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大賢者は何もしない ~面倒事は弟子と助手に任せる~  作者: エビテン


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ドッグラン1

新章スタートです。

自分は、外が騒がしくなったの事で、先生が山歩きから戻られた事に気付く。

今は昼過ぎ、昼食は作り置きで済ませた。

いつもならこの後、翻訳作業に入るのだが、今日は先生がフォルに武術指南をする予定だ。

先生、大賢者がフォル、獣人に何を教えるのか興味がある。

自分はハンガーに掛けてある青いローブを掴むが、不要に思い手を離す。

常にローブを身に纏う、その行為が滑稽に感じられたからだ。

早足で外に出ると、すでに訓練は始まっている様だ。

フォルが緊張した面落ちで体の前に手を組み、向かい側の先生を見つめて行った。

先生は、そんなフォルを面白がるように眺める。

「よし、フォル……好きなように打ち込んで来い。お前の身体能力が見たい」

「え、でも……」

「いいから、打って来い」

フォルは戸惑いがちに、こぶしを固めて先生に突きを入れる。

腰が引けていて、いわゆる『手打ち』という奴になっている。

先生は手の平でそれを受けるが、目を細めて少し呆れた様な表情をしている。

「なんだ……人を殴ったことが無いのか?」

「ありません!」

フォルは強く否定する、彼女の控え目な性格で暴力とは無縁だったのだろう。

「体重をこぶしに乗せる様、意識してみろ」

先生の言葉にフォルは少し考えるしぐさをすると、再び突きを繰り出す。

「いいぞ、踏み込みながら打て」

先生の手の平から良い音が響く、今度は先ほどよりも様になっている。

二発、三発……響く音から打撃に重さが増していくのが分かる。

と、フォルは手を止め、腕を下げて腰を振り始めた。

「たしか。こう……」

呟きながら体を揺らし足首を回転させていると、回し蹴りを放った。

先生が騎士との立ち合いで使った物を、試しに真似てみたのか?

中々様になっていると感心した、本当に初めてなのか?

「やるじゃないか!」

先生は楽しそうな声を上げ、笑みを浮かべてながら、フォルの攻撃を受け止める。

フォルは突きと蹴りを連打する、その連携には拙さが見て取れるが、初めてでこれだけ動けるとは……これも獣人の身体能力の賜物のなのか?

「少し待ってろ」

先生は小走り小屋に向かうと、玄関脇に用意していた袋からグローブを取り出す。

確か拳闘で使用するものだ、中央神殿の騎士団が訓練で使っているのを見た事がある。

先生がそれを身に付けると腰を落とし、来いと言いわんばかりにこぶしを胸元に構える。

再びフォルが打ち、先生が受け止める。

先ほどと違い、先生はグローブで防御をする様になった。

フォルから放たれる蹴りも、グローブで叩き落とす。

フォルの動きが洗練されてゆく……だが、それに合わせて先生が突きを出した。

接近を試みるフォルを、グローブで阻止する様に迎え撃つ。

優しく叩いている様子でダメージは無なそうだが、フォルの顔には戸惑いが色が浮かんだ。

フォルが再び踏み込むも、先生が突きで牽制。

怯んで下がるフォルに、先生が撫でる様な軽い回し蹴りを放つ。

先生が動く様になると、フォルの攻撃はまったく当たらなくなり、明らかに当惑している。

先生の攻撃はダメージを与えるのでは無く、動きを封じるのが目的の様だ。

「どうしたフォル、足が止まってるぜ!」

フォルは距離を置いて一呼吸置き、再び先生との距離を詰めた。

勢いに任せて右手で突きを入れる、動きが大きい、簡単にかわされる。

近距離から先生は連続で突きを入れ、怯んだフォルは後ずさって距離を置いた。

フォルが力強く地面を蹴り、距離を詰める、と勢いが付いた状態のまま、先生の突きがその顔面に命中した!

マトモに入った……フォルがよろめきながら後退し、足を止めると腰がガクっと落ちる。

目の焦点が定まってい無い、ダメージが残っている、にもかかわらずフォルは再度、先生の元に駆け込む。

先生は接近に合わせて突きで動きを止め、左脇腹にこぶしを叩き込んだ。

「ガはぁっ!」

口から大量の唾液を垂らしフォルが膝を付く、先生は数歩後退する。

フォルはよろめきながらも腹部を押さえながら立ち上がる、明らかにダメージが残っている、なのに腰を落として踏み込む準備をした……。

これは、止めるべきか?

だが、先生から仕掛ける事は無く、待ちの姿勢だ。

先生は動かない、ではフォルを止めるのか? そもそも何故、彼女は止めないんだ? 

フォルは顎を引くと、脇を絞めた……なんだかフォルの感じが変わった様な……。

フォルは駆け出す事はせず、先生の元に擦り足でにじり寄る。

距離が少しずつ詰まる……射程距離に入った、先生が踏み込みながら突きを入れる、だが……。

……外れた⁉

先生はそのまま後方に飛ぶと、フォルに体重が乗った回し蹴りを叩き込む!

激しく飛ばされるフォル、そのまま地面に倒れ動かなくなった。

何が起きた? 自分は慌ててフォルに駆け寄ると、彼女は完全に失神していた。

「相手は素人ですよ、何をやってるんですか!」

声を荒げて抗議するも先生は目を細め、呆然とした様子で立ちすくんでいる。

「まいったな、コイツ天才だわ……」


***


フォルを部屋に運び込むと、ベッドに降ろしてフッフールさんに後をお願いし、先生の元に赴いた。

先生はリビングのソファーに腰を下ろし、何やら考え込んでいる様子だった。

「先生、先ほどのアレはやり過ぎでは?」

先生はゆっくり顔を上げると自分をジッと見返してくる。

「マシィ、おれは……とんでもない拾い物をしたのかもしれない」

「天才、ですか? 確かに初めてにしてはキレイな回し蹴りでしたね」

「そこじゃねえよ、あの程度は運動神経のいい奴なら、ちょっと教えれば出来るもんだ」

違うのか、それでは先生は何に驚愕しておいでなのだ?

「説明して頂けますか? フォルを思いっきり蹴り飛ばした、納得できる理由を」

先生に対して失礼な物言いと理解しつつも、強い口調になってしまうのを押さえられなかった。

「口で説明するのが難しいんだよな……そうだマシィ、こぶしを構えてみてくれ」

「自分はシロウトですよ」

「いいから」

自分は騎士団の訓練で見た、拳闘の様子を思い浮かべて構えてみる。

「それで何発か突きを打ってみてくれ」

言われた通りに右こぶしで何発か突きを放つ……あれ、構えが逆か?

右側を前にして突きを打ったが、確か利き腕の反対、左側を前にするのだったか?

どっちだったかな……と考えていると、先生が自分が構えている右こぶしに、そっと手の平を軽く当てる。

「そのまま、好きなタイミングで打ってみろ」

何をなさろうというのだ? 先生の心意が理解出来ない、おっしゃられた通りに少し間を置いて、適当なタイミングでこぶしを突き出した。

……!

自分が突きを打つと、先生の手の平が同じ速度で下がった、軽く触れている感覚はそのままにで、押すような圧はまるで感じられなかった。

先生が手の平を、自分の突きと同じタイミングと速度で下げた?

「もう一回、宜しいでしょうか?」

今度はすぐに突きを出す、が先生はまたもや同じ動作をする。

もう一回、今度は溜めて、ここ! かなり間を置いて打ったのに同じ結果になった。

「武術を長くやってるとな、熟練すると、なんとなくだが相手が攻撃を仕掛けてくるタイミングが勘で分かるようになるんだ」

「勘、ですか?」

驚きと動揺が隠せない、先生は腕を組むと軽くうなずく。

「直感とは違う、相手の動きや癖を読むでも無く、実践や訓練、そこから得られた経験に基づいた間とか感覚の様な物というか……」

武芸者の勘、危険な武器を手にし、命のやり取りの中から得た、自身の命をつなぐ為に磨かれた技術……という事か。

「それを……やって見せたんだ、人を殴った事も無いアイツが」

何かが起こっていたのか、フォルの感じが変わった、あの時に。

「先生の突きが外れた、あの時ですか?」

「君にはそう見えたのか、あれは外れたんじゃない、かわされたんだ」

先生は軽く息を吐くと、遠くを見るように目を細めた。

「そして、あの時のフォルの顔だ、おれは身の危険を感じて、反射的に反撃をしてしまった」

そういえばあの時、フォルの感じが変わった時……彼女は、笑っていた。

これまで、ずっと張りつめていたのだろう、フォルが笑っているところなど見た事が無かった。

自分が見た、そんなフォルの初めての笑顔。

だがその顔は、見る者が戦慄を覚える、そんな(わら)い顔だった。

「フォルはあの短い間に、おれに『可能性』を見せたんだ。マシィ、おれは決めたぜ、最初は身を守れる程度でいいかと思ってたんだが、アイツを徹底的に鍛えてみるよ」

現在は日、火、木、土の昼位のペースで投稿してます。

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