこ!」


 皐月はそう言ってイケメンスマイルを浮かべる。


 「あとのメンバーはどうすっかなぁ」と呟いた皐月は、窓際でぼーとしている一人の男子生徒に声を掛ける。


佐久間(さくま)! うちの班来ねえ?」


 佐久間、と呼ばれた男子生徒は、申し訳なさそうにこちらにやってきた。あまり口数が多いようには見えず、(俺と似たようなタイプかもしれない)と、涼は勝手に親近感が湧く。


「えっと、辻堂くん。よろしく……」

「おう! よろしくな!」


 佐久間は涼に向かってもぺこりと小さくお辞儀をした。


「涼、知ってるかもしれねえけど、こいつ、佐久間 桜士郎(さくま おうしろう)な。話してみるとすげー面白いから。んで佐久間、こいつは俺の幼馴染の藤沢 涼。仲良くしてやってくれよな」


 皐月の紹介に、二人は小さくペコリと頭を下げた。


 続いて皐月が声を掛けたのは澪だった。


「おーい! 澪!」


 澪は一瞬「げ」という顔をして、しかし隣にいる涼を見るとそそくさとこちらにやってきた。


「澪、俺らとグループ組もうぜ」

「まあ、別にいいけど。あ、心海(ここみ)もいい?」


 ここみ、と呼ばれた女子生徒が、澪の後ろからひょっこりと顔を覗かせる。低めの身長にちょこんと短い二つ結び。この前涼を見ていた女子生徒だった。


「おう! (みさき)さんか! いいぜいいぜ! よろしくな!」


 どうやらフルネームは岬 心海(みさき ここみ)というらしい。皐月が相変わらずの陽キャムーブで心海に声を掛けると、心海は慌てて澪の後ろに隠れた。「あれ?」と首を傾げる皐月に、涼は「ドンマイ」と声を掛けた。


「班員って何人だっけ?」

「六人か七人だって」


 皐月の質問に澪が答える。二人のやり取りをただなんとはなしに眺めていたのだが、急に澪が涼に視線を向けて、ばっちりと目が合ってしまった。二人の頬がみるみるうちに赤くなる。


 気まずくなった涼は、慌てて視線を教室内に彷徨わせて、ふと、椿姫が困っている姿が目に留まった。椿姫は男子に声を掛けられており、困ったようにおろおろしていた。


(男子グループに女子一人はさすがにきついだろ……)


 どうせ椿姫に好意を寄せているよこしまな連中だ。涼は椿姫に声を掛けた方がいいだろうかと逡巡して、その間に皐月が椿姫へと声を掛けていた。


「おーい、北白河さん! 俺たちのグループに入んない? 今ならもれなく涼くんもついてきまっす!」


 皐月の言葉に、椿姫に言い寄っていた男子達が一斉に涼を見た。「は? なんで藤沢?」という声が聞こえ、涼は静かに皐月の影に隠れる。


 余計なこと言うなよ……と思いつつも、椿姫に声を掛けてくれたことには感謝する。クラスメイトも涼が椿姫に声を掛けるよりも、皐月が声を掛けた方が特になにも思わないだろう。皐月は男子の中心にいるような存在だし、皐月の陽キャで気さくなところはクラスメイトみんなが知るところだ。


 皐月は爽やかイケメンスマイルを浮かべると、椿姫に手を伸ばす。


「どう?」


 皐月の言葉に、椿姫は困ったように辺りに群がっていた男子生徒を見回す。そして最後に皐月の後ろに立っていた涼に目を向けると、決心がついたようにこちらへやってきた。


「ぜ、ぜひご一緒したいです! よろしくお願いします!」


 「おう!」とにかっと笑う皐月に、澪と心海も「いらっしゃい~!」と歓迎する。涼が小さく手を挙げると、椿姫もそれに答えるように小さく手を振り返してくれた。


 椿姫に誘いを断られた男子達は、みな一様にがっくりと肩を落としていたが、残りの一枠をかけて勝手にじゃんけんをはじめる。


 そうして校外学習のメンバーは、涼、澪、椿姫、皐月、心海、佐久間とじゃんけんで勝った勝山(かつやま)という男子の七人に決まったのだった。


 続いて、各班での自由行動の行先を決める。上野で歴史的建造物や資料館を見たあとは、班での自由行動となっている。自由行動だからと言って、遊びまわってもいられない。ゴールデンウィーク中に校外学習で学んだことをレポートとしてまとめなくてはならないのだ。


「で、俺達は上野のあとどこ行く?」

「うーん、そうだねぇ……せっかく浅草に行くなら、私、仲見世通りに行きたいかも!」

「あ! あたしも行きたい!」


 澪の言葉に、心海も賛成! と手を挙げる。


「涼ちんは?」

「俺は詳しくないから、みんなに任せるよ」

「佐久間は?」

「僕も任せるかな」


 やはり涼の見立て通り、佐久間は涼と似たようなタイプらしい。校外学習が特別楽しみとも思っていないような雰囲気で、グループの会話を聞いている。


「浅草周辺は神社やお寺さんもありますし、私もいいと思います」


 椿姫も賛成の意を唱える。勝山もそれに頷いた。


「じゃ! 浅草の神社とかさらっと回って、そのあとは仲見世通りで食い倒れにしようぜ!」


 皐月がそうまとめると、みな「賛成!」と同意した。




 自由行動のルートも授業内にすんなりと決まり、決まった班から下校となった。

 今日は澪も部活動があるらしく、潔癖症の克服練習はできず、涼は直帰することとなった。

 この前のことがあって澪と顔を合わせづらかった涼は、正直ほっとしていた。


 いつものように駐輪場へと向かっていると、男子の楽しそうな笑い声が聞こえてくる。「お前の校外学習の班羨ましすぎ!」という言葉が耳に入って、涼は柱の陰に隠れた。


(同じクラスのやつか……? 少し待ってからにするか……)


 まさか話しかけられるなんてことはないだろうが、なんとなく気まずいので涼は少しの間その場で待機することにする。男子達は引き続きげらげらと品のない笑い声を上げている。


(楽しそうなのはいいが、さっさと帰ってくれないかな……)


 涼が空を見ながらぼんやりそんなことを思っていると、聞き馴れた名前が聞こえてきて、思わず耳を澄ましてしまう。


「お前マジじゃんけん強くね!? 北白河さんと一緒の班とかめっちゃ羨ましい~!」

「つーか北白河さんって、辻堂のこと好きなんじゃね? 辻堂が誘ったらすぐそっち行ったじゃん。いいよな、イケメンは」

「まぁまぁ、敗者の諸君。それくらいにしておきなよ」

「うわっ勝山うざっ」


 そんな声が耳に届いてきて、涼はなるほど、と思う。


 勝山という男子生徒とは初めて同じクラスになり、初めて同じ班になった。行先を決める話し合いでは、特に自分の意見を強く言うようなタイプではなかったのだが、友人と話すときはどうやら本性が出るようで、先程から鼻高々といった様子で羨ましがる友人をいなしている。


 そんな勝山が、意気揚々と話し出す。


「たしかに北白河さん狙いでもあったんだが、本命は桜坂さんかなー。北白河さんは目の保養で高嶺の花って感じだけど、桜坂さんは同じくらい可愛いしスタイルもいい。気さくでノリもいいし、もしかしたら簡単にOKしてくれるかもしれない。この校外学習で絶対お近づきになってやるぜ」


「うわっ、こいつマジでゲス!」などとまた一通り盛り上がりながら、男子の集団が駐輪場から出て行く。


 涼はその後ろ姿を見つめながら、自身の中に生まれた感情に眉根を寄せていた。


(澪はモテる……そんなことわかってたはずなんだけどな……)


 小中高と一緒に過ごしてきて、澪のことが好きだという男子は結構いた。明るく誰にでも優しい澪がモテないはずがない。


「くそっ……、なんだこれ……」


 言いようのないもやもやとした気持ちが涼の心に渦巻く。


(ただの幼馴染でしかないはずの俺が、澪を取られたくないとでも思っているんだろうか……)


 涼は大きくため息を吐き出すと、自転車のペダルを思い切り踏み込んだ。





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