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大賢者は何もしない ~面倒事は弟子と助手に任せる~  作者: エビテン


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毛のない犬7

「ココア入れたよ~」

わたしは、周辺の地面を調べているハスラを呼んだ。

森林限界の雪原はとにかく寒い、温かいココアはホッとする。

洞窟で遭遇した正体不明の怪人。

何度か致命傷と言える攻撃を仕掛けたが、悉(ことごと)く再生するので戦闘を中断し、ハスラを連れて飛行具で上の平原まで退避したのだ。

お弁当のサンドイッチでお昼にして、休憩中に携帯焜炉式魔導具でココアを入れている間にハスラは周辺の調査をしていたという次第だ。

このまま先生達を呼びに行っても良かったのだが、安全な状態にしてからの方がいいだろう。

一方で正体不明の不死身少女、攻撃している内に女の子と分かった、を先生達にも見てもらった方が良いと思ったので、その為の対策をする事にした。

さて、ココアを嗜みながら作戦会議である。

「でさ、どうやってやっつけたらいいと思う」

わたしハスラに丸投げした、考えるのは苦手だ、彼女は頭が良い。

「やっぱり、境界様達を連れてきた方が……」

「言ったでしょ、敵を放り出して帰れないよ」

先生はともかく、マシィを危険がある場所に連れて行きたくない。

ハスラは困った顔をして俯いた。

「私は攻撃や防御の魔術は一切使えません、力になれなくて……」

「敵は一体なんだし大丈夫だよ」

再生が厄介なだけで攻撃は通る、どうにかなるでしょ。

わたしは少し考えて口を開く。

「まず考えられる対策なんだけど、一つ、説得する」

ハスラは溜め息を吐く。

「言葉が通じるとは思えません、問答無用で襲い掛かって来ました」

まあ、そうだよね。

ハスラは少し考え込む。

「セオリーとしては、アンデッド系の魔物なら、魔石が有る頭部を破壊すれば止まるのですが」

「それはもうやったし。あれは魔物じゃ無いみたいだから魔石も無いと思う」

と、わたし。

「再生しなくなるまでダメージを与え続ける、再生以上のダメージを与える、再生出来ない位にに粉々にする、再生を阻害する、というのもセオリーですが、恐らくこれもダメだと思います。フォルはあの場所から魔力を感じたって言ってましたが。多分、それを使って再生をしているのだと思います」

と、ハスラ。

「つまりあの洞窟内でのみ有効って事だね。で無ければ、ここ迄追ってくるもんね」

と、わたし。

「外に連れ出せば仕留められると思います。ですが、あの個体は拘束して境界様達に調べてもらった方がいいと思うんです」

と、ハスラ。

「どうして?」

と、わたし。

「あのおびただしい数の人骨……アレは犠牲者では無いと思うんです……全部、子供の骨でした……」

ハスラは顔をこわばらせて息を飲んだ。

「入踏困難な境界線の隠された洞窟。多数の子供の骨。魔力で満たされた空間。ヒトでも魔物でも無い再生能力を持った存在……あそこは何かの実験場で、廃棄されたのだと思います……」

実験? じやあ、あの場所は人が作って、子供を集めて何かをしてたの?

「誰がそんな事を?」

「分かりません、だからこそ調査の為の現場の保存が必要です」

「わかった……場所を荒らさず、あの子供を縛り上げて先生達に見せればいいのね」

わたしは、道具類を片付けると飛行具に乗り込む。

危険がある場所にハスラは連れて行きたくないが、ここも魔物が出るから置いて行く訳にはいかない。

まあ、大丈夫だよね。

と、いう訳で、ハスラも連れて洞窟に戻るが。

アイツが居ない?

周囲を警戒する、気配を感じない相手だ、視覚と聴覚だよりで敵を探す。

警戒しながら歩を進めると、急な斜面の上から石が転がり落ちて来た。

その視線の先に、ヤツがいた。

子供の姿をした不死身の怪物が……二〇体ほど。

全部、同じ顔だ……真ん中にいるやつ以外は申し訳なさげな程度にボロ布を纏っている。

体を切り分けてそれぞれ再生させたのか? そんな知恵が有るの?

後方からも複数体いる音がする、退路を断たれたか。

さて……これは厄介だな。

こいつら全部が再生能力を持ってるのなら。かなり手ごわいぞ。

「そっちの壁に隠れて」

ハスラに指示を出す、彼女も護りながら戦わなければならない、これは厄介だ……どうする?

わたしは両手にナイフを抜き、逆手に構え、ヤツ等の出方を待つ。

ハスラは岩陰に隠れたまま、何もせず待機している。

防御魔術の類は使えないようだ、彼女から離れないように気を付けないと。

ヤツラは一斉に襲い掛かって来た。

声も上げず、無表情で不気味……まるで動く人形だ。

コイツ等は再生する、すれ違いざまに切り付ける攻撃をしたら、後方のハスラに向かうだろう。

なのでわたしは体を振り、ナイフを当てて散らすように切る。

体のパーツが千切れた、意外と脆い……地に落ちたパーツは結晶化して崩れ落ちる。

と、その部分が再生する、すると思ったよ。

まずいな……無尽蔵に再生するのなら、わたしの体力の方が先に尽きるぞ。

首を切断してみる、頭部が結晶化して崩れ、胴体からそれが再生する。

それならと胸元を突き刺す、心臓を貫くも倒れ込んで少しすると、傷口が修復されて立ち上がって来た。

キリが無い……どうする? 強引に突破して洞窟から出るしかないか?

ハスラを連れてとなると……コイツ等を散らせてからだな。

何か手は? 一気にバーンって出来るやつ、何か……。

そういえば、グランディルの公爵様がワイバーンを弾き飛ばしたアレ。

わたしにも出来ないだろうか?

両脇腹のアタリにこぶしを構え、集中して下腹部、丹田に魔力を溜める。

石穿を使う時の応用だ、こぶしに集中させるのでは無く、全身から溜めた魔力を衝撃波に変換して前面に放つ。

周囲に群がって来ていたヤツ等が弾き飛んだ、成功だ!

が……吹き飛ばしただけで何事も無かったかのように立ち上がる。

一方向に集中させなかった分、破壊力が無くなったか……。

駄目か、けっこう魔力を消費する、連発は出来ない。

「豊穣なる尊き橙色(とうしき)、大地にすだく」

呪文詠唱? 後方のハスラが何やら魔術を使おうとしている。

ちらりと視線を向けると、彼女は目を閉じて胸元で祈るように両手を組んでいる。

確か攻撃や防御の術は使えないって言ってたけど……。

「あまたに調ず、あしに向かいて障礙(しょうげ)せよ、排せ」

詠唱が終わったようだが……何も起こらない。

群がってくる敵を回し蹴りで蹴り飛ばし、体術で弾き飛ばすが別段、変化が無い。

ハスラは祈るような姿勢のまま口を開く。

「魔力供給を阻害する術を施しました、今のうちに破壊してください」

え? なにそれ!

考えるの後だ、わたしは言われた通りナイフで攻撃を仕掛ける。

手前のヤツのの首を切り離す、頭が地面に落ち結晶化すると……。

胴体から首が再生されない!

わたしは空かさす胴体を切り刻む、切り離されたパーツは結晶化して消え、最後に残った胴体部分を踏み潰す。

ソレも結晶化して消えた、ある程度小さくすれば再生出来ないのか。

何とかなりそうだ、ちらっと見るとハスラは祈る姿のままだ。

術を維持しているのだろう、だとすると制限時間があるはず。

術の効果が切れる前に仕留め切らないと……効果時間が分からない、わたしは急ぎ他の個体にもナイフで切り刻む。

幸いにもヤツラの方から向かって来てくれる、近いヤツから切り刻む。

刃渡り三〇珊(サンチ)のナイフでけさ切りにする、大剣と体重が欲しい所だ。

相手が小柄で、比較的脆いおかげで何とかなりそうだ。

とにかく無我夢中て切り刻んだ。

目に付いた物を片っ端から切り刻む、欠損部分は結晶化して崩れるから、残った部位を破壊すればいいのが救いだ。

ようやく最後の一体、コイツは後回しにして置いた、他の個体と違う、ボロでは無く服を着ているヤツだ。

コイツがオリジナルで間違いない、わたしは懐から、山歩きで常備しているクライミングロープを取り出す。

先端についているフックを使い、ヤツの手首に引っ掛けると、そのまま地面に引き倒しうつ伏せにして腕の逆関節を極め、そのまま両手首を縛り上げる。

余ったロープで両足首を縛り、手首部分にグッと引き寄せ逆エビ状態にし、身動きが取れないように拘束した。

そのまま地面に転がす、激しく藻掻くがガッチリ縛り付けたおかげで緩む様子は無い。

終わったー! わたしはその場で尻餅を付き天井を仰ぐ。

ハスラに視線を送ると、岩陰に隠れたままだ、何をしてるんだろう?

「もう安全だよ、出て来なよ」

だがハスラは更に岩陰に隠れた。

「やっぱり……獣人さんは怖いです……」


毎週日曜日と水曜日、お昼12時に投稿しています。

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