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大賢者は何もしない ~面倒事は弟子と助手に任せる~  作者: エビテン


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ドッグファイト4

騎士団総団長がわざわざ見学に来た? 自分は、彼が大賢者の弟子の獣人に興味を示したと判断した。

それにしても目立つ。

彼の容姿が目を引くというのもあるが、観戦席にいる騎士達が軽装なのに対し総団長は全身、黒い金属防具を纏っている。

季節は夏だ、さぞ暑い事だろう、そこまでして……。

彼はエイブ殿から、副団長としての報告は聞いているはずだ。

エイブ殿はフォルとの立ち合いで、手加減されたにもかかわらず二度も敗北した。

山歩きに同行した際、乙種のマウント・ジャイアントに遭遇。

騎士が複数で当る魔物を、フォルは手際良く単騎で仕留めたと……エイブ殿に興奮気味に話されたのを覚えている。

フォルからも手に入れた魔石と素材代で、チーズケーキとドーナッツの材料を買うなどと浮かれていた。

何個作るつもりなのだと思ったものだが、相変わらず金銭感覚が薄い。

それは兎も角、エイブ殿は包み隠さず報告したに違いない。

そもそも戦闘とは、敵によって対応を変えるのが常だ。

魔物であれば、丙種は弱いが多数で、乙種以上は単騎だが素早く強靭だ、特殊能力を使う物もいる。

そして人に至っては武器や戦術、魔術を用いる。

よって、それぞれに対し戦い方は変化する。

騎士は攻撃力はあるが、索敵や防戦には不向きで冒険者の方に軍配が上がる。

よって魔物との戦闘では冒険者が、対人戦ではその訓練を積んでいる分、騎士団が有利だ。

だがフォルは、魔物に対しては甲種でも単騎で対応が可能、対人でも副団長クラスをあしらって見せた。

そして、総団長の耳には二年前の厄災攻防戦でのフォルの働きは耳に入っているだろう。

箝口令は引かれたが、フォルは公国騎士団を補助して戦いを優位に進め、二体の乙種を仕留めた、総団長に伝わぬ筈が無い。

フォルの力を見る為なのは違いないが、その『理由』が気になる。

「では、模擬演習を開始する!」

エイブ殿の声が響く、彼がこの場を仕切るようだ。

エイブ殿がフォルを連れて台から下りると何やらカバンを手渡す。

何か説明をしているが、離れているので声は聞き取れない。

「騎士から奪われないように、このカバンを死守してくれ、って言ってるな」

隣に掛けている先生が察して、エイブ殿の言葉を復唱してくださった、唇を読んだのか聞こえているのか……。

それにしても、フリル過多の妙なメイド衣装で女装し、不自然に甲高い声で話す先生は何とも据わりが悪い。

整列していた騎士達は、二個分隊一〇名を残し、訓練場の敷居に退いた。

「フォルと騎士、一対一〇……そういう事ね」

先生が呟く、これは自分にも意味が分かった。

フォルの実力を騎士に見せると同時に、複数対人戦の戦闘力を計ろうという訳だ。

彼等にとって、フォルの複数対人戦の戦闘力は未知数だ。

フォルは背中側のサスペンダーに動きを妨げないよう、カバンを挟み込んで固定している。

エイブ殿が、騎士に向けて説明を始める。

「グランディル城から機密文書盗難の報告を受け、城外で透波(すっぱ)を発見し……」

なんだ、ソレは? 自分は先生に、訝し気な視線を向ける。

「城に、狙われるような文書なんて有るのですか?」

先生は肩を竦め、その視線を泳がせた。

「あるんじゃないの? 知らんけど……。ちなみに透波(すっぱ)ってのは他国の間者(スパイ)の事ね」

なんとも粗雑な状況設定だ……。

だがフォルにとっては、初めての複数対人戦だ。

フォルは先生により、対人戦は学んだが……。

「始め!」

フォルの武装は二本の刃渡り三〇珊(サンチ)の模造刀。

いつもの、皮のベストとブーツ、肘と膝にサポーター、金属製の籠手だ。

エイブ殿の声が響いた、一〇人の騎士がそれぞれに模造刀を構えフォルと対峙する。

カバンを持たせたのだから、ルールはそれの攻防戦だろう。

現実なら、間者なら仕留めるか捕らえるか、状況に応じて判断を要するだろうが、簡易的な条件にしたと推測する。

生死を問わず、も含まれるのだろうが。

片手剣の騎士が構えた状態で、フォルに向かって走り込んだ。

フォルはしゃがみ込むと、騎士の脛に肩を当て、倒れて来た所に背中で押し上げ、投げ飛ばした!

騎士は投げ出されるように宙を舞うと、そのまま背中から地面に落ちた。

続いて二人目、こちらは両手剣……薙ぎ払うように剣を横に振るがフォルは前進して体を背後に当て、騎士の顔を覆うように手の平を当てる。

騎士は勢い良く、地面に叩き付けられた!

続いて背後から、死角を付いて片手剣の騎士が切り込んで来たが、そのまま腕を取られ投げられてしまった。

立て続けに投げられた騎士達を目にし、怯んでいる一人の騎士にフォルは隙を付いて肉薄、足を絡ませ右肩の裏で当て身を喰らわせ、吹き飛ばした!

即座にフォルの横から騎士がまさに切り掛って来るが……。

剣を振り下ろす間も無く、フォルはその脇に腕を差し込んだかと思うと、騎士は勢い良く一回転して地面に打ち付けられた!

瞬く間に、五人の騎士が地表に転がっている。

彼らは、自分の身に何が起こったのかわかっていないと言った顔をしていた。

見ると、エイブ殿が茫然とした面持ちで立ちすくんでいる。

「そういえば、エイブさんとの立ち合いの時は、フォルは投げ技は使わなかったっけ?」

先生が呟く……なるほど、彼はフォルの投げ技を見るのは初めてか。

エイブ殿の右手に噛み付いて口で投げられたが、あれは条件が特殊だ。

で、あるならこの状況は想定外であろう。

恐らく、フォルを包囲した状態で、ナイフと打撃で対処して突破すると思っていたた筈だ。

「これが実戦なら、フォルはどう対処したでしょうね?」

「考えたくも無いね、だが聖女も待機させているし、怪我人が出るのは想定の範囲内だろ」

騎士達に気を取られて気付かなかった、確かに階段付近に聖女が三人控えている。

程無くして、エイブ殿が演習を止め、控えていた別の隊と交代をさせた。

次の一〇人は、『始め』の合図と共に剣を構え、じりじりとフォルとの距離を詰める。

全員が軽装の鎧に片手剣、五角形のアイロンのような形をした盾を装備している。

囲い込んで、取り押さえる作戦か。

フォルもそのまま下がると、神殿の壁まで追い詰められる。

騎士達が剣を構えたまま腰を落とした、飛び越えられないよう、また掻い潜られないようにと警戒している。

フォルは正面に向かって駆け出す、と騎士達は盾を構えて身構える。

フォルはその盾を踏み台にして後方の神殿の壁に向かって高く跳び上がる。

そして、その窓のへりにつま先を引っかけて上方に移動し、神殿の壁を蹴って水平に飛んだ。

そのまま騎士の頭の上を越え、何米(メートル)も高い場所から落下して地面を転がった。

かなりの高さから落ちたにも関わらず、フォルは怪我一つしていない……何事も無かったかのように立ち上がる。

騎士達は茫然として立ち尽くしているが、フォルは山歩きで整備されていない原生林を走り回っている。

彼女にとっては、造作も無い。

騎士の包囲を、あっさり突破してしまった。

さて、一戦目でフォルの戦闘能力を、二戦目で身体能力を見せた訳だが。

その時、フォルが何かに気付き即座に反応した!

黒い影が横切ると地を打つ轟音が響き、フォルが居た場所から土煙が上がる。

やはり、動いたか……。

騎士団総団長……彼が両手剣を振り下ろした状態で、フォルが居た場所にしゃがみ込んでいる。

見た所、手にしているのは訓練用の木剣か。

それであの威力か……木剣は粉々に砕け散っている。

総団長はフルヘルメットの兜を付けている、かなりやる気のようだ。

フォルは……かなり距離を取って飛びずさり、地面に手を付いて総団長を視線を向けている。

総団長は折れた木剣を投げ捨てると、脇に差していた長剣を模した木剣を構えた。

背中にも同じ位の長さの剣を装備している、刃渡りは一五〇珊(サンチ)以上……恐らく真剣だろう。

フル装備のプレートアーマー、兜までも身に付けての完全武装。

総団長がフォルと対峙する、緊張感が漂い、観戦者達は固唾を飲んで見守る。

演習の最中だった騎士達は、戸惑いを隠せぬまま二人を見つめ、会場も水を打ったかのように静まり返った。

フォルも木剣を、いつも彼女が使っている刃渡り三〇珊(サンチ)のナイフを模した模造刀を両手に抜き、順手に構えた。

総団長は剣をバットを構えるように握り、フォルは半身に右前に構えた。

総団長は、摺り足でじりじりと距離を詰めると、射程距離に入るや否や、水平に斬撃を繰り出す。

鋭い剣戟! フォルは力を逸らすようにナイフで弾くが、返す刀で追撃が来る。

フォルはスゥエーバックでかわすと踏み込んで距離を詰めようとするも、総団長はバックステップで阻んだ。

そして下がりながら袈裟切り、フォルがナイフで受け流して尚も踏み込もうとするが、今度は突きで封じられた。

これは……戦いの距離が違う。

「総団長は、徹底して距離を取ろうとしてるね」

先生が呟く。

「フォルが踏み込めないのと同様に、総団長も決め手に欠けているね」

「ですが総団長の全身鎧は、ナイフでは貫けないでしょう? フォルはソレと判定される攻撃をしないと……」

だからこその全身鎧、この模擬戦ではナイフでは当たり判定は、決まり手と認められない。

鎧を通してダメージが入ったと、判定され得る攻撃が必要だ。

だから、総団長は踏み込ませない、そして彼はフォルの手の内も知っている。

先生は顎を手の上に乗せ、答えを返す。

「君のいう事は最もだけど……フルプレートにも弱点は有るよ」

そんな物が有るのか? 総団長クラスなら当然、魔術処理された物を着用しているだろう。

総団長が踏み込む、そのまま袈裟切り……に見せかけ、体を一回転させて逆の方向から水平に剣を繰り出した!

フォルは屈んで回避の体制を取ったが……そのフェイントに乗ってしまった。

木剣はフォルの側頭部を捕らえ、そのまま弾き飛ばした!

フォルの体は勢い良く吹き飛び、地面を転がり仰向けになったまま……。

その場で、動かなくなった。

毎週日曜日と水曜日、お昼12時に投稿しています。

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