闘犬9
一角討伐の翌日、わたし達は待機となった。
先生の提案で、今回の『特種襲来騒動』の進展を見てから、という事になったのだ。
今回のモナーク辺境伯が特種の出現を隠そうとしたのは不忠ってやつになって、王国に対する裏切り行為なんだとかで。
モナークの冒険者さんも、今帰ったらどんな扱いを受けるか分からない、って事で暫くの間は小屋で生活すると決まった。
今日の山歩きはわたしがお当番だったが、もちろん中止だ。
モナーク組にはリビングで食事をしてもらう。
獣人のわたしが朝食を作ったのだが、文句を言わずに食べてくれている。
通風孔から鳥型の折り紙が入って来た。
わたしはそれを掴むと、広げて内容を確認をする。
「先生~、東の神殿騎士団からお手紙ですー。来てほしいって」
わたしは先生に手紙を渡す。
「獣人は字が読めるのか?」
タレットさんの疑問に、わたしは苦笑いで返す。
わたしは運が良かっただけ……先生に拾われ、マシィに勉強を見てもらい、グランディルの住人になった。
モナークはどうなんだろう? 変わって行くのだろうか?
先生がぐるりと見渡すと、手紙をヒラヒラさせた。
「昨日の戦闘の状況を教えてほしいそうだ、一角の素材も確認したいってよ。ついでに換金してくるわ」
タレットさんが頷いた、やっぱりモナークでは買い叩かれるのだろう。
状況が知りたいのなら、わたしも行った方がいいのかな?
「お前は留守番だ、騎士に会いたくないだろう? 上手く行っておくよ」
先生はわたしの不安げな様子を察してくれた、ありがとう!
そんな訳で、その日は各々が銃に過ごす事となった。
モナーク組はフッフールのお手伝いで、庭の草むしりをしている。
マシィは、自室でお勉強のようだ。
わたしはといえば、リビングで刺繍をしている。
お誕生日の送り物は、刺繍入りのハンカチにした。
お金持ちのマシィには、手作りの一点物がいいだろう。
ハシドイの花をモチーフにフッフールに可愛らしい図案を考えてもらった。
ハシドイはマシィの故郷で親しまれている花らしく、ライルラック侯爵領のシンボルになってるそうだ。
領内では木材や香料などに使われてるが、観賞用に公園などやマシィのお屋敷にも植えられているらしい。
マシィのお家か……どんな所なんだろう。
さぞ、立派なお屋敷なのだろう、平民じゃ入れなんだろうな、わたしは獣人だから尚更あろう。
残念……。
マシィはエライお貴族様だったけ、なのに獣人のわたしを対等に扱ってくれる。
そんな彼の為にも、綺麗な刺繍のハンカチを送りたい。
それにしても、先生の帰りが遅い。
揉めているのだろうか? そんなに話す事も無いと思うんだけど。
先生が戻ったのは夕方だった、
おかげで、わたしが一人で夕飯の準備をする羽目になった。
七人分のギョウザを包むのは骨が折れる。
先生は亜麻袋を抱えて入って来た。
モナーク組をリビングに集めると、マシィも部屋から出て来た。
先生は三人にソファーに座らせるよう促す。
先生が袋を開けて見せる、三人とも目を見開いて固まってる。
中身は……直径四珊はある、大きな金貨が沢山入っていた。
「素材は大金貨八〇枚で売れました。魔石と合わせて、貴重な一角の良質だった事もあって高く買って貰えました」
これが大金貨か、初めて見た。
「良く、これだけの大金を当日に換金できましたね」
マシィが感心した風に先生に問い掛ける。
「目玉は魔法薬の素材になるからオーリンさんの店で、角は武器素材だからアスナじいさんに買い取ってもらった。二人とも目を輝かせてたよ」
オーリンさんは山歩きで採集した野草を買ってくれてる店だ、アスナさんはわたしのナイフを作った人の名前、城下にいたんだ。
「これって幾ら位なの?」
わたしはマシィに聞いてみた。
「教えただろ、大金貨一枚五万ディール掛ける八〇で四〇〇万ディールだ」
金額が大きすぎて、全くピンとこないよ。
「パン何個分?」
「工房ごと買えるな」
マシィは頭を抱えてる、そんな変な質問したかな?
「そんな大金、わたしには縁が無いし」
何故かここにいる全員が、驚いた顔をしてわたしを見る。
「一角を仕留めた本人がそれを言うのか……」
マシイが呆れた感じで呟く、どういう事?
「大賢者様、やっぱり、これほどの大金は受け取れません」
魔術師のコルサさんは、先生が大賢者だってのは知ってるみたいだ。
昨日、わたし達が出掛けている間に、フッフールから聞いたのかな。
先生はテーブルの上の金貨が入った亜麻袋を、彼らの方に差し出す。
「ご遺族に見舞金を渡して、余った金をどう使うか、良く考えてください。おれも出来る限り力になります」
三人は立ち上がると、先生に対して膝を付き、深々と頭を下げた。
こうやって、先生は慕われていくんだ……わたしも、先生に救われた一人だ。
わたしは胸が熱くなった、けど隣に立つマシィは、射るような視線を先生に向けていた。
「話が終わったならゴハンにして」
フッフールが水を差す。
そういえばお腹がペコペコだ、わたしはエプロンと頭巾を付けると厨房に入った。
一番大きなフライパンでギョウザを焼き、大皿に乗せてスープと一緒に、先にモナーク組みに出す。
リビングからダイニング、厨房と壁が隔てて無いので丸見えだ。
獣人のわたしが調理していたのは見えているのに、彼らはためらわらずに食べてくれた。
獣人への嫌悪感より、美味しい料理が勝ったのだろう。
彼らは暫くここに滞在するのだ、食べてくれて良かった。
「で、長引いてたようですが、どんな話になったのですか?」
マシィが真剣な顔で、先生に問い掛ける。
「中央神殿と伝信具を使ってやり取りをしてたから、時間が掛かっただけだよ」
先生は肩を竦めると、ギョウザを口に運ぶ。
「昨日、騎士団が一角の遺骸を調査して、おれが持ち込んだ採取した魔石を鑑定して情報を照らし合わせた。結果、東の神殿では、正式にアレが特種では無く、甲種である結論したんだ」
マシィは目を細めた。
「で、中央神殿はなんと?」
「一角の情報を中央神殿に送って返事を待ってたんだが、あちらでも揉めてるらしい。隠蔽した事と、特種では無かった事でモナーク辺境伯に対する処分に困ってるらしい。注意して捜査するよう話はしたが」
「有り得ません、王国に対する背任行為ですよ?」
先生は溜め息を付く。
「だかあこそさ、事は慎重に成らざるを得ないだろ」
先生はモナークの冒険者達に視線を向ける。
「彼らの為にもな」
先生は、モナークで暮らす人達の事を考えているんだ。
先生は甘い……わたしですらそう思えた。
毎週日曜日と水曜日、お昼12時に投稿しています。




