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大賢者は何もしない ~面倒事は弟子と助手に任せる~  作者: エビテン


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餓犬5

わたしは気を取り直して、タレットさんの所に戻る事にした。

エキスパート・ランクととはいえ、武器も無しにこんな場所にいつまでも置き去りにしては置けない。

戻ってみると、タレットさんは服を来て、座り込んでじっと川を眺めている。

わたしは彼の脇に立つと、目を細めて見下ろした。

「いい加減にしてください、置いて行きますよ。まだ全員は見つかって無いんでしょ?」

タレットさんは、ジロリとわたしを睨んで返す。

「獣人の情けは受けん」

「無事に生きて帰る事が先決です。帰った後に、いくらでも決着を付けましょう」

わたしは手を差し出すと、タレットさんはその手を取らずに、無言で立ち上がった。

「マシィと合流しましょう、あの場に遺体が無かったのなら、まだ希望はあります」

わたしは強い口調で、タレットさんに話しかけると川の上流側に歩を進めた。

高さがある岩に飛び乗り、タレットさんに向かって手を伸ばす。

彼は少しためらったが、手を取ってくれた。

少しは分かってくれたかな?

思た以上に流されていたみたいだ、落ちた場所に戻ってこられたが、結構時間が掛かってしまった。

わたしの荷物はそのままだが、マシィがいない。

付近にマシィの気配が無い、彼の性格から、どこかに身をひそめて、わたしが戻ってくるまで待機してそうだけど。

何かあった……?

その時、大型の魔物の気配を感知した。

こちらは発見されていないか? 

わたしは荷物をタレットさんに渡す、中には魔物かく乱用のチャフ、水筒、携帯食料などが入っている。

「ここを動かないでください、身をひそめて、隠れていて」

そう言い残して、気配をひそめて感知した方向に向かう。

別の気配も感知した、マシィともう一つ、生存者か?

まずいな、彼らは探知、追尾されている……急がないと。

わたしは走る速度を上げ、マシィの元に向かう。

見えた!

巨大な影を確認する、マシィと対峙しているのか?

わたしは跳ぶと、その影の頭部に飛び蹴りを喰らわせた。

びくともしない、そのまま地面に着地して体制を整え迎撃に備える。

コイツが、一角獣……。

わたしの目の前には巨大な野牛の姿があった。

全長は、優に一〇(メートル)はある、まるで丘だ。

長い体毛に覆われた体躯、その頭部からは目が射るように怪しく光っている。

そして巨大な、長い角……三(メートル)は有るだろうか?

その角にはシミが付いている、どす黒い、犠牲者の血……。

わたしは息を飲んだ、こんなヤツ……どうすればいいの?

「フォル!」

背後でマシィが叫ぶ、彼は杖を両手で構えているが、どうにも出来ない事は分かってるはずだ。

わたしはヤツの脇に走り込み、ナイフを突き立てた。

硬い! 歯が立たない。

後方に何度も飛びずさり、とにかく距離を取る。

一角が突進して来た、速い! 紙一重でかわす。

なんてスピード……これは、逃げられない!

「チャフは!」

わたしはマシィに向かって叫ぶ。

「試した。だが通じなかった!」

何てヤツだ、甲種とは格が違う……逃げる事も出来ない、どうする?

マシィと、その横にへたり込んでいるローブを来た若い女性。

両手で魔術師の杖を握っている、生存者か。

マシィは彼女を助ける為に移動して、一角に発見されたのか。

こちらの攻撃が効かない、敵は速くて逃げ切るのは無理、戦力にならない生存者もいる。

これは八方塞がりだ。

仕方が無い……覚悟を決めるか。

わたしは一角を睨み付けたまま、背後のマシィに向かって話し掛ける

「わたしが引き付ける、その間に逃げて!」

わたしはここまでだ、これは死んだな、確実に死ぬ。

けど、死ぬのはわたし一人に留める。

一角のヤツはわたしを見たまま動かない、突進のタイミングを計っているのか?

わたしは睨み付けて、目を離さないようにする。

「出来ぬ!」

え……? マシィから意外な返答をして来た。

「君を置いて、行ける訳が無いだろ!」

何を言って……彼ならそれが最善策だと分かるはずだ、なのに……。

マシィの声から強い意志を感じた、彼も逃げないと決めている。

仕方が無い……。

やるだけやって、ダメならコイツにしがみ付いて、マシィ達から離れよう。

わたしは更に強く、一角を睨み付けた。

一角が突進して来た、その巨体で樹木をへし折りながら接近して来る。

わたしはナイフを口に咥えると、その体に飛び付く。

体毛を掴み、ヤツの体に取り付くことに成功した。

ヤツは激しく暴れ始めた、体を跳ねさせる。

振り落とされないようにするのに精一杯で移動が難しい。

跳ねるタイミングを見計らい、ヤツの体毛を掴みながら這うように移動する。

なんとか頭部に到着した。

暴れるヤツの隙を見て、左手にナイフを順手に持ち、耳の穴にその切っ先を差し込む。

「オオォー!」

石鎚(いしづち)

膝蹴りで、硬い皮膚を持つ敵にナイフを打ち込む技だ。

脚を筋力強化し、ナイフに当てる瞬間に膝に魔力を集中させて硬化させる。

豪甲(ごうこう)

身体部分に魔力を集中させて、その部位を硬化させる技だ。

石鎚とは、豪甲との合わせ技である。

ギン! と鈍い音と共にナイフが弾かれ、後方に飛んで行ってしまった。

やっぱり効かないか!

わたしが技を放った瞬間、一角が大きく体を揺らす。

体制が崩れ、そのまま振り落とされてしまった。

地面をに落ちたわたしは、すぐに体勢を立て直す。

失敗か……ナイフを一本失った。

とにかく、マシィ達から離れないと。

どうする? しがみ付いても、その場で暴れるだけで走りだしてくれない。

わたしが地面を走っておびき寄せるのも無理だ、コイツの方が速い。

ナイフはもう一本ある、全体が硬いのなら目玉を狙うのがセオリーだ。

刃渡りは三〇(サンチ)、多分脳までは刺さらない。

だが片目でも視力を奪えば、遠近感が狂って突進の精度は鈍るはず。

それなら突進を回避し易くなる、マシィ達から距離が取れる。

来る! 一角が突進を掛けて来る。

出来るだけ勢いを殺す為に、ヤツに背を向けて同じ方向に走り出す。

ヤツはわたしの背中を貫こうと角を向けて走る、寸ででかわすと角を腕で囲い込み。滑るようにして顔面に到達する。

角は額から生えている、目はその付け根付近だ。

顔も毛深い、目の付近を掴み体を固定する。

ナイフを構え、眼球に向かって石槌を喰らわせた。

失敗!

直前で目を閉じた、瞼に阻まれてナイフが弾かれる。

ナイフはが激しく回転して藪の中に落ちる。

ヤツは足を止めると首を振り、脇にある岩でわたしを潰そうとする。

間一髪、わたしは体を翻して離脱した。

岩が砕け散る、なんて力だ。

落としたナイフを回収している暇も無い、速やかにその場から離脱しヤツから距離を取る。

まるで歯が立たない、武器も失った、次はどうする?

駄目だ、攻撃が通らないのだ、戦いようが……。

諦めるな、考えろ!

わたしは死んでも、マシィは助けるんだ!

彼は有能で、優しくて、勇敢な人だ……わたしなんかよりも世の中の為になる人なんだ。

こんな所で死なせてたまるか!

石穿(せきせん)……あの技ならダメージが通るかもしれない。

体内で魔力を極限まで高め、一点に集中して放つ技だ。

一角の堅い皮膚を貫き、内部組織の破壊でダメージが与えられるかもしれない。

だが今だに未習得だ、本来のソレとは威力が格段に落ちる。

この土壇場で、追い詰められ、結果として初めて成功して技を習得する……。

そんな上手くいけば、世の中苦労は無い。

だがやるしか無い、わたしは覚悟を決め、技の準備に入る。

次にヤツ突進して来た時、その脇腹にしがみ付いて石穿を叩き込んでやる!

それしかもう打つ手が無い、一か八かだ。

わたしが呼吸を整えた時、聞き覚えのある甲高い音が耳に入って来る。

飛行具の音。

先生だ……先生が接近してくる!

一角の背後、樹木はヤツにへし折られていて遮蔽物が無い。

先生が飛行具を狩り、高速で接近して来るのがわたしの目に映った。

一角は先生の方を向き、対峙する。

先生は杖を前に突き出しているのが見えた、わたしは耳を塞ぐ。

低伸穿(ていしんせん)かっこ仮り……。

グランディル城で、甲種のワイバーンを一撃で仕留めた、あの魔術だ。

轟音と共に、鉄の矢が発射された!

大気が振動し、音速を超える鉄の牙。

矢は一角の頭部に命中した! が……。

弾かれた!

ゴン! と鈍い轟音が響く。

アレすら退けるって言うの?

先生は杖を投げ捨てると、一角に近接する。

すれ違いざま、先生は飛行具を乗り捨てるとヤツにしがみ付き、その左脇に五本の指を突き立てる。

そこから手の平を押し付ける、同時に、ガン! と高い音が響いた。

初めて……一角が怯んだ!

あれは、初めて見る技だ。

一角の左脇から血が噴き出る、傷を……ダメージを与えるのに成功した!

勢いが付いたまま先生は落下し、地面の上を転がる。

その時だった。

一角の鋭い角が、背後から先生の胸を貫いた。

毎週日曜日と水曜日、お昼12時に投稿しています。

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