ドッグラン13
わたしは、接近する魔物を目視で確認した。
見えるのは全部で三体。
身長は一米程度、人型の魔物だ。
小柄だが人の子供と違い、胴体や手足は短いのに対し、頭部は大きい。
頭髪はほとんど生えておらず、瞳は蛇のソレと似ていて生気を感じない、冷たい感じがする。
大きな鼻と、少し尖った耳、肌の色は茶色がかった灰色をしていて、背景に紛れて視認しにくい。
腰には何かの動物の皮で作られた、腰巻きを身に付けている。
手には武器、石を割って作ったナイフの様だ、握る部分に動物の皮が巻かれている。
そこからは体臭とは違う別の臭い……多分、毒だ。
方向十一時二一米、一二時二〇米、二時一七米で足を止めて身構えている。
九時半から一〇時二五米ほどに三体、三時二〇米に二体、山肌の地形の隆起に隠れて移動中……足音を忍ばせているが、わたしの耳にはしっかりと聞こえてるぞ!
全部で八体……わたしはそれらを捕捉し、頭の中で空から見た状態をイメージする。
隠れて移動していたヤツ等が動きを止めた……配置が完了した様だ、なら……。
わたしは、悪鬼共が仕掛けて来る前に動く、ヤツ等の狙いは……挟み撃ち!
姿を正面から見せて注意を引き、左右から奇襲を仕掛ける、っと。
わたしは地面を蹴り、左舷に駆け出す。
狙いは一番左のヤツ、わたしは左のナイフを悪鬼の胸部に突き立てる。
先生から教わった人体の急所、人型は狙いやすい!
心臓の位置をつら抜き、ナイフを引き抜くと同時に、右手のソレを逆手に持ち替えた。
右側の悪鬼に向かって切り付けるが、浅い、ヤツがわたしに驚いて尻餅を付いた為だ、運のいいヤツ!
正面と右舷にいたヤツ等の接近を察知、わたしは追撃を止めて正面にある木に向かって飛び、幹を蹴った。
バク転した状態ですれ違い様に刃を立てる。
肩に掠った、これも浅い……まあいい、この攻撃はついでだ。
わたしの着地地点に、悪鬼共はわらわらとこちらに向かってくる。
ヤツ等の中央に走り込み、すれ違いざまに正面のヤツの首を狙う。
「これで二つ!」
ナイフの握りから、その喉笛を確実に切り裂いた感触が伝わって来た。
左側から飛び掛かってきた悪鬼を回し蹴りで退けると、囲ませない様に横に飛ぶが。
先回りされた!
飛ぶ方向を予想して来た、寸前でかわして肘をその背中に叩き込む。
その隙を付かれ、わたしの周囲を取り囲んで石ナイフで切り掛って来た。
それらの攻撃を捌くが、背後から飛び掛かって来た悪鬼がかわし切れない。
「クッ!」
いるのは分かっていたのに反応が追い付かなかった。
石ナイフの、毒の刃が迫る……。
食らう直前、ソイツは鈍い音と共に猛烈な勢いで吹き飛んだ!
なにかが飛んで来た? ヤツの頭には鉄の棒が突き刺さっている。
飛んできた方向にに目を向けると、木の上の先生が腕を振り上げていた。
投げ剣っていう奴か、先生は本当にいろんな事が出来るんだな。
いいな、あれ、後で教えてもらおう!
一体減ったが、だからといって囲いがなかなか破れない。
コイツ等、連携がうまい……人型の特徴の一つか。
このままではじり貧だ、どうする、どうする? どうする!
頭の後ろ、うなじのアタリがぞわっとした、そのまま、肩から背中にかけて鳥肌が立つ感覚。
ああ……アレが来たんだ。
わたしは自分の体の中に、何かが目を覚ますのを感じた。
アレは目を覚ますと、そのままわたしの体を支配する。
この感じ、なんだか無性に可笑しい、可笑しくて顔が緩んでしまう。
わたしは今……嗤っている。
ちょうど今、飛び込んできた悪鬼、すれすれでかわすとその顔面をワシ掴みにして、木の幹に叩きつけた。
頭骸骨が砕ける感触が手の平から伝わってくる、握っていたナイフは落としてしまったが、おかげで左手は自由になった。
背後から気配が迫る、わたしは振り向きざまにソイツの喉笛に食らい付くと、そのまま全身を振って食い千切った。
不味い! わたしは口から肉を吐き出す、匂いも最悪だ、だけど。
気分は最高だ!
右手のナイフを鞘に戻し、わたしは残りを仕留め掛った。
数が減ったというのに、ヤツ等は逃げ出そうともせずに襲い掛かって来る。
いい! やはり魔物はそうでなくっちゃ!
切り掛って来る悪鬼の首の裏に牙を突き立て、顎に力を込め、そのまま骨を噛み砕く。
これで六つ! 次!
その時、背中寄りの右脇に熱が走った……。
悪鬼が私の体に石ナイフを突き刺していた。
痛みとは別の、ピリッとした感触が肌から伝わる、毒を受けた……。
上等!
毒が体に回る前に残りを仕留めてやる、わたしは刺して来たコイツの目に、お返しとばかりに指を突き刺し、その体を引っ張り上げ木に叩き付けてやった。
後方から悪鬼が飛び込んで来る、わたしはソイツを地面に引き倒すと、馬乗りになって顔面を殴り付けた。
殴る殴る殴る、動かなくなったがダメ押しで更に殴る!
殴ってる内に、体の自由が効かなくなってくる、どうやら毒が回ってきたようだ。
コイツが最後の一匹……。
わたしはそのまま体を放すと、仰向けに倒れ込んだ。
やった、一人でやり遂げたぞ! 八個、全部仕留めた。
先生が一匹仕留めたような……まあいいや、頼んでないし。
「そのザマなら、お前に襲われる心配はなさそうだな……」
呆れ顔で先生が、目を細めてわたしを見降ろす。
「問題点も露わになったな、獣の目をしている時は、注意力が散漫になる……」
先生は頭を掻きながら悪鬼の石ナイフを拾い上げると匂いを嗅いだ。
「こりゃ、カイルアマ蛇の毒だな、この混合毒は致死性は弱いけど、この辺りには生息して無いから血清も無いぞ」
死なない毒なのか、安心した。
先生はがっくりとうな垂れると、落としたナイフをわたしの鞘に納めた。
落としたナイフ、拾ってくれたんだ。
わたしは、麻痺した腕を強引に動かし、先生に向かって両手を広げ、にっこりと笑った。
「世話の焼ける弟子だぜ……」
先生はがっくりと肩を落とすと、わたしを抱きかかえてくれる。
先生の腕の中でホッとして緊張が解け、一気に全身の嫌な痺れに気付いて気分が悪くなる。
「魔物って瘴気から生まれるんでしたよね? 何処で石でナイフを作ったり毒を塗ったりって覚えるんですか?」
辛さを誤魔化す為に、先生に質問して気を紛らわせる。
「魔物は『情報』を持って生まれてくるからだ。例えば、動物は親から狩りを教えられるが、魔物は記憶を持って生まれて来る。そういうヤツ等なんだよ」
「ズルいです、わたしは……お勉強で苦労、してるのに……」
息が浅くなって来た、これはキツい……。
「……冒険者って、すごい……いつもあんな……相手にしてるんだ」
「一人で八体の悪鬼を相手にするバカは居ねーよ」
意識がもうろうとして、先生の言葉がよく聞き取れなかったけど、褒められてないだろう。
***
先生が玄関をくぐると、窓磨きをしていたフッフールが溜め息を付いて肩を落とした。
「今日も芋の皮剥きを手伝ってくれ……この内職は今日で最後にしよう」
先生がフッフールの告げると、呆れたように目を細め、わたしを見た。
「それが良いわね……」
フッフールが袖を巻くって厨房に向かう。
わたしの部屋の前に、マシィが腕を組んで仁王立ちしていた。
「また、毒ですか?」
「マシィ、今日は勝ったよ……悪鬼八匹仕留めた!」
力が入らない体でこぶしを振り上げ、笑顔で伝えたが……マシィは何やら難しい顔をしていた。
「一匹は、おれだ」
先生が呟くが、これは無視だ、わたし一人でもやれた。
わたしは自室で先生の治療を受けたが、ついでに免疫を付けろと言われた。
毒のせいで高熱が出て苦しめられた、わたしは達成感に包まれ、顔が緩んでしまっていた。
フィーンド、悪鬼は要はゴブリンです。
ゴブリン(小鬼)って名前だと味気ないので悪鬼としました。
元ネタはファイティングファンタジーです。




