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大賢者は何もしない ~面倒事は弟子と助手に任せる~  作者: エビテン


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ドッグラン9

自分が神殿から戻った翌日の朝、フォルは朝食の席に付いていた。

昨日はフッフールさんがフォルの部屋に食事を運んでいた為、彼女と顔を合わせるのは実に四日振りとなる。

フォルの顔は真っ青で、無理やり食事を胃に詰めている様子だった。

服装は負傷したあの初陣の日と同じ、シャツに半ズボン、それと背嚢が用意されている。

また境界線に赴くのか……先生の性格からして、強要したとは思えない。

緊張した面持ちで、少し涙ぐんでいるようにも見える……恐ろしいのだろう、それでも君は行くのか……。

獣人は強靭だが、まだ一二歳の少女には過酷だ。

誰も一言も言葉を口にしない静かな朝食を終えると、先生とフォルは境界線に向かった。

さて……。

自分も転移陣起動用の魔石を片手に、城下の冒険者ギルドに向かう。

今日は暑くなりそうだ、だというのに学院の青のローブに袖を通さなければならないのが煩わしい。


***


冒険者ギルドの受付にて、神殿のローブと大賢者様の紹介状は効果的に働いた。

待たされる事も無く即座に対応され、責任者の元に案内される運びとなる。

他の来客等の不満の声が聞こえて来る、自分としては順番待ちで待機してても問題は無かったのだが……申し訳ない事をしたか。

応接間に通されると神経質そうだが体格の良い男性に出迎えられた、年の頃は四〇代と言ったところか。

先生には敬意を払えと言われたが、立場上自分から名乗る訳にはいかない。

「グランディル冒険者ギルドにてギルド長をしておりますビノー・ゲアと申します」

男性、ビノー氏は胸に手を当てて会釈をした。

通常、平民は名前のみだが、市民階級は家名を持つ事が許されている。

紹介状を手渡す前に自分の身分を察したようだ、市民なのだから貴族とも交流が有るのだろう。

「自分は、大賢者の助手、中央神殿、学院所属、研究生、ライルラック侯爵家、三子ルースの四子、マシィと申す」

こちらも丁寧に返す事で敬意を示すと、先生からの紹介状を手渡した。

勧められた長椅子に腰を下ろすと、対面に掛けたギルド長は先生の紹介状に目を通す。

「研究目的の実地調査……ですか。クラスは魔術師での登録を希望」

ギルド長は顎を手で触れながら読み進めていく、フォルの事は触れられていないようだ。

自分の口からも説明すべきかと思い、口を開く。

「貴族であるのなら普通、王級や神殿の魔術師科に所属するものだが、自分はすでに中央神殿、学院所属の研究員だ。そういった理由から冒険者を希望した」

ギルド長は眉間に皺を寄せている、向けられている視線からは歓迎されていないのが見て取れた。

安心をさせた方が良さそうだなと、言葉を続ける。

「無論、冒険者の一人としての扱いで構わない。自分もギルドの一員として人力するつもりだ、当然だがビギナーランクから始めさせて貰う」

貴族の道楽と思われているのだろ、だがあなはと間違いでも無い……。

その時、ドアからノックの音が聞こえる。

「ジョーグです」

ノックの主の名乗りにギルド長が反応する。

「いいタイミングだな……マシィ様に紹介したいのですが、宜しいでしょうか?」

自分が首を縦に振ると、ギルド長は「入れ」と呼び掛けた。

大柄で精悍な男が、ドアを開いた。

年は二〇代前半位か、手入れのされていない黒髪と厳つい顔つきで粗野な印象を覚えるが、身なりは整えられている。

ギルド長が彼をテーブルの前に招き、立ち上がってその横に並ぶ。

「ご紹介します、倅のジョーグです」

大柄な男、ジョーグは膝を付くと胸に手を当てて(こうべ)を垂れた。

「グランディル冒険者ギルド所属、エキスパートランクのジョーグ・ゲアと申します」

所作もしっかりしているな、自分は立ち上がると、ジョーグに体を向けて姿勢を正した。

「マシィ・ライルラックと申す。自分は冒険者を希望してここに参っている、かしこまった振る舞いは無用に願いたい」

自分がそう言うと、ジョーグは立ち上がって会釈をして、ギルド長と共に自分の向かい側に腰を下ろす。

「私は熟練者で、当ギルドのいわば纏め役を担っております、お困りの事がありましたら頼ってください」

ジョーグの口調は控え目だが、なかなか……その姿勢とは裏腹に、目が挑戦的だ。

その後は、ギルド長から職務内容と細々とした注意事項を説明される。

自分も立場上、大賢者の助手としての仕事の合間にのみの活動と伝えておく。

「クラスは魔術師でしたね。それでは、あなたの実力をお見せください、杖をお忘れなく」

ジョーグは立ち上がるとドアを開き、その強面で自分に視線を向ける。

実力とは……何をするのだ?

ジョーグに促され、建物の裏口から出て暫し歩くと、水路前の石壁に囲まれた広場に案内された。

鍛錬を行っている者もちらほら見かける、どうやら訓練場のようだが。

なるほど、試験という訳か……。

「神殿の学者が何かするらしいぞ」

鍛錬に励んでいた者達が興味を示したのか、観客として集まって来た、まったく……学院の青いローブは良く目立つ。

意図せず、神殿を背負ってしまった……無様な姿は見せられない。

ジョーグは石壁の前に木人形を設置する、恐らく標的だろう。

「では、お願いします」

自分は魔術師として登録する予定だ、つまり魔術で撃ち抜けと……。

自分は木人形に背を向けて歩き出し、反対側の壁に付いたところで向き直る。

木人形までの距離は八〇(メートル)程か。

「おいおい、遠すぎるだろ」

観衆が騒めく。

確かに飛距離だけなら伸ばすことは可能だが、遠距離で殺傷力を維持したまま、正確に命中させるのは高い技術がいる。

「さて」

自分は手頃な石を拾い、左の手の平に乗せると前に掲げ、右手の杖を傾ける。

「清浄せしむる(かしこ)(みどり) (つぶて)(まと)め」

手の平の石が浮かび上がり、回転を始める。

「物打ち、あまたに調(ちょう)ぜよ、(いた)(めぐ)れ」

石は手の平から完全に離れると腕を下ろす、そのまま高速で回転する。

「向え!」

石は高速で飛翔すると、吸い込まれるかの様に木人形に命中する。

轟音と共に空気が震え、木人形は粉々になって消し飛んだ。

先ほど迄、騒がしかった観衆はすっかり静まり返っていた。

「風魔術だろ? なんて破壊力なんだ、しかも何だよ、あの速度……」

「あの距離から正確に当てただと、呪文の詠唱も早かったよな……」

観衆の反応からして、神殿の面目は保てたと見て良さそうだ。

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