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潔癖症の俺は、どうしても彼女に触れたい  作者: 四条 葵 


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第24話 side 澪



 金曜日の放課後。澪はこの時間がちょっと苦手だった。


 普通の人なら、翌日は土日とあって友達や恋人なんかとお出かけの予定があるのかもしれない。

 しかし今日の澪には、そんな予定は全くない。もちろんたまにクラスの女子や部活のメンバーで甘い物を食べに行ったりするのだが、今週はあいにくそんな予定はなかった。


 涼との【潔癖症さよなら大作戦】も、今日はお休みだ。


 澪はなんとなく直帰することもできずに、クラスメイトとだらだらとお喋りに興じていた。


(涼、今頃どうしてるかなぁ……)


 今頃きっと、椿姫との勉強会が行われているのだろう。前回もそうだったが、二人は教室にいない。まさか互いの家で勉強するなんてことはないだろうから、図書室辺りで勉強しているのかもしれない。


「澪、あたしたちそろそろ帰るね」

「あ、うん! ばいばい!」


 クラスメイトの女子たちも帰路に就いてしまって、澪は一人教室に残された。自席に戻って帰り支度を進めるも、やっぱりまだ帰る気にはなれなかった。


 澪は教室内をきょろきょろと見回し、次いで廊下も確認する。人影がないことを確認した澪は、涼の席にやってくると、隣の席の椅子を引いてゆっくりと腰を下ろし、机に突っ伏した。

 そうして大きく深呼吸をする。


(ああ、やっぱり……私、涼のことが好きだなぁ……)


 そう改めて思った。


(隣の席だったら、いつでもお喋りできるのに……)


 本当は涼の席に座りたかったのだが、まだ潔癖症の克服練習を始めたばかりだし、涼の負担になってはいけないと、さすがに自重した。

 もう何度思い返したかわからない、昨日の放課後のことを思い出す。


(涼のブレザー、温かかったな……。大きくていい匂いがして、涼に抱きしめられてるみたいだった。実際抱きしめられたことはないからよくわからないけど、でも、涼に抱きしめられたらこんな感じなのかなって、想像しちゃった……)


 潔癖症の涼が澪を抱きしめるなんてこと、一生ないだろうと思っていた。けれど、もしかしたら。涼がこのまま潔癖症を克服することができたのなら、そんなこともあるのかもしれない。


 澪の胸がきゅんと疼く。


 澪は小さい頃から少女漫画のような恋に憧れていた。

 少女漫画に出てくる男の子はかっこよくて、いざという時に女の子を助けてくれる。そんな男の子と恋をするのが夢だった。

 潔癖症である涼に負担をかけないようにと、ずっと心の奥底にしまっていた本当の気持ち。見て見ぬふりをしてきた気持ち。それが澪の中に溢れていた。



(やっぱり私はもうずっと、涼のことが好きだったんだ……)



 思い返せばあの時が、澪が涼に恋した瞬間だったのだろうと思う。




 幼少の頃の澪は今とは正反対で、大人しい女の子だった。涼とは家が向かいのため、物心つく頃から一緒にいたのだが、それ以外の子とはなかなか仲良くなれなかった。


 涼はあっという間に近所の公園の人気者になっていた。どんな子ともすぐに仲良くなって、友達もたくさんいて。そんな中で出逢った一人が皐月だった。


(皐月くんは悪い子じゃないけど、当時は涼を取られたみたいですっごく嫌だったなぁ)


 唯一の友人だった涼を取られたと思った澪は、それ以来皐月に対しては少し当たりがきついのだった。


 涼はいつも一人でいる澪を気に掛けてくれていた。いつも手を引いて、友人の輪に入れてくれていた。涼は明るく優しかった。澪はそんな涼に憧れていた。


(私も、涼くんみたいになりたい……)


 そんなときだった。周りの子が澪をあまりよく思っていないと知ったのは。

 いつもみたいに涼について輪に入ろうとした澪は、子どもたちの視線がいつもと違っていることに気が付いた。


「涼くん、また澪ちゃんと一緒なの?」

「澪ちゃん、いつもつまらなそうにしてるから、遊んでるこっちもテンション下がるんだよね。嫌なら来なきゃいいのに」


 澪としてはつまらないなんてことは決してなかった。緊張していて顔が強張っていたのだろう。それを誤解されても、澪はうまく説明できなかった。そのとき、涼が言ってくれたのだ。


「そんなふうに言うなよ。澪はこう見えて、結構楽しんでるぞ。緊張して顔は強張ってるけど、いつも楽しかったって一緒に帰るんだ。みんなともっと仲良くなりたいって、いつも言ってるよ」


 涼の言葉に、澪は胸がきゅっとなって思わず泣き出しそうになった。


「そうそう! 澪ちんは表現力に乏しいだけで、今ウルトラハイパーテンション上がってっから!」


 皐月から付け足された言葉に、澪は皐月の脇腹を思い切り小突いた。澪の意外な行動にもみんなは驚いたようだった。


「澪ちゃん、誤解しててごめんね……」

「わ、私こそ! うまくお喋りできなくて、その、ごめんね……!」


 謝ってくれたみんなに、澪はぶんぶんと首を横に振ってにこりと笑った。

 それから澪はあっという間にみんなと打ち解けた。たくさん遊んで、たくさん笑うようになったのだ。




(私が今の私になれたのは、涼のおかげなんだよ……)


 その恩返しがずっとしたかった。

 だから涼が潔癖症になったときも、自分になにかできないかと潔癖症について一生懸命勉強した。涼の力になりたかったから。


 椿姫との勉強会のあと、涼が潔癖症と向き合ってみようかと言ったとき、澪は嬉しくもあったが、それ以上にかなり嫉妬した。その嫉妬の意味も、最近ようやく腑に落ちた。


(私はきっとずっと、もうあのときから、涼に片想いしてるんだ……。もう自分の気持ちを見て見ないふりなんてできないよ……)


 涼と一緒に過ごす時間が増えて、その気持ちはますます大きく膨れ上がっていく。



(涼……、好き…………)



 涼のことを考えると胸がドキドキして苦しくなる。顔が見たいし、たくさんお喋りもしたい。ずっと一緒にいたいと思ってしまう。


(こんなに一緒にいるのに、欲張りだ、私)


 でも、今涼と一緒にいるのは澪ではなく、椿姫だ。


(涼は、北白河さんのことどう思ってるのかなぁ。……好き……なのかなぁ……)


 そんなことを考えはじめると、不安でたまらなくなる。


 図書室を覗いてみようか……? しかし、楽しく笑い合う二人の姿なんて見てしまったら、きっと澪は嫉妬で狂ってしまうだろう。


(涼の潔癖症を治してあげたいのは本当。……でも、それだけじゃない。私はこの【潔癖症さよなら大作戦】で、涼を振り向かせたいんだ……)


 涼が苦しんでいる潔癖症に漬け込んで、最低な人間だというのはわかっている。

 けれど、それでも。澪にとってこの恋は、どうしても成就させたいのだ。


(昨日のブレザーの交換は、結構いい線いってた気がするんだけどなぁ。なんとなく涼も照れてたみたいだったし……。もっと私を意識してくれたらいいのに……)


 そうして澪はまた、昨日のことに想いを馳せるのだった。



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