ドッグラン10
自分が放ったこの術……フッフールさんのソレと比べると、威力が格段に落ちる。
聴衆は驚いているのだから、ここは素直に安堵する。
旋風。
この魔術の名だ、フッフールさんから伝授されたのだが、この術を考案したのは先生との事だ。
その原理は、石ころを核にして風を纏わせ、そこから空気で複数の刃を構成する。
複数の空気の刃を纏った石ころを高速回転させ、水平発射して目標に命中させる。
回転により弾道は安定し、命中時は高速回転する空気の刃が目標を切り裂きながら破壊する。
実に先生らしい、えげつない破壊をする魔術だ。
この術の習得には、困難を極めた。
風魔法に石を使用する、という事が理解出来なかったからだ。
石の属性は土だろう? 何故、風魔法でそれを使用するのか……。
理解が追い付かずに何度も失敗を重ね、フッフールさんの実践を幾度となく観察してようやく身に付けたのだ。
自分は杖を肩に担ぐと、ジョーグの元まで歩いて行く。
さてジョーグは……目を丸くして硬い表情で自分の顔を凝視してくる。
「お見事です、あなたの若さで、これほどの術が使えるとは」
いたく感心しているようで何よりだ、やはり見くびられていたか……。
自分は弱冠十五歳の若造だ、これほどの術が使えるとは思っていなかったのだろう。
ここは、駄目押ししておいた方がよさそうだ。
「ジョーグさん、木剣を持ってくれ」
そう彼に指示を出すと、自分は 二〇米程離れた位置に立った。
さすがにこれ位の距離は欲しいな。
「では、その木剣で打ち込んでくれ、遠慮は無用だ」
自分の言葉に、ジョーグは逡巡する。
対・魔術戦闘では、魔術師が剣士の接近を許したら負けだ。
常識的に考えて二〇米は近すぎる、ジョーグが困惑するも、その気になり木剣を構えた。
片手剣か、この距離なら接近と攻撃まで三秒弱。
ジョーグが踏み切るのを確認すると、呪文の詠唱を始める。
「畏き翠、かげろいて、惑え」
短くて単純な詠唱だ、唱え終えるまで二秒弱と言った所か、かなり余裕がある。
ジョーグが疾走し、剣を振り被った状態で自分の元に接近する。
剣を水平に振り、命中! ……したかのように見えたであろう、が、刃は宙を切った。
自分はジョーグの背後に回り込むと、杖の柄でその背中を打ちバランスを崩した所に杖で足を掛けて転倒させる。
彼は慌てて立ち上がろうとするが、振り返ったその顔の前に杖の先を突き付けた。
「これは……驚きました」
ジョーグは何が起きたのか理解出来ない、そんな顔をしていた……してやったりだ。
「自分の周囲の空気に、屈折率を操作して視界を混乱させたのだ。この術の利点は効果が単純な為、素早く行使出来る」
魔術の発動には、詠唱に念を込める必要がある。
早口に唱えても、念を込めきれなければ効果が薄い。
簡単な術ほど素早く発動出来るが、効果が希薄になる、故に高度な魔術ほど詠唱は長くなり、時間が掛かる。
これが戦闘時で魔術師が支援要員になる所以だ。
視覚誤認。
この魔術は只の目くらましだ、原理が単純な為、素早く発動出来る。
が、ここまで簡略化出来たのはフッフールさんの指導の賜物だ。
あの人は言葉が足りないから、これも理解するのに苦労したが。
これも効果的に発揮できたであろう。
後方からの支援を常とする魔術師が、剣士の接近を許した状況で対処して見せる。
これは見世物としては上出来だろう。
「すげえじゃねえか、学者サンよお!」
「若いのに、なんでそんな強えんだ?」
「ばか、相手はお貴族様だぞ、丁寧に話せ」
興奮気味の観衆が自分を取り囲むと口々に誉め立たえる、この状況に逡巡したが……効果は上々のようだ。
これなら、彼らに受け入れて貰えるだろう、自分は胸を撫でおろした。
***
その後は冒険者ギルドでの手続きを済ませ、少し早いが昼食を取る事にした。
冒険者の行き付けの飲食店、ベイオルフ亭……以前に先生が未亡人に言い寄り、振られた挙句弄ばれて、店主に外套を没収された店だ。
注文したポトフが運ばれて来る、材料に使われている芋はフォルが剥いた物か?
いや、彼女は昨日までベッド臥せっていたのだった。
だというのに、今日も境界線に向かったのだった。
何事も無く、無事に戻ってくれれば良いが……。
そういえば、五日前にフォルを怒らせたままだったな。
自分の主張は間違っていないが……フォルは女性だ、ここは謝罪しておくべきだな。
先生は女性を口説くコツは、楽しい話題とマメさと喜ばせるプレゼントなどと言っていたが……こっち方面は全く信用出来ん。
とりあえず店主から聞き出した、今話題になっている甘味の店に向かう事にした。
ほどなく到着したが……店の前には列が出来ている。
なるほど、なかなか流行っているようだな、この行列は。
暫くして自分の番が回ってくると、多種多様な菓子が目に止まった。
とりあえず、先生が作られていない菓子を選ぶ事にした。
自分は甘味はあまり得意では無いので、人気がある物を店員に見繕ってもらう。
甘党の先生と食欲旺盛なフッフールさんがいるから三種類を二つずつ……。
なんと、これ一つが二五〇ディールもするのか……こんなにも高価な菓子を買う為に、これほどの行列が出来るのか?
甘味とはそれほど魅惑的な物なのか、自分にはさっぱり理解出来ない。
こんな物で、フォルは許ししてくれるだろうか……。
これほどまでに人々に親しまれているのだ、恐らく大丈夫だろう。
そう自分に言い聞かせはしたが、少し足が重い感じがした。
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