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大賢者は何もしない ~面倒事は弟子と助手に任せる~  作者: エビテン


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餓犬6

目の前の光景に、わたしの頭はまっしろになった。

一角の角が先生の胸に深々と突き刺さり、貫通している。

ヤツは頭を高く持ち上げると、勢い良く頭を横に振り、先生を投げ捨てた。

先生の体が、ボロ布のように宙を舞い、力無く地面に落ちる。

「なに……」

何が起きたの?

一角の角から、真っ赤な鮮血が滴り落ちる。

ヤツは満足したかのような、低いうなり声を上げている。

その姿を前にして……。

体中がぞわっとした、何か良く分からない物が……全身を這い回る。

いつもみたいに(わら)いが、込み上げてこない。

ただ、頭の中が透き通る感じがした。

そして、わたしの思考は一つの想いに支配される。

『コイツヲ、コロス』

わたしはヤツの元に歩を進めると、その前足に回し蹴りを喰らわせる。

硬い、全く効いて無いな……。

脚を潰して、機動力を奪うのは無理か。

一角は噛み付き攻撃を仕掛けて来るが、わたしは後ろに飛んで避けた。

動きは鈍っていない、先生の攻撃は効いていないのか?

それとも興奮していて、痛みを感じてないだけか?

ヤツは額から出血している、鉄の矢は硬い頭骨によって阻まれたが……。

それでも生き物だ、あの打撃を受けて無事な訳が無い。

頭骨にヒビぐらいは入っているはずだ。

ソレと左脇、先生が貫いた箇所だ、ここからは激しく出血している。

だが、あまりダメージは無い様子だ……皮膚を貫いただけか?

石穿(せきせん)とは違う技……アレを使わなかった理由。

石穿は硬い皮膚を突き破り、こぶしから衝撃波をを出して体内を破壊する技だ。

だが先生が放ったあの技は、皮膚を貫いただけだった。

違う……石穿では貫けないから、あの技で皮膚に穴を開けたんだ。

石穿は内部破壊、あの技は表面破壊の技か。

先生は死を賭して、わたしに繋いだんだ。

違う、先生は死んだんだった。

ダカラ、コイツヲ、コロスノダ、ドウヤッテ、コロスカ?

一角は足を止めて、距離を取っている。

ダメージが入って警戒しているのか、余裕を見せているのか……。

わたしの耳が足音を拾う、ヒトの物だ。

この臭い、タレットか……何しに来たんだ? 邪魔なだけだというのに。

「獣人!」

彼は叫ぶと、何かを投げつけて来た。

勢い良く回転しながら接近する『ソレ』を掴むと、体を回転させて重さの衝撃を逃がす。

剣だ、刃渡り一五〇(サンチ)程のロングソード。

彼の、死んだ仲間が持っていた物だ。

わたしの身の丈よりも長い。

体重が軽いわたしでは使いこなせない。

バカな人だ、こんな物、わたしにどうしろと……。

「フォル! おれが空けた穴にソイツを叩き込め!」

……え?

「おれはもう動けん。お前に任せた!」

声の方に視線を移す。

先生……。

先生が胡坐をかいて、疲れ切った顔でわたしに微笑み掛ける。

ちょうど一角がわたしに向かって走り込んできた。

わたしは一角の突進を剣を抱きかかえて回避し、地面を転がる。

膝を付いて体を起こすと、先生の微笑みに嬉しさが込み上げ、笑顔で返した。

「先生、生きてるなら少しの間、時間を稼いでください」

先生はふらっと立ち上がる、その手にはマントを結び付けた棒きれが握られている。

「相変わらず、師匠使いの荒い弟子だぜ」

そう言って、石を一角に投げつけると、棒に取り付けたマントを体の横でヒラヒラ揺らす。

「おら! 牛に説法、馬に銭。バカの考え休むに似たりだ、掛かって来い!」

魔物まで煽ってる……言葉の意味は良く分からないけど……とにかくヤツは先生の方を向いてくれた。

一角が突進する、が、マントに照準を当ててる? 先生はマントを引くと後方に飛び退く。

マントの分、避けやすいんだ……習性を利用してるの?

あんな方法があるのか、さすが先生だ、変な事を良く知っている。

わたしは自分の方の準備に掛る。

今手にしている長剣、刃渡りは一五〇(サンチ)くらい、グリップ、握り部分は五〇(サンチ)って所か。

だがその間に付いてる、長くて大きい(つば)が邪魔だ。

取り外さないと……突き刺した時に、ここが引っかかってしまう。

ヤツは巨体だ、出来るだけ深く付き刺さしたい。

剣は刀身の根元部分が棒状になっていて、そこに鍔とグリップを挟み込んでボンメルで止めてある。

ボンメル、柄頭はグリップの先端についている球体上の部品だ、握り絞めて力を込める。

回った、ネジのように固定されているソレを回転させて取り外すと、挟み込んであるグリップを引き抜く。

鍔は刀身に(にかわ)で接着してある、足でガンガン蹴って取り外す。

刀身にグリップとボンメルを取り付ける、棒部分が上手くかみ合うようになってて、鍔無しでもそんなにガタガタしない。

「先生、準備出来た!」

叫ぶと先生が駆け寄って来て、わたしの左側に立つ。

先生はわたしの考えを察してくれた、更に左側にマントを突き出してひらひらと揺らす。

一角が突っ込んで来る、だが目的の左脇の穴は高さが四、五(メートル)は有る。

やるしかない、これを外したらヤツは警戒するようになる。

チャンスは一度切りだ。

ヤツが目の前まで接近した時、突然つんのめた。

勢いが付いたまま、腹這いになって地面を滑る。

マシィだ。

グランディル城でフッフールがワイバーンに掛けた魔術を、一角の脚に掛けたのか。

「グギ、ギ……」

マシィの唸り声が聞こえる、両手に杖を握りしめて突き出している姿がわたしの目に写った。

発動した術に、魔力を込めて維持しているんだ。

左脇の穴は目の前だ、この機を逃してはいけない。

わたしは左手を刃の腹に添え、右手でグリップを逆手に握る。

「オオォ!」

助走を付けて、やり投げの要領でヤツの傷口に剣を突き刺した!

くっ! コイツ、内臓まで硬いのか……半分ほどしかめり込まない。

わたしは剣のボンメルに、飛び膝蹴りで石槌を叩き込む。

左膝が砕ける感覚、さすがに無理しすぎか。

だが剣は根元まで突き刺さった。

「ブオオォ‼」

一角が苦しみ、狂ったように激しく暴れる。

コイツ、まだ動くの?

わたしは左膝が動かない、暴れる一角の体に接触して、凄まじい力で弾き飛ばされた。

どうする? わたしは機動力を失った、接近するのも難しい。

一角は足を震わせながら苦しそうな声を漏らし、わたしと対峙する。

先生は、倒れている……わたし同様、巻き込まれたか。

左膝に力が入らない、次に突進が来たら避けられない。

出来る事が無くなったが、わたしは一角を強く睨み付けた、諦めない!

その時、轟音と共に、渦を巻いて何かが一角の脇、剣を差した場所に命中した。

あれはマシィの魔術、確か『旋風(つむじ)』っていったか。

石に風の刃を纏わせ、激しく回転させて発射する術だ。

マシィ……連続して大技を。

一角が雄叫びを上げて、側面に倒れた。

マシィもうつ伏せに倒れ落ちている、力を使い果たしたか。

この機を無駄にするな! わたしは膝を無理に動かした。

ヤツに近付くと、倒れたまま激しく暴れ、周辺に土砂をまき散らす。

その場で姿勢を低くして、腕で顔を庇い、亀のように身を固めてやり過ごす。

腕を下げて確認する、一角は体を横たえてグッタリしている。

腹が上下している、まだか……わたしは歯を食い縛り、痛めた膝を引きずりヤツに近付く。

剣を突き刺した穴は、上を向いている。

もう一息だ、もう一撃、ヤツに撃ち込む!

一角の上に飛び乗るとこぶしを固める。

『石鎚』のこぶし版だ、魔力でこぶしを硬化させ、剣がめり込んでいる穴に叩き込む。

腕が二の腕までめり込む、反動が付き剣は更に深く沈んで行く。

一角の体が激しく跳ね、何度かビクン、ビクンと痙攣する。

そして、遂に動かなくなった。

分かりにくいので、簡単にですが大剣の分解図を作成しました。

挿絵(By みてみん)

毎週日曜日と水曜日、お昼12時に投稿しています。

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