ドッグファイト11
わたしが一歩、部屋に足を踏み入れると、ストーンゴーレムは即座に反応し、こちらに顔を向けた。
視認しているのか? 見た所、目が有るようには見えない。
頭のてっぺんから足の先まで、岩で出来ている。
マシィが耳元に顔を寄せて来た。
「膝裏に回り込んで破杭貫を仕掛けろ。ああいうヤツは大抵、関節が弱い」
破杭貫は圧縮した魔力を、ゼロ距離で直接ぶつけて表面破壊する技だ。
硬い皮膚を持つ魔物のソレを、貫く為に使う。
わたしは駆け出すと、脇にジャンプしてヤツの後方に回り込む。
そして、その膝の裏に五本の指を立てて、掌底の要領で破抗貫を撃ち込む!
「グッ……」
ダメか、表面を削っただけで破壊には至っていない。
コイツ、中まで岩か……。
岩人形はこちらに振り替えると振りかぶって、こぶしを振り下ろす!
動きが大きい、それになんだか動作がぎこちない。
かわすのは楽だが……石畳の床に命中したソレは、鈍い轟音から、恐ろしい破壊力と想像出来る。
なんせ岩の塊が振り下ろされたのだ、当たったらひとたまりも無い。
わたしは一旦、後方に飛び退いて、マシィ達のいる入り口まで下がった。
マシィの横に並び、ヤツの動向を確認する。
付いてくる様子は無い、あくまでも階段を護るか。
マシィもその事に気付いているだろう、ヤツを凝視している。
「効果無し……か。背後に魔石は?」
「無かった、魔石は体内だね……どうする?」
「エイブ殿、騎士団ならあれを相手にどう戦う?」
マシィ急に話を振られ、エイブ様は慌ててる。
「そ、そうだな……一旦引いて、土属性の魔術師とつるはしを持って来て、魔術で動きを封じている間に総出で破壊、か?」
マシィは、溜め息を付いた。
「騎士団が力技で、しかも人海戦術ですか……」
エイブ様は顔をしかめた。
「あの類の魔物は守り重視、硬くて当たり前なのだ。そもそもダンジョン探索は冒険者の仕事だ」
エイブ様はマシィを睨み付ける……冒険者でもあるマシィを皮肉ってるのかな?
「乙種の魔物相手に。攻撃特化のマスター・クラスを呼ぶって訳にもいかんだろうな、土属性か……」
マシィはハスラに視線を向けた。
「ハスラ、君は土属性だったな」
「無理です!」
ハスラは即答した。
リンベン様が庇うように立ちはだかる。
「あの大きさの魔物に効果を及ぼすには、複数人の魔術師が必要です」
「そうであろうな……」
と、マシィ……わたしはマシィの肩を叩いた。
「とりあえず、わたし一人で階段に飛び込んでみようか?」
「駄目だ、あの先がどうなってるか分からんからな」
マシィは、キッと岩人形を睨み付けた。
「フォル、エイブ殿……少しアイツと、やり合ってみてくれ。確認したい事がある」
わたし達は頷くと、ヤツにや突撃する。
エイブ様が先行して剣で斬撃を与えるが、利いてない様子だ。
わたし達は岩巨人に接近すると、ヤツはその場からは動かず、こぶしで攻撃を仕掛けて来る。
岩がこすれる音、やはり速いが、動きは大きい。
難なくかわして、壁を蹴って肩の上に乗った。
岩の出っ張りを掴んで、振り落とされないようにしたが、ヤツは腕を伸ばして来た。
逃げようかとと思ったその時、腕の動きが止まった。
なんだ……なんで掴んでこないの?
だがその途端、胴体が一定方向にグルグルと回転を始めた。
振り落とされる程でも無い速さだが、このまましがみ付いていても仕方が無いか。
わたしは手を離すと、回転の勢いで飛ばされる。
石畳に受け身を取って着地すし、転がりながら立ち上がり、岩人形を目視した。
腰部分から上がグルグル回ってたのか、人形ならではの動きだ。
わたしはエイブさんと一緒に、マシィの所に戻る。
「ただいま、何か分かった?」
「おかえり……岩のくせに良く動くな。重さは二噸は有るだろうに……」
マシィはジッと、ヤツを凝視する。
「動きが不自然な理由が分かったよ」
そうそう、なんかぎこちないんだよね。
「各関節は球体に近い状態で接合してるのだろうな。だが肘と膝はモナカ構造というか、軸を挟み込んでいるのだろう。球体関節は回転は無制限だが、可動域はかなり狭いな。モナカの方もせいぜい九〇度が限界のようだ」
なるほど、だから肩にいるわたしまで手が届かなかったのか。
「フォル、膝関節の側面を攻撃しろ、あそこは薄い」
エイブ様が剣を構えると、ぐっと岩人形を見据える。
「私が気を引こう。行くぞ!」
エイブ様が突っ込むと、わたしもその後に続く。
岩人形が、先行したエイブ様に向いた。
狙い通り! わたしは指をヤツの膝の脇、間接に当てると破杭貫を仕掛ける。
接合部にヒビが入り、と同時に重さ耐えきれなくなったのか、関節が砕け散った。
そのまま、うつ伏せに倒れ込む。
わたしは脇に回り込むと、肘関節を破壊して動きを封じる。
その背中に乗ると、後頭部に隙間を見つけた。
エイブ様も背中に乗り、その隙間に剣を突き立てた。
力任せに抉ると、その頭から岩が剥がれ落ちた。
広がった隙間に腕を突っ込んで、魔石を取り出す。
と、岩人形は動きを止めた。
「あっけなかったな……」
マシィが、杖で肩をポンポンと叩きながら岩人形を見下ろした。
後ろからは、ぞろぞろと皆が集まって来る。
わたしはマシィの元に駆け寄る。
「マシィの助言で勝てたよ」
「いや……君ならいずれ、気付いただろ」
マシィは澄ましてそう言うと、キッと階段を見据える。
「進むぞ」
マシィはさっさと階段に向かう。
いや先行しちゃダメだって、先がどうなってるか分からないって、さっき言ってたよね?
わたしが先頭に立ち、階段を上がるとそこには狭い、円形の部屋があった。
中には何も無い……ポッカリと空いている。
「行くぞ」
マシィが緊張した面持ちで前進する、続いて
全員が足を踏み入れる。
と、目の前が真っ白になった。
違う……急に明るくなったのか。
徐々に目が慣れ、映っ物は。
ここは……元の場所?
わたし達が転送される前にいた、あの直径が一〇米程の窪んだ場所だ。
中心にエイブ様が掘った穴が、そのまま残っている。
「全員いるか!」
マシィが叫び、ぐるりと見渡した。
ダンジョンで見つけた新人騎士の五人、エイブ様とアドレーとハスラ……良かった、全員いる。
マシィは膝を付くと、中心の穴を覗き込む。
「消えてるな……」
わたしも覗き込むと、あの球体型の魔道具が無くなってる。
「どこかに転送されたか」
マシィが呟く。
「ハスラ、この距離を出来るだけ狭めて、この真下に探知魔術を掛けてくれ」
ハスラはポカンとした顔をしたが「はい」と答えて詠唱を始める。
「……魔素に妨害されてはっきり分かりませんが、広い空間があるようです」
ハスラが報告すると、エイブ様はマシィの隣にしゃがみこむ。
「あのダンジョンだろうな。転送装置も消えて、行く手立ても無くなったか」
マシィは空っぽの穴の中をぐっと睨み付ける。
「フォル、転送装置の気配は?」
わたしはおくびを振った、少なくともこの近くに、あの時のような気配は感じない。
あの魔道具は、一体どこに?
穴を凝視するマシィの周りに、新人騎士達が真剣な顔をして、横一列に整列する。
「ライルラック研究生。貴殿のおかげで我々は救われました。感謝の念を禁じえません」
マシィは立ち上がると、騎士達に体を向けた。
「自分は何もしていません。礼の言葉なら、こちらのフォルに掛けてください。ダンジョンの発見も、食事と水を用意して運んだのも、戦闘を専ら担当したのも、全て彼女です」
騎士達はばつが悪そうな顔をする。
「そんなのいいから、さっさと森から出た方が良いよ」
わたしは、マシィにそう告げる、もう騎士はコリゴリだ。
早く帰りたい……さっさと窪みを上ると、ロープを木に括り付けて下に垂らした。
全員が登り切る間は全周警戒、しかし不自然なほどに静かだ。
その後、魔物も現れる事も無く、無事に森から脱出した。
マシィが騎士団に折り紙を飛ばすと、迎えの馬車が来るまで、その場で待機となった。
わたしは飛行具で先に帰る事にした。
騎士達と一緒に居たくなかったからだ。
「私も乗せてって」
アドレーが後ろに乗る。
「フォル、待って。その前に」
アドレーは、据わった目でマシィを見る。
「わたし、何で呼ばれたの?」
そういえば今回、アドレーは何もしてないね、文句しか言って
なかった。
なんかややこしい事になりそうだから、さっさと出発した。
早く帰って、晩ご飯の準備をしなきゃ。
小屋には、先生が、フッフールが待っている。
そして、美味しいご飯を作って、マシィの帰りを待とう。




