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大賢者は何もしない ~面倒事は弟子と助手に任せる~  作者: エビテン


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毛のない犬5

さて、わたしの足元で頭を床に擦り付けている先生と驚いて固まっているハスラは放っておいて、マシィにこれまでの事を手短に話した。

マシィは手で顎を触れながら、何やら考えている。

「ふむ、つまりハスラは新薬の開発の為に、その野草、切雪草だったか、が必要という訳だな」

マシィはコーヒーを口に付けて一息付く。

「境界線は険しい原生林に加えて、今の季節は雪山だ。彼女一人では、薬草採集は厳しかろう……」

そう言って、わたしに視線を向ける。

「フォル、暫らく山歩きは休みだろ? 君が山を案内してやるんだ。その間に飛行具でハスラを連れてやってくれ。」

わたしは別に構わないが、困った事がある。

「でも、ハスラはわたしを怖がっているし……」

マシィは、キョトンとした顔で髪をかき上げた。

「そうなのか?……それはまた、何故なのだ?」

わたしは、ハスラの村の近くに住み着いた獣人の戦いぶりを見て、恐怖心を抱いてる事を話した。

「なるほど、アドレーと同じか」

アドレーはわたしとの訓練のせいで、ヘタレになったという事になっている。

「自分も付いて行きたいところだが、飛行具には三人は乗れないのだったな?」

その通りだ、飛行具は積載重量が極端に低い、魔力を大量に流せばわたし込みで三人くらいはいけるが、それでは短距離しか飛べないし、何よりわたしがへとへとになってしまう。

もし魔物が襲ってきたら、対処出来ない。

「では、先生はいかがか?」

ハスラは真っ青になり顔を引きつらせた。

「その……師匠からは、境界様は女性に節操が無いと聞いていて」

「先生、子供には手を出さない、ですよね?」

「はい、その通りです……」

先生が、床に這いつくばったまま返答した。

マシィは腰に手を当てると、軽く俯いた。

「いや、やはり女性同士の方が良かろう」

そう漏らしてハスラに視線を移す。

「ハスラ、フォルが其方に危害を加える事は絶対に無い。自分はヴァーサターム国王陛下と侯爵家に誓う。彼女は君を、命に代えても全力で護る」

マシィは、真剣な眼差しをハスラに向ける。

ハスラは顔を真っ赤にして、小さく頷いた。

「では、明日より行動を開始する。ハスラ、本日はここに宿泊できるか?」

「数日は大丈夫です」

ハスラが小さな声で答えると、マシィは頷いて返す。

「では其方の師のオーリン殿には、折り紙で知らせて置く。先生は通常通り山歩きをお願いします」

「はい、承りました……」

床に伏せたままの先生から了承が出た、決まりだね。

マシィはハスラに視線を向ける。

「目的の切雪草は、かつては森林限界付近に生息していたのだったな。カイル山脈は二千米(メートル)クラスでそれほど高い山では無い。だが森林限界付近となると、さすがに調べるポイントは多くなるな」

マシィは顎に手を添えると、少し考えるそぶりを見せた。

「とりあえず小屋から北に五〇粁(キロ)程、南は辺境伯領の国境付近まで調査する事としょう。ハスラ、それで良いか?」

ハスラは頷いた、それを確認するとマシィは周囲を見渡すと、先生に視線を移した。

「先生、フッフールさんは何処に?」

「湖にワカサギを釣りに行ってます、甘露煮もいいのですが……」

もう先生を許して上げても、良いのでは?

だがマシィは、その事に触れない。

「うむ、では自分はハスラを二階に案内する、先生とフォルは夕食の準備を。今日は特別に天ぷらを許す。が、フッフールさんの釣果に左右される。そちらは準備だけにしろ」

フッフールは何かと揚げ物を食べたがるので、普段は禁止されている。

今日はお客さんがいるから、特別となったのだろう。

それにしても、何故かマシィが仕切ってるね。

そして翌日……。

防寒装備をしっかり整えて、飛行具の準備をする。

ハスラには先生用の、予備の乗防寒具と保護眼鏡(ゴーグル)を使って貰う。

わたしのサイズでは小さすぎるからだ。

先生は男性だが、小柄なのでハスラにはちょうど良い。

普段は使わない、固定用のベルトでハスラに付け、いざ出発だ。

ハスラはわたしの後ろに、立ち乗りの形で肩に手を置いて貰う。

キルスイッチを切って起動させると、ゆっくりと浮上させた。

「浮いた、浮いた! 高い高い高い!」

ハスラが怖がって、わたしにくっ付いて来る。

体を密着させると返って危ないのだが、まあベルトで固定してるから落っこちる事は無いだろう。

わたしは、アクセルをゆっくりと回して前進をさせる。

「速い速い速い!」

時速五〇粁(キロ)程なのだが……時期に慣れるだろうから、このまま行く。

程無くして、最初に予定していたポイントに到着する。

着陸すると、ハスラは地面にへたり込んでしまったが、少しすると意を決したかのように立ち上がる。

ハスラは二度、精度を変えて感知魔術を掛ける。

表情が曇ってる、見付からなかったようだ。

なので直ちに移動……とはならず、ハスラは周辺を見て回っている。

恐る恐る、といった感じだ、ここは境界線内、何時魔物が現れるかもしれない。

その恐怖に加え、慣れない雪山だ。

凍った雪の上をアイゼンで歩くのに慣れていないようで、危なっかしくヨチヨチ歩いているので支えてあげる、

小さなシャベルでは、なかなか凍った雪を掘り起こせない様子で、力仕事はわたしが担当した。

こんな物、どうするのかハスラに訪ねる。

「土の性質を調べるんです、酸性寄りですね。ここの土は粘質が低くて保肥力が小さいです」

うん、分からない。

ハスラはいろいろ調べて帳面にまとめ、それから移動となる。

彼女の体力も考えて、捜査は午前中で切り上げ、帰還する。

帰ったらわたしは昼食の準備、ハスラはリビングで資料をまとめる形となった。

翌日もほとんど同じだ、ハスラも雪上に慣れたようなので、わたしは暇だ。

体を動かすと汗で冷えるから、トレーニングも碌に出来ない。

まあ、のんびりするのもいいか、とか考えながら……。

何の成果も無いまま、五日が経過した。

今日は南側、モナーク辺境伯領寄りの場所に調査に向かう。

あの日……突然の吹雪で非難小屋で過ごした場所のすぐ近くだ。

その時の恐怖を思い出し、緊張せずにはいられない。

だが、ハスラを護らなければならない、わたしはぐっと恐怖を払いのけた。

いざ現場に到着すると、そこは他の場所と変わらない風景だ。

拍子抜けも良い所だ、緊張して損した。

わたしは岩場に腰を下ろすと、魔物の接近を警戒する。

ハスラは、探索魔術を掛けると、何やらきょろきょろしてる。

わたしは彼女の元に向かった。

「何か見つけた?」

ハスラは首を横に振る。

「……地中に空間が有るんだけど、何か、その……」

歯切れが悪いね、わたしがじっと見つめると、彼女は観念したかのように言葉を続ける。

「何かに阻害されるんです、ちょっと不自然な、何かに」

はっきりしないから、迷ってるのか。

「気になるんでしょ」

わたしはそう言うと飛行具にまたがり、ハスラに乗るように促す。

ハスラの指示に従い、崖の下に移動する。

上からでは見えない場所に横穴があった、飛行具で中に侵入する。

程無くして、広い空間に出た。

「自然洞窟ですね、だけど何か違和感が……」

ハスラは周囲を見渡す、確かに何かおかしい。

「何で明るいの?」

わたしはそれに気付いた、外から光が入ってるわけでも無いのにぼんやりと明るいのだ。

所々、壁が光っているようだ、どういう原理なのだろう?

地面も平らでは無く岩だらけだ、わたしは飛行具から下りてあたりを見渡した。

斜面と岩のせいで全体が見えず、どれ位広いのかは分からない。

だが確かに変だ。

「この空間全体から魔力を感じる」

瘴気では無い、魔力だ、こんな感じがする場所は初めてだ。

「魔力を感じる? のですか……」

「わたし達、獣人は魔力や瘴気を感じ取る事が出来るみたい」

わたしの言葉に、ハスラは目を丸くした。

「獣人さんって、そんな事が出来るんですか? ソレって、ヒッ!……」

ハスラが小さく悲鳴を上げた、彼女の元に駆け寄る。

その足元には、人間の頭骨が転がっていた。

頭蓋骨……だが小さい、子供の物か?

よく見ると周りにはおびただしい数の人の骨が転がっていた。

近付いて確認する、どれも小さい、まさかこれ全部、子供の骨?

コツン! と後方で石が落ちる音がした。

振り返ると、斜面にある岩の上に子供が立っている……。

身の丈はわたしと同じくらいか、獣人の中でもトイ族は小柄だ。

そのわたしと同じくらい、ヒト族なら九歳か一〇歳位か。

見た目からは性別は分からない、一応服は着ているがボロ布に等しい。

ソレが、生気の無い目でこちらを見つめている。

生存者……では無いだろう、アレからは人が持つ魔力を感じない、臭いも変だ、生きている人のそれでは無い。

子供は岩から飛び降りると、こちらにゆっくりと歩いて来た。

わたしの獣人の感覚は、アレがヒトのそれとは違うと言っている、魔力を感じないから魔物でも無い。

そう、まるで動く人形だ、ヒトでも魔物でも無い、正に人形……。

突然、ヤツは走り出した!

無表情で向かって来る、ヤツのその頭に飛び回し蹴りを喰らわす。

クリーンヒット! ヤツは吹き飛び、勢い良く岩に激突した。

明らかに、ハスラを狙っていた。

コイツの正体云々より、攻撃をしてきた以上、敵であるとわたしは認識した。

なら排除が優先だ、ハスラを護るのがわたしの役目だ。

はっきりとした手応えがあったのにもかかわらず、ヤツはゆっくりと立ち上がった。

その頭は無表情のまま、岩にぶつかった衝撃でひしゃげて、血を滴らせている。

が、その部分がグネグネと蠢(うごめ)き、元の形に戻っていく……。

「さ、再生してます!」

背後でハスラが、悲鳴にも似た驚きの声を上げる。

潰れた頭が元の形に戻ると、爛(ただ)れていた肉片と流れていた血が結晶化してパラパラと地面に落ちた。

不死身……ってわけね。

さて、どう戦うか?

わたしは半身で構えを取り、ヤツの出方を見る。

「待ってください、私達は敵ではありません!」

ハスラが叫ぶ……が、ヤツは聞こえていないかのように、地面を蹴る。

わたしは迎撃態勢を取った。

毎週日曜日と水曜日、お昼12時に投稿しています。

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