↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
大賢者は何もしない ~面倒事は弟子と助手に任せる~  作者: エビテン


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

65/85

毛の無い犬1

わたしが一三歳になったあの日から先生と交代で、一人で山歩きをするようになった。

山歩きの主な目的は境界線の監視、異変などが無いかを見て回る事だ。

魔物も多数出没する為、危険な業務なのである。

先生にそれを任されたのは、認められた証しだ。

その事がとても誇らしく、自信にも繋がった。

目的はもう一つある、野草の採取だ。

境界線付近に自生する野草は、その影響を受けて変質し、特殊な効能を持つ。

動植物は魔力を持たない為、基本的には有り得ない事なのだが、先生によると瘴気がそれだけ濃いからだと言う。

例えるなら、洗濯物に匂いが付くような感じ? らしい。

採取された野草は、グランディル城下の『ハスキング薬品店』に卸している。

あの日、わたしは先生に城下の職人地区に連れていかれた。

一人で山歩きに行くようになったから、採取した野草も一人で売りに行けって事だ。

わたしはいつもの赤いローブを纏い、深々とフードを被って先生に付いて行った。

先生と街を歩いたのも初めてだったが、その時に訪れたのがハスキング薬品店だった。

女主人のオーリン・ハスキングさんは、『特級調合師』っていう国家資格を持つスゴイ人らしい。

鍛冶職人の登録が多い職人ギルドの中にあって、調合師でありながらギルド長を務めている。

偏屈な……いや、気難しい職人さんが多いのに、女性が代表をしているにも関わらず、やっかむ人も無く、信頼を寄せられている……と先生が言ってた。

昔は中央神殿騎士団調合師科の主任を務めていて、沢山新薬を作ったり改良をしたりして、今でも語り継がれているらしい。

……なんかすごい人だ。

会うのがすごく怖かったけど、先生に連れられ、工房を兼ねている店の前に立つと拍子抜けをしてしまった。

そこにあったのは、立派で豪華な建物では無く、こじんまりした古びたそれだったからだ。

釣り看板に『ハスキング薬品店』と書いてあるが、外から見た限りでは何の店か分からない。

先生はおもむろにドアを開いた。

「オーリンさん、邪魔するぜ」

わたしも、先生の陰に隠れながら、おずおずと店内に入る。

小さなおばあさんがカウンターに腰を下ろし、本を読んでいた。

かわいらしい顔立ち、童顔で優しい面持ちだ。

鼻筋も整っていて、昔はかなりの美人さんだったのが伺える。

綺麗な灰色の髪は、肩に付かない位の長さに切り揃えられていて上品な印象を受ける。

服装も質素だ、飾り気のないブラウスとスカート、刺繍の無い質素な茶色のローブを纏っている。

オーリンさんは立ち上がるとわたしの元にあゆみ寄って来る。

「マントを取ってもいいよ、獣人のお嬢さん。オーリン・ハスキングだよ。フォルって呼んでもいいかい?」

オーリンおばさんの優しい緑色の目が、わたしに安心感を与えてくれた。

「あたしは獣人には慣れてるんだ。昔、世界中を飛び回ってたからね、でもトイ族は珍しいね」

オーリンおばさんが手を差し出して来ると、わたしは握って返した。

「あの頃は大変だったんだぜ、神殿の仕事をほっぽり出して……散々振り回されたよ。主任補佐のゼフォーが可哀そうだったぜ」

先生は茶化すように口を挟む、オーリンさんは肩をすくめた。

「あんたも勝手に付いて来てたでしょ。随分と楽しそうに見えたけど?」

「また、一緒に旅に行こうか?」

先生は優しくオーリンおばさんを見つめる。

「こんなばあさんを捕まえて、からかいなさんな」

「君は今でも十分魅力的さ、ゼフォーに悪いから遠慮してるだけだ」

「あの世の亭主に義理立てかい?」

「彼も大切な友人だったからな」

この二人、ずいぶん親しいみたい、わたしはお邪魔かな?

オーリンおばさんはココアを入れると、わたしの前のテーブルに置く。

それを口にすると、ふわっと良い香りに満たされ、ほど好い甘さが口いっぱいに広がった。

凄く美味しい、このコクはバターだ、ずいぶんと丁寧に入れてくれたみたい。

「フォルの話は境界さんから聞いてるよ、厄災攻防でも大活躍だったてね。街を護ってくれてありがとう」

先生、そんなことまで話してたんだ。

先生はにんまりと笑う。

「お前も礼を言っておけ、家(うち)にある魔法薬はほとんど彼女の手作りだ。ハスキング薬品店の薬は支店で作られてるのに、わざわざ店主に作ってもらってるんだぞ」

確かに、わたしは随分と魔法薬のお世話になっている。

それらは、このおばあさんが作ってくれたのか。

「ありがうございます! わたしが何度も死に掛けた時に、オーリンさんのお薬に助けられました。命の恩人です!」

オーリンおばさんは目を細めて、先生を見据える。

「境界さん、あんた、こんなお嬢さんに危険な事をさせているのかい?」

「こいつが無鉄砲すぎるんだよ。おれも、ひやひやしてるんだ」

先生は悪びれずに、笑って返した。

その日以降、わたしも野草を採取した日は、自分でハスキング薬品店に売りに行くようになった。

オーリンおばさんは、わたしの手作りお菓子にも喜んでくれた。

気さくな人だ……えらい人と聞いて、怖がってたのがバカみたいだった。

それからは大した事件も無く、まあ、初夏に一角と死闘を演じたりはしたか。

特種出現騒動……結局、特種とは認定されなかったけど大変だったな……。

あの後、モナークの冒険者三人は、一旦領に帰って行き、秋頃に小屋を訪ねて来た。

身辺を片付けて来たという事で、先生がつてのある村を紹介して、学びに行ったらしい。

モナーク辺境伯領は農業技術が遅れていて、グランデイルでそれらを学ぶのだと言う。

彼らは自分たちの手で、みんなの暮らしを良くしようとしている。

すごいな、わたしなんて自分の事だけで手一杯だよ。

それにしても、先生はその農村に三人を丸投げか、相変わらず人任せだ。

ひょっとしたら山歩きも、わたしに丸投げするようになったりするかも。

今は先生と二人で交代だが、あるいは……。

季節は冬となった、わたし一人で山歩きはさすがにキツイ、交代制で良かった。

わたしは寒いのが苦手だ。

それなのに……。

今、わたしは。

吹雪の中、避難小屋で寒さに震えていた。

どうして、こうなった!

新章「毛のない犬」スタートです。

毎週日曜日と水曜日、お昼12時に投稿しています。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。