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大賢者は何もしない ~面倒事は弟子と助手に任せる~  作者: エビテン


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ドッグラン14

自分は、原稿の確認を終えてるとダイニングに向かう、回復したフォルはいつも通り食卓に着いていた。

昨夜、悪鬼の毒にうなされていたのが嘘のように平然としている、獣人の回復力、恐るべしだ。

空腹だったのか、いつもの倍を食し、誰よりも早く食事を終えた。

そんなフォルを、先生が手招きをする。

「昨日の自分に起きた変化……分かるか?」

フォルは顎に指を立てて首を傾げた。

「あの気持ちが、わーーってなるヤツですか?」

先生が手の平を振り、否定の意を示す。

「そっちじゃなくて、身体の変化だ」

フォルは眉間に皺を寄せ、天井を見上げて考え込んでいる。

「お前、牙が伸びていたの、気付かなかったのか?」

先生がテーブルに膝を乗せると、フォルの顔を眠たそうないつもの目で凝視する。

「そうだったんですか! どうりで噛みやすかったと思いました……」

噛んだのか? 悪鬼を……どんな戦い方をしたのだ?

「攻撃衝動で出来る筈なんだが、ちょっとやってみてくれないか?」

フォルは腕を組んで少し考えるようなそぶりを見せ、やがて目をつぶると、俯いて小さく唸る。

……フォルの顔付きが少し変わったような気がする。

いや、明らかに顎が肥大化している、この変化は見覚えがある。

あの日、神殿騎士団長が訪れて、自分が逆上したフォルに噛まれかけた日だ。

「アーンして見ろ」

先生の指示に従い、フォルが口を大きく開けると、自分も観察する為に覗き込んだ。

生えている歯は肉食獣のそれで、全てが鋭く尖っており、食い千切る為のソレと見て取れた。

特に犬歯は発達が著しく、まさに禍々しい凶器といった印象だ。

先生はフォルの顎を指で摘まむと、食い入るように観察をしている。

「見事なもんだ、骨格ごと変化している」

「はんだか、恥ずかしいれふ……」

口の中に羞恥心を感じるだと? その意識は己の裸体に向けて欲しい物だが……。

先生はフォルの顎から手を放すと、厨房に顔を向けた

「フッフール、鍋の中にボーン・ブロス用の牛の骨があっただろ? 取ってくれないか?」

厨房で洗い物をしていたフッフールさんが牛の骨を鍋から取り出し、先生に投げて寄こした。

どの部分の骨かは分からないが、相当なの太さだ。

先生は受け取った骨を、フォルの口元に差し出す。

「噛んで見ろ」

フォルは目を丸くしたが、うなずくと骨の中心部を口に挟んだ。

鈍い音と共に牛の骨はいとも簡単に噛み砕かれた、驚異的な咬合力、これほどの物なのか……。

先生は真っ二つになった骨をじっくりと観察する。

「これで出汁が取りやすくなったな」

何を呑気に……それにしても先ほどから先生は一人で納得している感がある。

「先生、そろそろ説明をお願いしたいのですが……これがトイ族最強の秘密なのですか?」

先生はとぼけた顔を自分に向けて、首を傾げた。

「いやいや……この現象、『身体変化』は他の獣人族にも出来るぞ。ボブ族とベア族も立派なネコとクマの牙が生える。更に両手は鋭い鉤爪(かぎづめ)に変化する。ちなみにミノ族は牛の角が伸びる」

「へえーそうなんですか」

フォルが感心したようにとぼけた調子の声を上げると、先生は頬杖を付き、目を細めてフォルに視線を送る。

「お前の両親はどうだったんだ? 成人してる獣人は大抵出来るぞ」

「いや~、幼い時に死別したので」

後頭部を掻きながら笑みをこぼす、そこに悲壮感は無く、自分はその事に内心安堵する。

獣人の身体変化、その動物の武器となる部分が変化をするのか?

「それならフォルは爪も変化出来るのですか?」

先生はうなずくと、フォルに試して見ろと即した、フォルは両手を胸元に構え、軽く手の平を開く。

……指先の爪が、ほどなくして黄色味掛った色の太く長い物に変化を始めた。

「おお、出来ました!」

驚きで目を丸くしているフォルの手を、先生は覗き込む。

「ああ、まさしくイヌの爪だ。ネコやクマのような鉤爪じゃ無いから、戦いには使えないんだよな……」

「ええー! ダメなんですかぁ!」

落胆してうな垂れるフォルだが、先生はその肩に手を乗せ、朗らかな笑みを浮かべた。

「穴を掘るのに向いてるぞ、暇な時にゴミ捨て用に掘っておいてくれ」

フォルは、物悲し気に眉をひそめて落ち込んでいる、居た堪れないな。

「先生の仰った事は只の悪ふざけだ、フォルのその爪はかなり使えるぞ」

フォルが、すがる様に自分を見つめて来たので、自分は咳払いをする。

「第二段階、あの時にフォルが加速は爪による物だ、その爪は直接的な戦闘で使うのでは無く、踏堪(ふみこた)えるのに有利だ」

自分がその用途を語ると、先生はフォルに片目を瞑りおどけて見せた。

「つまり、高く飛んだり、速く走ったり出来るって事だ、戦いには不向きで武器としては使えん。だからナイフを持たせたんだ」

「先生のイジワル!」

フォルは顔を真っ赤に染めて抗議するが、尖らせたままの牙に、自分は気圧されてしまう。

先生は手の平をフォルに向けて、苦笑いを浮かべながら宥めると、不意に自分の方に視線を向けた。

「マシィ、気付いたか? 獣人の特異性について」

「特異性……ですか?」

唐突に話を振られて困惑するが、状況の異常性に思い至り絶句した……。

「身体変化……そんな事が出来る人類種は存在しません」

「半分正解だ」

先生は、自分に向けて腕を伸ばすと、力を込める……ソレはやがて急激に肥大化した。

「おれも身体変化は出来るんだが、ごらんのとおり肉や皮だけだ、骨格までは変えられない」

「触れても?」

先生が首を縦に振ると、自分は丹念にその肥満体の腕に触れて、感触を確認する、その最中に変形を始め骨ばった痩せた腕に変わった。

その変化に虚を付かれ、思わず手を放してしまう。

「驚きました、幻覚でそのように見せる魔術は有りますが、まさか実際に変質するなど……」

「短い時間なら、全身に施す事も出来るぜ、以前オンナに化けて湯治場に侵入した事がある」

「それは犯罪では無いですか!」

先生の唐突な告白に、思わず声を荒げる。

「いやあ、それがさ……潜入したは良いけど利用客ががご老人ばかりで、気落ちして湯から上がった時に宿の女将に捕まったんだ。なんでも、しぐさや歩き方でバレたらしい」

先生は腕を組んで目を瞑ると、聞きたくも無いのに話を続ける。

「騎士団や神殿に知られたら、さすがにまずいと思ってな、フッフールに身元引受人になってもらって助かったんだ。プロの観察力ってのは侮れん」

本当にどうでも良い話だった……自分は呆れながらフッフールさんに視線を送ると、彼女は目を細めて先生を冷たく見据える。

「コイツは馬鹿な行動がが多すぎて……いちいち覚えてない」

フッフールさんも気苦労が絶えないようだ、さて。

「先生、戯言は不要ですから、原理の説明をお願いします」

「君……最近、おれの扱いが粗雑じゃない? 言葉遣いも荒くなったぞ」

「先生の態度が原因ですよ。それに、フォルは畏まった言葉が理解出来ないんです、公式の場ではちゃーんとやりますよ」

自分が肩を竦める仕草をすると、何故か先生は口元に笑みを浮かべる。

お気に障った訳ではなさそうだ。

「で、原理だけど、腕に流れる魔力に意識を集中して肉体を変質させるんだ」

また魔力の流れか……そんな物が本当に分かるのか? 魔術に長けたフッフールさんですら知覚出来ないというのに。

フォルが握ったり開いたりを繰り返しながら、その手を見つめた。

「そうですね、わたしも魔力を込めたら出来ました」

フォルはさも当然とばかりに、とんでもない事を口走った。

「君にも分かるのか! どうやって? いつ覚えた⁉」

思わずフォルに詰め寄ると、彼女は狼狽して苦笑いを浮かべた。

「先生がやったのを、見よう見真似でやったら……出来ちゃった……」

事も無げに話すフォルに、自分は僅かなら混乱する。

「先生~、もう戻してもいいですか? なんか喋りにくいです」

フォルは顎をさすりながら、違和感を訴えた。

「そういう欠点もあるか、イヌの顎は左右には動かんからな」

目の前で繰り広げられている光景は明らかに異常なのに、先生とフォルは、当たり前のようにやり取りしている。

まるで、二人が正常で、おかしいのは自分の方なのでは? と錯覚してしまう……。

この場所では、常識は通用しないのか?

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