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大賢者は何もしない ~面倒事は弟子と助手に任せる~  作者: エビテン


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餓犬2

大賢者小屋の鳥瞰図を作成しました。

挿絵(By みてみん)

高さや大きさは大体で描いてます。

小物の類は省略しています。

特種が現れた? わたしは、モナークの冒険者の剣士さんを見つめた。

本当なら大騒ぎになってるはずだよね、何が起こってる?

「バカな! 特種が現れただと? 聞いてないぞ!」

先生が声を荒げた、剣士さんは床に座らせられたまま、目を伏せている。

マシィが腕を組んで、剣士さんを見下ろす。

「間違いないのか? 特種出現は災害指定事案だ。確認が報告されれば国境を問わず、周辺地域に警戒指示が出るだが?」

剣士さんは目を逸らし、またもやダンマリだ……マシィが溜め息を吐く。

「モナーク辺境伯領、片田舎の貧乏領が……あそこは禄でも無い」

「話してください、場合によってはあなたや、その家族にまで塁が及びますよ」

先生が膝を付いて、床に座り込んでいる剣士さんに視線を合わせる。

剣士さんが、重々しく口を開いた。

「俺達はギルドから依頼されただけで、詳しくは知らねえ。ただ、領主様の命令で他言無用とだけ……」

「な? バカな!」

マシィが大声を上げた。

「それは、辺境伯の職務に対する背任行為だぞ! お取り潰しも有り得る大罪だ! あの田舎者は何を考えているのだ?」

え! そんなに大変な事なの?

先生は身を乗り出し、剣士さんに詰め寄る。

「魔物のタイプを教えてください」

「一角獣、野牛型……」

「一角獣、ですか。しかも野牛……一番厄介なヤツか」

一角獣は確か甲種指定の魔物だ。

馬、野牛、山羊などの形に似ていて、額に鋭い角を持つ。

今回現れた特種は一角獣の変異体か。

先生が俯くと、頭を掻きなが困った顔をしている。

「とりあえず、おかしな事になってるみたいだな……中央神殿の騎士団に行ってくる。まず、情報収集だ。同時にモナーク冒険者ギルドへ確認させる。マシィは城下のギルドと神殿、城に折り紙を送ってくれ、後は頼んだ」

そう言うと先生は小屋から出て行ってしまった、もうじき夕飯なのに。

面倒臭いがり屋の先生が、慌てて飛び出して行く位だ、やっぱり大変な事なんだね。

一方で、まだ呼んでないのにフフールは二階から降りて来ると、盛り付けを始めてくれる。

食いしん坊の彼女らしい。

わたしは剣士さんに、作ったサンドイッチを差し出す。

後ろ手から前に、手錠が掛け直され紐で固定されている、そんな物有ったんだ。

これなら食べられる筈。

危な……剣士さんが皿を蹴り上げようとした。

わたしは慌てて避けた。

「獣人が作ったメシなんか食えるか!」

もう……お腹は空いてるでしょうに、わたしはリビングのテーブルに皿を置く。

「食べ物を粗末にしちゃ駄目ですよ」

わたし達のやり取りを見て、マシィが近付いて来ると、剣士さんの足元に干し肉を投げ付けた。

「食いたく無いのならソイツをかじってろ。フォル、相手にするな」

わたしはダイニングの自分の席に着く。

食事中、剣士さんはずーっとわたしを睨み付けていた。


***


翌朝、お皿を確認したけど、剣士さんは手を付けなかったようだ。

もう夏だが、山の上にあるこの小屋は夜は冷え込む。

剣士さんがソファー眠ってる間に、こっそりと毛布を掛けて置いたけど風は引いて無いよね?

残ったサンドイッチが勿体無い、痛んでしまう前にわたしが食べてしまおう。

口に運びながら、朝食の準備を始める。

剣士さんの分はどうしようか? 干し肉だけじゃ、お腹が空いちゃうよね。

程無くして、マシィとフッフールがダイニングのそれぞれの席に着く。

わたしはみんなの配膳を済ませると、別の皿にベーコンとパンを乗せ、チーズとジャムの瓶を用意した。

「わたしは調理してません、これなら食べらますよね?」

リビングのテーブルに置かれた食べ物を、剣士さんはジーっと見てる。

やはり空腹には耐えられなかったのだろう、すぐにガッつくように食べ始めた。

「君はお人好しが過ぎる」

マシィは呆れてるけど、わたし自身が空腹の辛さを知っている。

朝食を終えるとフッフールは洗い物を済ませ、書斎から本を持ち出すと二階に上がっていった。

二階の空き部屋では、魔術師さんが床に臥せっている。

フッフールは看病……いや、監視するつもりだろう。

魔術師さんの為にロールパンサンドを作ったけど、つまみ食いしないよね?

さて、今日はどうしよう……特種が現れたのなら山歩きは中止だ。

特種の魔物は、甲種よりもかなり強いらしい。

わたし一人じゃ甲種には勝てない、山歩きで遭遇したら迷わず逃げろ、と先生にも言われてる。

呑気にチーズケーキを作ってる場合でも無いし……先生が帰ってくるまでは家で大人しくしてるしか無いか。

わたしは部屋に戻ると、ベッドの上にちょこんと座っている大きなイヌのぬいぐるみが目に止まる。

先生から飛行具をプレゼントされた翌日の事、一泊してから山小屋に戻りそこでの出来事をマシィに話した。

話を切った途端、彼は飛び出してて行き、帰って来たかと思ったら、このぬいぐるみを渡されたんだ。

わたしのぴんと立った耳とは違う、黒い垂れた耳の白い犬のぬいぐるみは、大のお気に入りだ。

先生の武骨なプレゼントとは違う、飛行具と二振りのナイフは便利だが、マシィがくれたのはぬいぐるみだ。

女の子扱いをしてくれたのが得点が高い。

貰った時に、彼の誕生日にはお返しをしないと……と考えていた。

確かマシィは一五歳になってすぐに冒険者になったんだよね。

それから一年という事は、今月にマシィは誕生日を迎える。

う~ん……なにをお返しすれば喜んでもらえるか?

けど、マシィってスゴイ貴族様らしいけど、部屋にはお勉強の道具と服しかないんだよな。

そもそも、欲しい物が有るなら自分で買ってるはずだ、お金持ちなんだろうし。

なんか大変だぞ、先生の故郷では毎年こんな事してるの?

身の回りの人達って沢山いるよね? 毎年事に、いちいちお祝いしてプレゼントとか用意してるの?

面倒臭くなった……何が欲しいか、直接本人に聞いた方が早いな。

マシィの気配がするリビングに行く。

「断る、を言うで無い!」

マシィが声を荒げてる、剣士さんとお話し中か。

剣士さんは必死な顔で、マシィに頭を下げている。

「上手く隠れてるかも知れねえ、お願いします!」

「相手は特種だぞ、生きているはずが無かろう」

「参加メンバーは手練れなのです。もしかしたら……どうか!」

剣士さんの仲間が生きてるかもしれないって事?

「マシィ、行こう」

わたしは迷わず、そう告げた。

可能性が有るのなら、助けるべきだ。

「駄目だ……待て、フォル!」

わたしはダイニングのテーブルに置いてあったカギを取ると、剣士さんの手錠を外す。

「場所は、分かりますか?」

剣士さんはじろりとわたしを見るが……。

わたしは無言のまま剣士さんに両手剣を手渡し、部屋に背嚢とナイフを取りに行く。

剣士さんと玄関から出ると、後ろから背嚢と杖を持ったマシィが追いかけて来た。

「まったく君は……」

「ありがとう! 愛してるよ」

わたしは笑顔で返すと、マシィは渋い顔をした。

「君のソレは軽すぎる……」

「チャフは持った?」

「当然だ、相手は特種だぞ」

マシィは青色のローブはだけ、ベルトに掛けられた金属製の円筒を見せる。

チャフとは、魔物の追跡をかく乱させ、逃走の補助に使う魔道具だ。

砕いて粉状にした魔石を加工して作られる。

魔物は、人類が持つ魔力を追跡する。

だから魔物の探知の範囲外に離脱すれば逃げ切れる。

先生によると、逃げ方も冒険者の技術との事、らしい。

だが、逃走が困難な状況も有り得るし、甲種や上級の乙種の魔物は執拗に追跡して来る。

チャフもその一つだ。

魔石を砕いて加工した粉末は魔力を帯びており、まき散らす事で魔物の探知をかく乱、その間に逃走する。

わたしや先生は気配……魔力の存在を消す事が出来る。

甲種の魔物相手でも、逃げ隠れ出来るからチャフは必要無いけど、そんな事が出来る人類は獣人種だけらしい。

今回の目的は救出だ……特種の討伐では無い。

敵に発見されても、戦闘は回避する。

わたしは女神様に無事に済むようにとお祈りした。

獣人の願いを聞き届けてくれるとは思えないけど……。

毎週、日曜日と水曜日、お昼12時に投稿しています。


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