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潔癖症の俺は、どうしても彼女に触れたい  作者: 四条 葵 


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第12話 涼の決意


「澪、ちょっといいか……?」


 翌週の月曜日。昼休みのチャイムが鳴ると、涼は澪に声を掛けた。皐月にも声を掛けようと思っていたのだが、すでにその姿は教室になかった。もしかしたらバスケ部のミーティングなんかがあるのかもしれない。


 涼の声に、何故か澪は少しびくっと身体を揺らし、それからなんだか緊張しているみたいにぎこちない笑顔を見せる。


「涼、やっほ……、えっと、どうかした?」

「ああ、澪に少し話したいことがあって。今日、昼飯一緒にいいか?」


 そう言いながら、涼は持ってきていた自分の弁当箱を揺らす。


「う、うん! もちろん!」


 涼と澪は連れ立って教室を後にした。




「ん~! 気持ちいいねえ! 日差しも心地いい~」


 屋上にやって来た涼と澪は、それぞれ一人用のレジャーシートを敷いてそこに腰を下ろした。

 屋上には涼や澪の他にも数人いて、同じようにお昼ご飯を食べている。


「あ、今日天文部が観測会するんだって! 天文部の子が言ってた! いいよねえ、天文部。夜の学校ってちょっと怖いけど、屋上での天体観測は楽しそう!」


 お弁当をつつきながら、澪は空を見上げる。

 澪のお弁当はいつも彩り豊かで華やかだ。卵焼きも綺麗に美味しそうな焦げ目がついているし、ウインナーはやっぱりたこの形に切られていた。野菜もしっかりと入っていて、栄養バランスも良さそうだ。


 対して涼のお弁当は基本冷凍食品オンリーである。面倒なときは購買やコンビニでパンを買うのだが、基本的にはお弁当を持ってきている。冷凍食品なら夜に詰めておくだけだし、そこまで手間でもない。しかし栄養バランスは微妙だった。なんだか全体的に茶色い弁当である。


「美味しそうだな、澪の卵焼き」


 涼が他人の作ったものを、美味しそうだなんて言うことは滅多にないせいか、澪は驚いたように素っ頓狂な声を上げる。


「えっ? あ、うん! 今日はすっごく綺麗に焼けたんだ~! 甘さの加減もすっごく私好み!」

「そうか」

「うん……、いつか涼にも、食べてもらいたいくらい……」


 「食べる?」などと訊いてこないのは、涼の潔癖症に対して気を遣っているからなのだろう。きっと訊いたところで断られるだけだとも、澪は思っているのかもしれない。

 お弁当の蓋を閉じ、お茶で喉を潤した涼は、改めて澪に向き直った。


「澪、この前言っていたこと、憶えてるか?」

「あ、うん、もちろん……」


 澪は涼の様子を窺うように目を合わせる。


「潔癖症は治せる、って言ったよな? 本当なのか?」

「う、うん! 涼が潔癖症になってから、私なりに色々調べてみたんだ。私でも、涼の力になれると思う!」


 澪は涼の目を力強く見つめる。


(俺のためにわざわざ調べてくれてたのか……)


 涼が潔癖症になってから、澪も涼と同じように除菌ウェットティッシュや除菌ジェルを持ち歩くようになった。それは決して澪まで潔癖症になったわけではなく、当然涼のために持ち歩いてくれているのだ。涼が不快な思いをしないように。


(なんだか、急に自分が情けなくなってきた……)


 こんなに身近に、潔癖症に向き合って考えてくれていた人がいたというのに、当の自分は潔癖症から逃げてばかりいた。涼はそんな己を恥じた。


「涼はさ、恋がしたいって、……もう思えないかな?」

「……………」


 涼は澪から視線を逸らし、目を伏せる。


「どうだろう……、よくわからないな……」


 恋に憧れがないわけではない。もし自分が潔癖症なんかではなく普通の、みんなと同じだったら、彼女はできていたのだろうか? 彼女と手を繋いでデートしたり、お互いの家に行ったり、キスやその先のことも体験できていたのだろうか。


 涼は比較的容姿は整っている方だ。ただいつも一人でいるし、他者と関わろうとしないために暗く見られがちだった。


「涼はもっと、気楽に生きてもいいと思う!」

「え?」


 澪の明るい言葉に、涼はぱっと顔を上げる。


「涼はいつも難しく考えすぎなんだよ。自分が潔癖症だからとか、過去に嫌なことがあったからとか、そんなのたまにはどこか横に置いておいてもよくない? 嫌なことばっかり考えてたら疲れちゃうよ」


 たしかに澪の言う通りだ。潔癖症の自分なんか誰も受け入れてくれない。理解されない。

 そう思っていた。だけどきっと、なにもかも他人のせいにして、涼は理解してもらおうと努力すらしなかった。なにもせずに、最初から諦めてしまっていたのだ。


 涼は心を決めたように、しっかりと澪の瞳を見つめた。


「澪。俺、潔癖症に向き合うよ。克服できるように、頑張ってみたい」


 涼の言葉に、澪の表情がぱあっと効果音でも聞こえてきそうな程に明るくなった。


「うん! 涼なら絶対にできるよ! 一緒に頑張ろうっ!」


 澪のいつもの明るい返事に、涼はほっとする。自分の決意を口にすることに、少なからず緊張していたようだ。


「ああ。ありがとう、澪」

「幼馴染なんだから、当たり前でしょ?」


 澪の笑顔につられて涼も笑う。


(幼馴染だからって、普通はここまでしてくれないよ)


 澪に皐月。涼はつくづく友人に恵まれていると実感する。


 そうして涼と澪は、潔癖症の克服について話し合いを始めた。




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