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大賢者は何もしない ~面倒事は弟子と助手に任せる~  作者: エビテン


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ドッグラン7

フォルには冒険者は無理だろうというのが、自分の見解である。

ここ、グランディル公国は、東の神殿のお膝元だ。

女神信仰が深く根付いており、獣人に対する忌避感が強い土地柄なのだ。

冒険者はパーティーと呼ばれる複数人での集団を作り依頼をこなすのが基本、獣人のフォルが歓迎されることは無いだろう。

単独で依頼をこなす者もいると聞くが、ここは境界線付近の最前線で危険地域である為、パーティを編成して事に当たるのが原則である。

また、グランディル冒険者ギルドでは、生存率を上げる為に新人は熟練者とパーティーを組むことが義務付けられている。

そして冒険者の職務には町の巡回が有る、これは内務治安を請け負っている騎士団の補佐だ。

つまり騎士団との連携も必要となる。

この国では騎士団は神殿の管轄、獣人のフォルにとっては針の筵と言える。

自分が危惧しているのはフォルの扱いについてだけでは無い、その気性にもある。

彼女は普段は温厚だが、それだけに感情が爆発した時の事を考えてしまう。

武術を習得したフォルがもし……と考えてしまう。

フォル冒険者になりたいと言った時、懸念事項が多すぎる事に気付かされた。

そしてフォルの初陣。

先生と境界線に入り魔物と戦闘により負傷……。

結果は散々な有様だ、大怪我をして毒まで受け、気を失った状態で先生に抱き抱えられての帰還だった。

フォルの治療後、洗面所で手を流す先生は、暗い目をして自分の落ち度だと反省をしていた。

刹那の出来事だったらしく、木の根に(つまず)いて転倒し、そのまま魔物に襲い掛かられたという。

その日の夜は、毒の苦しみに呻くフォルの声でなかなか寝付けなかった。

これで、冒険者に道を諦めるだろうか?

恐らく否だ、フォルは向上心が高い、今回の失敗も乗り越えるだろう。

翌日、先生はお一人で山歩きに出られた、戻られた後はフォルの代わりにフッフールさんと芋の皮剥きをされた後、自分が準備する書斎に入ってこられた。

「何か言いたい事はあるか?」

自分の浮かない顔を見て、開口一番そうおっしゃられたのだろう。

だが自分は、フォルの負傷は事故だったと納得している、先生を攻めるつもりは無い。

「質問、が有ります」

「お手柔らかに頼むぜ」

「女神の呪いについて、どう思われますか? 先生は以前、獣人は存在そのものが魔術だとおっしゃいました、呪いで魔術が使えないという話と矛盾しています」

先生がコーヒーを入れて下さり、それを自分に差し出しながら口を開く。

「君の心象がすべてだ、フォルと共に暮して、人となりを知り、そこから獣人を眺めてもまだ、彼らに対する忌避感は残っている、違うか?」

その通りだ、自分はどうにもならない感情を先生にゆだねようとしている……卑怯だ、だが……。

「自分は、どうすればよろしいのでしょう……」

「君はどうなりたい?」

お答えは頂けないらしい……この方は大賢者である己の言葉は枷になると認識している。

「なあマシィ、無理に変わる必要があるのか?」

先生はコーヒーに砂糖をスプーン三杯入れ、口に含む。

「そもそも、女神って何者なんだろうな、君達は会った事も無い女神を崇め、すがっている」

「統馭の女神は人類の救済者で、あなたはその使者です」

「おれは、女神と話した事はもちろん、会った事も無い……だが、使者である事も否定しきれない……」

……そうだ、何故この方は女神の使者と呼ばれているのだ?

神殿ではそのを疑う者はいない、まず大賢者女神の使者という前提がある。

いや、そういう物なのだ、先生が否定しない以上回答なんて出ない、考えても無駄という事だ

「結局、人なんて信じたいものしか受け入れない、けど悪い事ばかりじゃ無いさ。君も神殿の研究生なら良く知ってる事だろ、それに」

先生はじッとコーヒーを見る。

「女神の呪いなんて物が存在するなら、おれもそれを受けているよ」

先生は神妙な面持ちでコーヒーを飲み干すと、そっと皿に置いた。

自分は先生の机に歩み寄り、サーバーを手に取ると先生のカップにコーヒーを注いだ。

「フォルは冒険者になると思います、先生は彼女に何かをしてあげますか?」

先生は渋い顔をして頭を掻く。

「どうしろって言うんだよ、まさか冒険者ギルドに大賢者の威光でフォルを特別扱いしろって圧力を掛けろと?」

「あなたなら可能なはずです」

「無茶言うなよ、道理ってもんがあるだろ」

「フォルが、まともに扱われることは無いでしょう。それに……戦う力を身に付けた彼女がギルドに不満を持って逆上でもしたら……」

自分は、騎士団長が来訪した日のフォルの事を思い出していた。

憎悪を剥き出しにして睨み付け、自分に襲い掛かろうとした、あの時の激高ぶりは。

フッフールさんが抑え付けなかったら……。

自分は息を吐くと、意を決して打ち明ける。

「自分は冒険者になります。それで侯爵家と神殿の威光でギルドに内側から圧力を掛けます」

先生は驚いて目を丸くした。

「待て、待て、それは飛躍が過ぎるだろ! まずフォルは、獣人以前に君にとっては赤の他人だ、何故そこまでする?」

自分は先生の目を真っ直ぐに見据えながら、軽く顎を引く。

「自分は獣人を中心に研究する事を決めました、準賢者試験の論文はソレにするつもりです」

先生は肘を付いて額に手の平を当てた。

「地下書庫で古い文献をあさってたみたいだけど、一時の気の迷いでは無いのかい?」

自分は言葉を発さず、先生をじっと見つめる。

「決意は固いようだな……分かった、ギルド長に紹介状を書くよ。彼は平民だが叩き上げの元冒険者で市民階級だ。立場は侯爵家の君の方が上だが、敬意は払ってやってくれ」

「もちろんです、自分はそこでは冒険者の一人にすぎません」

「あと、リーブ導師にも許可を取りなよ、なんかおれが怒られそうだなあ……」

現在は日、火、木、土の昼位のペースで投稿してます。

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