ドッグラン11
自分としてはもう少し時間を潰したい所だが、ケーキを持って炎天下の中でそうもいかない。
中央広場の時計を見上げると、時間はとうに昼を過ぎていた。
神殿に向かうと転移陣を使って小屋に戻る事にした。
玄関前で躊躇するが、意を決してドアをくぐる。
厨房は壁で仕切られていない為、玄関からでも奥まで見渡せる、フォルは芋の皮剥きを終えた所のようで、厨房で片付けをしていた。
リビングのテーブルの、二型クラスの魔石が目に止まる。
しかも青色……乙種の魔物と遭遇したのか?
先生が持ち帰る事はままあったが……まさかフォルが仕留めた訳では無いよな……。
フォルがダイニングの自分の席に腰を下ろす、うむ、何故か気詰まりするな。
今朝は顔を合わせただけで、話はしなかった、4日前の口論の事、まだ憤っているのだろうか。
躊躇していても仕方が無いので、意を決してケーキの箱をフォルの前に置く。
「みやげだ、君はたまには、先生が作った物以外のも食べた方がいい」
理由に少し無理があるか? 素直に詫びだと話すべきだろうか。
だが杞憂だったようだ、フォルは箱を開けてケーキを目にした途端、興奮して尻尾を激しく振っている。
何事かと思ったのか、先生とフッフールさんがダイニングに姿を見せる、いや甘味に引き寄せられたか……。
「イチゴのショートケーキ、チョコレートケーキ、チーズケーキだ。城下で話題になっている店で買ってきた。っと、先生、フォルはチョコレートは平気なのですか?」
ケーキの説明をしている時、イヌにとってソレは毒である事を思い出した。
「当然だ、フォルはイヌじゃない。にしてもちょっと多くないか?」
「もちろん、全員分ですよ」
フォルの分だけでは、確実に先生とフッフールさんは不平を漏らす事が容易に想像出来る。
先生が箱を覗き込むと怪訝な表情をした。
「数がハンパだな」
当然だ、そもそもあなた達の為に購入した訳では無いのだから。
二人は自分達の取り分を察して睨み合いを始めた、案の定だ。
「自分はいりませんよ、フォルと、残りは二人で分けてください」
自分は甘味にそれほど関心が無い、不毛な争いに巻き込まれるのは御免だ。
だが先生は、睨むように強い視線を自分を向けて来た。
「それは道理が通らないだろ、君も一個食べろ」
結局揉めるのか、まったく……早く部屋に戻りたい。
「フォル、三個は多い、二個にしなさい」
フッフールさんがフォルに注意を促す、いや注意を装って、自分の取り分を増やす画策をして来た。
この人達は食べ物が絡むと……フォルの分だけにした方が良かったのかもしれない。
フッフールさんが皿を用意すると、それぞれのケーキを乗せてフォルの前に並べた。
目の前では、フォルがケーキを前に困惑している。
どうしてこうなったのだ? 自分は呆れ返ると、頬杖を付きフォルに視線を送る。
「一口ずつ食べて、気に入った物を選べばいい、残りを自分が貰おう」
フォルは驚いて目を丸くした。
「いいの? 食べかけだよ?」
「早く選ばないと、あの二人が戦闘を始めるぞ」
フォルもそれは避けたい筈だ、フォーク握ると意を決したようでケーキを口に運んだ。
フォルは目を大きく開き、うんうんと唸りながら尻尾を激しく振ったが、チーズケーキはお気に召さなかったようだ。
「自分はこれを頂こう」
その皿を手に取る、一口食べてみたが悪くない、甘過ぎないのがいい。
「チーズケーキが好きなの?」
フォルが首を傾げる、気の無い返事を返すと彼女は何故か嬉しそうに微笑んだ。
「ところでマシィ、首尾はどうだった?」
チョコレートケーキを食す先生に、自分は首に下げていたタグを取り出して見せた。
「ギルドに種別・魔術師で登録して来ました。今日から自分は冒険者です」
「マシィ、冒険者になったの! わたしには反対したのに? なんで、なんで⁉」
フォルが顔を近付けて来た。
驚きの面持ちに吹き出しそうになったが、そこは澄ましてみせる。
「やりたい事が出来た、その為に冒険者になっただけだ。自分はあくまでも学院の研究員だからな」
さすがに君の為だ……とは言えない。
「それより先生、あのジョーグという冒険者の青年、寄こしたのはあなたですよね?」
「顔は怖いが頼りになる人だぜ、ああ礼ならいらないよ、このケーキでチャラだ」
このお方は、悪びれもせずに……だが彼のおかげで事がスムーズに運んだのも事実だ。
「試験があるとは聞いていませんでしたよ」
少しは恨み言を言っても良いだろう、意識的に言葉に不平の音を込めて先生を責める。
「そんな事したのか? 見たかったねえ……結構沸いただろ?」
「おかげ様で。貴族なんて距離を置かれるでしょうからね」
「魔術師は貴重だ。君の実力なら、どこのパーティーも欲しがるだろ。男だしな」
なるほど、そういう面もあるのか。
同性でパーティーを組んだ方が、業務遂行に支障が少ない。
魔術師は女性の適性が多い、主神が女神なのでその恩恵とも言われているが、関連性までは不明だ。
一方戦闘職は男性が多い、これは身体強化術の使用に耐えうる肉体が必要で鍛錬がいる、女性では筋力の強化にに限界がある為である。
神殿の魔導師科も、それぞれの部隊は同性のみで構成されている。
そして神殿と冒険者の、魔術師の決定的な違い。
神殿魔術師は空く数人で魔術を行使するが、冒険者のパーティーでは単騎だ。
つまり冒険者の魔術師は一人で支援を行わなければならない。
結論として、編成上は同性で組むのが安定する、という訳だ。
とはいえ、自分は先生の助手としての業務と、賢者になる為の勉学もある。
冒険者としての業務は、臨時でとなるだろう。
それでもフォルが冒険者になる前に、スタンダードランクには昇格しておかないと都合が悪い。
まったく……やる事が多くて困る、フォルが来てから随分と忙しくなった物だ。
今回は「ドッグラン6」とクロスオーバしています。
現在は日、火、木、土の昼位のペースで投稿してます。




