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潔癖症の俺は、どうしても彼女に触れたい  作者: 四条 葵 


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第27話 一歩踏み出したのは自分だけではなかったようで


 なんだか清々しい朝だった。朝が清々しいだなんて、そんなふうに思うのはいつぶりだろうか。


 涼はいつものようにカーテンを開けて、朝陽を浴びる。時刻は午前九時だった。


「よく寝たな……」


 昨日は体育の授業で疲れてもいた。それに、椿姫との勉強会でも、少し気を揉むことがあった。結果的にはなにも気にすることなどなかったのだが、きっと精神的には疲れていたのだろう。


 昇降口での椿姫の顔が、ふと思い出される。


『では涼くん、また』


 そう言って微笑んだ椿姫はいつも通りに美しく、しかし少し頬が赤く染まって見えた。夕焼けのせいかもしれないが、もしかしたら名前呼びが少し照れくさかったのかもしれない。


(高校に入って初めて、友人ができてしまった……)


 なんだかそのことがむず痒く、くすぐったい。椿姫も涼を友人だと思ってくれているのが、これまた嬉しくもあり、照れくさくもあり。


(なんなんだろうな、この感情は)


 高校生にもなって、友人ができたくらいでこんなにも嬉しいものだとは知らなかった。


 涼としても椿姫となら、なんなく友人関係を続けていけるだろうと、安堵もしている。潔癖症についてはっきりと説明したわけではないが、椿姫なら涼の困るようなことはしてこないだろう。


(さて、今日はどうしたもんかな……)


 涼の土日は大抵引きこもって終わる。学校から課題が出ていればそれに取り組むし、なにもなければ本を読んだり、ゲームをしたりして過ごす。夜になれば皐月からゲームのお誘いがあるかもしれないが、皐月は日中バスケ部の練習があるため、どうしても日が昇っている間は一人で暇なのだ。


 別に寂しいとは思わない。涼にとっては一人でゆっくり過ごす時間は、気が楽で好きだからだ。


 枕元に置いていた読みかけの本を手に取って、そういえば椿姫はどんな本を読んでいるんだろうか、とふと考えた。椿姫と少し交流するようになってから、たまに教室での彼女の姿を意識するようになったのだが、休み時間は勉強しているか、たまに本を開いていることもあった。もしかしたら本が好きなのかもしれない。


(今度訊いてみるか……)


 お互いのことはまだ知らないことばかりだ。友人になったのだから、焦る必要は全くないのだが、少しずつ知っていってもいいのかもしれない。


 そんなふうに思っていると、スマホがポコンと可愛らしい音を立てて、メッセージアプリの通知を告げた。


 涼は充電器に刺さったままだったスマホを開いて、メッセージアプリをタップする。メッセージを送ってきたのは、澪だった。


(澪が土日にメッセージを送ってくるなんて珍しいな……)


 澪の土日は、友人たちと遊びに出掛けていて忙しいものと涼は思い込んでいた。ゆるい部活のようだから土日はないだろうが、澪なら遊びに誘われることも多いだろうし、家族仲もいいから、家族で出掛けていたりもするかもしれない。


 そう思っていた澪からの連絡だったので、涼は少なからず驚いてしまったのだ。


 メッセージアプリを開くと、スタンプがひとつ押されているだけだった。


 そのスタンプは、「ちらり」という文字が付いていて、たぬきが電柱から覗いているスタンプだった。


(どういう意味だ? 起きているか? って意味だろうか……?)


 ひとまず涼は、「おはよう」と文字の付いたねこのスタンプで返信した。するとすぐに既読マークが付いた。かと思うと、今度はピピピピッと着信音が鳴り響く。着信相手はもちろん澪だった。


『涼、おはよー!』


 澪の元気な声が涼の耳に届く。


「ああ、おはよう」

『ねえ、涼! 今日って暇かな?』

「え? ああ、別に予定はないけど……」

『よかったらこのあと、うちに来ない?』

「え……」


 涼は思わずフリーズしてしまった。


(澪の、家に……?)


 向かいにある澪の家へは、幼少の頃はよく遊びに行っていた。お互いの家に遊びに行って、そのまま泊まる、なんてこともざらだった。


 しかし、涼が潔癖症になってからは、そのような交流は全くなくなった。

 並んで座ってやっていたゲームも、今はオンライン上でやっているし、涼が潔癖症だから、ということもあるが、幼馴染とはいえ、高校生にもなって付き合ってもいない男女がお互いの家を行き来することはほとんどないだろう。


 涼が言葉に詰まっていると、澪が自信なさそうに付け足す。


『あ、えっと、これも一応【潔癖症さよなら大作戦】の一環って感じなんだけど……。ほら!次の克服項目、五つ目ね、

・他人の家に行く

てやつで……』


 そういえばそんな克服項目があったかもしれない。


『涼が暇だったら気楽に遊びに来ないかなぁ、って。あ! 本当無理にとは言わないよ!? 結構ハイペースで克服練習してきちゃってたし、涼が良ければ、だから!』


(澪、相当気を遣ってくれてるな……)


 そんな澪に申し訳なさと、自分への情けなさで涼は顔を歪ませる。


(こんなに俺のために協力してくれているのに、逃げるなんてできないよな……)


 今まで散々目を背けて逃げてきたのだ。今のところ順調に克服練習は進んでいる。今日も頑張ってみてもいいのではないだろうか。


 涼は決意を固めると、澪に「わかった」と返答する。


「行くよ」

『ほんとに!?』

「ああ」


 通話口から驚いたような喜んだような、そんな弾んだ澪の声が聞こえた。


『家、めっちゃ掃除しておくから、お昼過ぎくらいに来て!』

「わかった」

『楽しみ!』


 という澪の言葉を最後に、通話が終了した。


(楽しみ、って……)


 涼から思わず苦笑が漏れる。


 澪はきっとずっと、涼を遊びに誘いたかったのだろう。けれど、遠慮してできなかったのかもしれない。以前もなにか「我慢していた」、と澪は言っていた。澪は涼の潔癖症に対して人一倍気を遣っていた。本当はもっと気兼ねなく遊びたかったのかもしれない。幼少の頃のように。


 涼は大きく深呼吸を繰り返す。


(大丈夫だ。今日もきっとうまくいく)


 涼は少しずつ自分に自信がついているのを感じた。




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