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大賢者は何もしない ~面倒事は弟子と助手に任せる~  作者: エビテン


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忠犬1

厄災が発現するまでの約三か月……自分はと言えば、多忙な毎日を送っていた。

アドレー・ウェイス……中堅の標準等級(スタンダード・ランク)だというのに、能無しの烙印を押された魔術師の再教育をせねばならない。

彼女は身の丈は一五〇(サンチ)程で細身で小柄な体格、整った顔立ちで人の目を引き付けるが、戦闘センスの無さに加え気位の高さにより、他の冒険者からは敬遠されているらしい。

長さが膝まである、薄い黄色に近い茶色の髪が魔力の強さを示している。

魔術師は貴重、故に重宝されている。

人類なら獣人以外は誰でも魔術が使える、魔術師が専門職として成立するのは、高い技術と強力な効果が発揮出来るからだ。

特に冒険者の魔術師職は、単騎で多数の魔術を行使し、多様な効果を発揮出来ねば務まらない。

なので普通は引く手数多なのだが……。

アドレーの才能はなかなかの物らしいが……、それでいて敬遠されているのだから相当な問題児なのだろう。

そういった理由から再教育という形となった。

ビギナー・ランクの自分が、それをするのも滑稽な話だが……。

アドレーを伴い、ミントとボクスに合流する。

長身で冷静なミントと、平均的な体格だが大胆なボクスのコンビは、自分の戦闘スタイルと相性が良い。

それに加え、彼等は自分が貴族である事に、物怖じしないので気が楽だ。

自分は特定のパーティに属していないが、最近はこの二人の剣士の専属魔術師になりつつある。

二人は彼女を見るや否や、露骨に顔を歪ませた。

気さくな彼等ですら、この反応は意外だ……先が思いやられる。

グランディル冒険者ギルドには原則として、初心者等級(ビギナー・ランク)標準等級(スタンダード・ランク)を伴うルールがある。

生存率を上げる為だ。

自分とミントとボクスは、ビギーナ・ランク。

アドレーはスタンダード・ランク。

形的にはスタンダードの彼女がいれば、我々ビギナー組は依頼を受ける事が可能となる……これも実に滑稽だ。

幸いなのは二人共、後ひと月もすればスタンダードに昇格する事が確定している。

それだけの、経験と腕を有している冒険者である事だ。

お荷物のアドレーが加わっても、何とかなる……と思いたい。

自分は二人に『子守りだと思って』となだめ、同行を了承させたが、普段世話になっているだけに、迷惑をかけるのは誠に心苦しい。

ミントとボクスを自分の事情に巻き込んでしまったが、とはいえアドレーを伴って他の冒険者は組んでは貰えないだろう……二人ともすまぬ、この埋め合わせはいつか必ずする。

そして討伐依頼、村付近に住み着いた牙ウサギ退治。

小型で弱い魔獣だが、鋭い牙による攻撃は致命傷に成ることも有る......が、回避すればそれほどの脅威が無い。

その戦闘でアドレーは、早速その真価を発揮した。

ボクスは発見した巣から牙ウサギを誘い出す、数は全部で五体。

コイツ等は素早い、なのでその俊敏性を封じるのがセオリーなのだが……弱い敵を相手に、アドレーはボクスの剣に炎を纏わせて攻撃力を強化した。

身軽なボクスが敵を引き付け、腕力が有るミントが仕留める戦術を取る……と説明した筈なのだが……。ボクスが前に出たので、単純に攻撃力を上げたのだろう。

しかも二人が接近戦をしている状況で、炎弾まで撃ち込んだ。

制弾力に自信が有るのだろうが、味方を巻き込む恐れがある、非常に危険な行為だ。

しかも、小型の魔物に対して飛翔魔術とは……。

案の定、攻撃を外した挙句、二人に対して邪魔だと罵る。

そして極めつけは、二人を守る為だろう、防壁魔術を発動させたがタイミングがデタラメで、むしろ邪魔なっている。

詠唱から発動のの時間を、全く考慮していないのが良く分かる……一回の戦闘でこれだけやらかすとは……もはや才能だ。

なまじ、精度と効果はしっかりと発揮しているだけに質が悪い。

そして戦闘後、問題点を指摘して嗜めると、全く話を聞かずに逆に噛みついて来る始末だ。

これは、かなりの難物である……だが問題点は理解した。

すなわち。

状況に応じて、適切な術が行使出来ない。

戦闘の流れを、全く配慮していない

術の詠唱時間を考慮していない。

失敗に対して反省をしない。

術者としては精度と効果は高いのだ、これらをの問題点が解決すればアドレーは一端の魔術師になれる。

……。

いやいや、無理だろ! こんなの……自分にどうにか出来るのか? 

「噂以上のポンコツでしたね……」

ミントが呟く……本当に、彼等には迷惑をかけた、これは何とかしないとイカンな。


***


後日、……神殿の転移陣を利用し、アドレーを小屋近くの古戦場に連れて来た。

ここは大厄災の時の影響で、現代でも草も生えない更地となっており、トレーニングには最適な場所だ。

ここは境界線から僅か一〇(キロ)程の距離、アドレーは落ち着かない様子だ。

到着すると先生の元で、フォルが先に来てノックを受けていた。

狩猟本能を鍛える訓練と仰っていたが……自分には、先生が遊んでいるようにしか見えない。

「こら~……ボールの落下地点にちゃんと移動しろよー。ジャンプしちゃ駄目だ」

先生によると、落下地点より前にいるのは、ボールが見えていない証拠だとか……いや、今はどうでもいい。

今回の話、先生に前もって許可は取っていたが……やはり観戦にいらしたか。

アドレーも信心深いようで、獣人のフォルを前にしてたじろぐ。

「ちょっと、何をするつもりなの?」

彼女の大きな来い紫色の瞳は抗議の色を浮かべいる、美人が睨み付ける視線は、中々の迫力だ。

「今日は、よろしくお願いします」

フォルはアドレーの元に歩み寄ると、締まりの無い笑顔を投げかけた。

この二人、並ぶと中々に絵になる、フォルはアドレーとはタイプが違うが十分魅力的な容姿をしている。

整った顔立ちは勿論だが、人の物では無い獣人特有の、細くてしなやかな白髪は、良く手入れがされていて、肩ほどの長さに切り揃えられている、ヒトの頭よりも高い所にある大きなイヌの耳、細やかな毛に覆われている長い尻尾も異質ながらも、とても魅惑的だ。

容姿に加え、一四〇(サンチ)に満たない身長は、アドレーよりも更に小柄で、愛らしさをいっそう強調させる。

この容姿に加え、フォルの物腰の柔らかさがアドレーに安心感を与えたのか、少し落ち着いたようだった。

「じゃあ説明するぞー」

先生が声を上げた、いつの間にか仕切るおつもりらしい。

「対・魔術師戦の演習をしてもらう。当然だがアドレーが防衛、フォルが攻撃だ」

その言葉にアドレーが驚愕する。

「ちょっと待って! こんな子供相手に模擬戦をやれって言うんですか? いくら何でも私を馬鹿にしすぎです!」

アドレーの抗議に、フォルは締まりの無い笑顔で頭を掻いている……いや、照れる所では無いぞ。

この反応は仕方が無いだろう、彼女はフォルの恐ろしさを知らない。

先生はアドレーの言葉を聞き流し、話を進める。

「距離は一〇〇(メートル)間隔で行う。それぞれ配置に付け」

小走りに持ち場に向かうフォルに対して、アドレーは戸惑いながらも杖を構える。

自分と先生は、彼女等から距離を取った。

横に並ぶ先生は、いつも通りの眠たそうな目で楽しそうに笑みを浮かべている。

自分は成長期で、この方と出会ってまだ一年も経っていないのに、目線が随分下になった。

先生……大賢者、統馭(とうぎょ)の女神がこの地に使わせし存在、身の丈は一六〇(サンチ)にも満たない。

子供のような見た目で、つややかな黒髪がいっそう幼さを引き立てる。

その髪色と黒い目は、ここ、中原では見かけない特徴だ、顔立ちもどこか西方沿岸州連合の国の一国の人達に似ている。

本人曰く、ヒト族との事だが、年齢は見た目よりもはるかに上なのは間違いない。

不思議なお人だ……、そんな大賢者と少数種族の獣人がこの場にいる。

そういう意味ではアドレーは普通の存在で、変に安心感を覚える。

「準備はいいか~!」

先生が大声で呼びかける、離れているフォルにも聞こえるようにだろう、そして手を高く掲げた。

「そうそう、フォルはこの距離なら八秒で走るぞ、気を抜くなー」

その事実を聞かされ、アドレーは動揺して目を見張った。

「はじめ!」

先生は手を振り下ろすと、同時にフォルが大地を蹴った。

新章、厄災攻防編「忠犬」スタートです。

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