表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
大賢者は何もしない ~面倒事は弟子と助手に任せる~  作者: エビテン


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

8/40

捨て犬6

わたし、生きてるんだ。

人が動く「音」で目が覚めたけど、頭がぼーっとしている。

体が重くて起きられない。

さっきからいい匂いがする。

昨日のゴハンと似た匂い、わたしの獣人の鼻は、ヒトよりもよく利く。

イヌ種のトイ族はクマ種のベア族の次に鼻が良いらしい。

そうだ、ベア族の次だ。

耳もヒトよりよく聞こえるけど、ネコ種のボブ族のほうが良い、そして一番速い。

力も、ウシ種のミノ族はすごく強い。

そして……トイ族は体が小さい。

そう、トイ族は獣人種の中では一番弱いのだ。

それにしても、いい匂いだ、昨日のゴハンは凄くおいしかった。

あんなにおいしいものは初めて食べたかも。

ぼーっとしながらそんなことを考えていたら……急に怖くなってきた。

あのゴハンは……いくら位するのだろう?

今、着ているのシャツは? すごく肌触りがいい、きっと値段が高い。 

恐怖で頭がはっきりした。

ここに運ばれてきて、手当てされて、ゴハンもらって……お金を払えと言われたら?

凄い金額を払えって言われて、払えなかったら無理やり働かされるかもしれない!

どうしよう、行くところが無いから逃げられない。

そんな事を考えていたら勢いよくドアが開いた。

「おはよう! 調子はどうだ?」

部屋に入ってきたのは、昨日わたしにゴハンをくれた人だ。

眠そうな目をした、小柄な黒髪の男の子。

しっかりした布の、高そうな服を着ている。

お金落ちのお坊ちゃんか、お貴族様なのだろか?

その後ろに人影が2つ……。

一人は背の高いキレイな女の人だ、薄茶色の、手入れが良くされているカールした髪。

そこから覗く先がとがった耳、エルフ族という人なのだろう、聞いた事はあったが見たのは初めてだ。

そしてもう一人の、薄青の髪をした青色のローブを着た男の子は睨むような目でわたしを見てる。

獣人が嫌いなんだろうなと思った。

お屋敷でほかの使用人の人達が、わたしを見ていた目と一緒だ。

エルフの人があたしを起き上がらせてくれると、黒髪の男の子が深皿が乗ったトレイを目の前に差し出す。

「鶏ガラスープでおかゆを作ったんだ、たんと食え!」

……すごくいい匂いがする。

お腹はぺこぺこだ……ほしい、食べたい!

わたしはぐっと我慢をして首を横に振る。

「おかね、持ってない……です」

男の子は目を丸くする。

「金は取らねえよ、いいから食えって、腹減ってんだろ?」

知らない人の言う事なんて信じられない、ここは我慢だ。

男の子が困ったような顔をして頭を掻く。

「強情なお嬢さんだな……待ってろ」

そう言って小走りで部屋から出て行き、すぐに戻ってきた。

そして亜麻製の小さな袋を渡してくる。

「開けてみな」

恐る恐る中身を取り出すと、キラッと光る金色のコインが入っていた。

もちろん、見るのは初めてだ……お金?

(サンチ)より二回りくらい小さい、なのに掌手の平に乗せるとズシリと重い。

「報酬の前払いだ、話を聞いてから渡そうと思ってたんだが」

男の子がまじめな口調で話す、目は眠そうなままだが。

「ほうしゅう?」

聞き返すと彼はベッド脇の椅子に座り、言いづらそうに話し始める。

「辛いかもしれんが、商隊の襲撃時の状況を教えてほしい、冒険者ギルドに報告を上げたいし、なにより……」

わたしの目をまっすぐに見つめる。

「襲撃したのは多分、千匹オオカミだ……アレは生態が特殊で目撃情報も少ない」

「お待ちください大賢者様、金貨は多過ぎです!」

薄青の髪の少年が、すごい剣幕で割って入ってくる。

男の子は両手のひらを少年の方に向けて、まあまあと言ってなだめる。

「魔物の研究はオレの専門なんだ、翻訳よりもこっちが本業なんだって」

少年は腕を組み男の子を睨みつける。

「いくら何でも大金では?」

「その価値はあるんだよ、おれにはね」

なんか、口ゲンカが始まった。

エルフさんが腰に手を当て、大きくため息をつく。

何をもめているんだろう。

そんなに大金なのだろうか?

わたしはエルフさんに聞いてみることにした……ええと、名前は確か……。

「フッフールさん、あの……」

「さんはいらない、丁寧なは言い方も」

このエルフさん、イマイチよく分からない。

「じゃあフフール、このお金っていくら位なの?」

フッフールは金貨に目を移す。

「一万ディールよ」

「いちまん……? ってどの位?」

フッフールは額に手を当てて困っている。

「コインに額面が書いてあるんだけど、ひょっとして字が読めないのか?」

さっき”ダイケンジャサマ”と呼ばれていた子が、こちらの会話に入ってきた。

多分、名前じゃないと思う、身分かな?

「ダイケンジャサマ……」

つい口に出てしまった。

だが、彼はにっこりして答える。

「”大”は付けなくていいよ、賢者でいい……彼、マシィは頭が固くてさ」

その言葉に少年、マシィが賢者様の言葉に食って掛かる。

「大賢者様がいい加減すぎるんです!」

マシィという少年の言葉に黒髪の男の子、賢者様はおどけて肩をすくめる。

「フッフール、今のパンってだいたい幾らだ?」

フッフールは顎に手を置き、少し考える。

「銅貨二枚、おつりがくる日もある」

腕を組んで椅子に浅く座りなおす賢者様。

「一〇ディールか……なら、その金貨でパンが千個買えるぞ」

え? こんな小さなコインでパンが千個!

「じゃあ毎日パンを一個ずつ買ったら! ええと……」

賢者様は足を組んでニヤッとする。

「およそ三年分だ、大事に食えよ」

わたしは両手のひらを賢者様に向けてぶんぶん降る。

「そんな大金、貰えない、です!」

両手で金貨をつまみ、賢者様に差し出した。

賢者様はソレを手に取ると、さっきの亜麻袋に入れ、ひもをキュッと締めてわたしの首にかけた。

「持ってろよ、金はあっても困らないだろ」

やさしく微笑みかけてくる、気を使ってくれてるんだ。

「もう少し回復したら話を聞かせてくれ、とっ……」

賢者様はおかゆが入った深皿を手に取る。

「すっかり冷めちまったな、フッフール」

フッフールが深皿に手をかざす。

『汝あきらむべからず、其のあいなき装束、宿世(すくせ)を払い調(ちょう)ずを示せ、亡失せし様を改めよ、成せ』

そう呟くと深皿から湯気が立つ。

魔術だ。

部屋の奥でマシィが頭を抱えている。

「食べ物を温めるのに高度な魔術を……」

賢者様は得意げに満面の笑みを浮かべる。

「食材の質と量と見極め、冷めた料理を適度な温度に温める、繊細な魔力操作が必要なんだ、まさに食いしん坊のフッフールだからこそ、成しえる魔術だ」

「食事は美味しく食べるもの」

フッフールが誇らしげにそう返した。

わたしは心が揺れるの感じた、とってもいい人達みたいだ、でも……。

信じては駄目だ。


***


落ち着いてゆっくり食べろと言われたので、スプーンを握って口に運びよく噛んで食べる。

賢者様は手を膝の上で組み、まじめな口調で切り出す。

「君を保護したことを城下に伝えた、冒険者ギルドから身柄は任せると返事が来たんだ、今は治療に専念するが、その後の身の振り方は君に決めてほしい、ここに居てもいいのはモチロンだが、帰る場所があるなら送るし、やりたい事が有るなら、おれが全力で支援する」

眠そうな目で、まっすぐにこちらを見る。

お金もいらないと言われた、面倒無見てくれる? 何故ここまでしてくれるのか?

「君はまだ子供だ、守られる権利がある」

わたしの気持ちを察したのか、賢者様は力強く答えた。

やりたい事……そんなことは考えた事も無かった、そんな暇もなかった。

帰る場所も無い、家族はもういない。

わたしが押し黙っていると賢者様は椅子を斜めに傾け、背もたれに肘を置いた。

「まあ、療養中にのんびり考えてくれ、ちなみに俺は世界で一番エライ、なんだって叶えてやれるぜ」

親指を立ててにんまりと笑う。

フッフールを見ると、壁にもたれかかって髪の毛いじっていて、マシィは腰に手を当て、ため息をついている。

二人とも賢者様の言葉がウソだと言わない。

世界で一番というのは大げさだけど、やっぱりエライ人なんだ。


***


「治療を始めるから出て行ってくれ」

賢者様が告げると、二人は部屋から出ていった。

わたしと賢者様の二人だけになる。

「どこか痛むところは無いか?」

この賢者様の言葉で、彼が治療をするのだと察した。

賢者って医療師なのだろうか?

医療師に診てもらうと、すごいお金がかかる。

パン千個分のお金で足りるのだろうか?

わたしは首に下げられた亜麻袋を握りしめる。

「これで足りますか?」

そう尋ねると、賢者様は困ったように頭を掻く。

「おれは賢者であって治療師じゃねえ、金は要らんよ」

なんかムッとしてる、怒らせちゃった?

「まあいいや、痛むところが無いのなら、取り合えず目立つところから治すぞ」

そう言ってわたしのこめかみに触れる。

「これは最近のものな」

多分、当主様に棒でぶたれたときのものだ。

一か月以上前なので、もう痛みは無い。

と、触れられてる部分が熱くなる。

少し熱いが嫌なものではない、心地よい熱さだ。

「この位の古さなら訳ないんだが……」

賢者様は手鏡を取り出して、わたしに見せる。

赤黒かった傷が消え、きれいになっている!

少し目立つから、気になって髪の毛で隠していたのに……。

でも、これって……。

「治癒魔術‼」

思わず叫ぶと、首に下げられた亜麻袋を再び握りしめた。

「これで……」

「おれは賢者であって、聖女じゃねえよ……」

賢者様はため息をつく。

あれ、呆れられてる? わたしの方がおかしなことを言ってる?

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ