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大賢者は何もしない ~面倒事は弟子と助手に任せる~  作者: エビテン


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子犬のワルツ7

「さっさと立ちな、続きと行こうぜ!」

大賢者様が挑発的に促すと、騎士は顔を引き締め、何事も無かったかの様に立ち上がった。

防具に守られたようで、先ほどの大賢者様の打撃によるダメージは、ほとんど無い様子だ。

(メートル)の距離を挟み、二人は再び対峙する。

それにしても、その対格差たるや……。

騎士の身長は二(メートル)は有るだろうか?

体重は優に一〇〇(キロ)を超えるであろう、その鍛えられた肉体は全てのパーツが太く、実際よりも大きく感じられた。

一方、大賢者様の身長は一六〇(サンチ)にも満たない、体重も五〇(キロ)以下……騎士の半分以下だ。

一般的に騎士や冒険者は、彼らよりも遥に上回る大きさの魔物と戦うので、対格差は関係しないとされている。

だが対人戦闘では話が変わる、人同士では条件が同等だからだ。

体重が無いと重い武器は振り回せない、身体強化はソレに耐えられる鍛えられた肉体が必要だ。

ゆえに対格差は直接、優劣に影響する。

騎士が剣を構える、両肘を曲げ刃が顔の脇に来るくらいの位置で剣先をやや前方に向け、腰を落として対戦相手を見据える。

中央神殿の訓練場で見た事がある、両手剣を装備する騎士の一般的な構えだ。

だが騎士は動かない、真剣での立ち合いは非常に危険だ。

やはり躊躇しているのだろう。

「なんだ、にらめっこか? しょうがねえなあ……」

大賢者様は呆れたように呟くと、棒の先端を騎士の剣先に当てる。

「そ~ら、バインドだぜ、どうする?」

バインドとは剣技の一つで、その技は多様に渡る。

一般的には刃同士を触れさせ、カウンターで相手の攻撃を退けつつ「後の先」でその刃を巻き込み、致命打を与える技術だ。

大賢者様の嘲る様な口調と態度に、騎士は目を剥き怒りを露わにした……と思った瞬間、剣先で棒を巻き込み、大きな(つば)に噛ませると、その刃先を大賢者様の胸元に滑り込ませた!

その動きに合わせ、大賢者様は体を翻して低い体勢から踏み出し、右肩の裏で体当たりを決める。

騎士が勢い良く転倒した、あの対格差で? と驚いたが足を引掛けた状態で体当たりをした様だ。

今度は体術! 今回も鍛錬を感じさせる体捌き……大賢者様の引き出しは幾つあるのだ?

騎士は転がった勢いで体を起こし、そのまま距離を取った。

大賢者様は棒を握り直し、先ほどの構えを取ると腰を落とす。

「心配すんな、騎士風情の猿剣法(マシラけんぽう)なんざ当たりはしねえよ、そんなノロマじゃねェ!」

大賢者様は下卑た笑みを浮かべ、一気に騎士との距離を詰め、肉薄する。

そこから牽制で、騎士の脇腹、頭に連続で前蹴りを繰り出し、相手が怯んだ隙に回し蹴りを左側頭部に命中させる。

騎士は後方に引きながら、剣を水平に振った。

大賢者様が棒の先で受けると当時に、騎士は剣の刃先を滑らせ、カウンターでそのまま胸元を狙う。

が、大賢者様は体を移してソレを避けた!

騎士が剣を戻すように振り上げようとするが、棒で下段受けで弾く。

その流れで逆側の棒先で脇腹を打つ。

大賢者様は間髪入れず、左手を順手から逆手に持ち替えて、突きを連打した。

「ガハ!」

攻撃がまともに入り、騎士はたまらずと言わんばかりに距離を取った。

大賢者様は棒をバトンの様に回転させると、不敵な笑みを浮かべ、得意げな顔をした。

「基本に忠実すぎなんだよ……稽古してるんじゃねえんだ! 動きが見え見えなんだ!」

大賢者様が飛び込む、騎士が剣を斜めに振り下ろす、一気に距離を……詰めずに足を止めて空振りを誘い、棒を端いっぱいに持ち、長さを生かした突きを繰り出す。

命中! 追撃をかける、騎士は連続して斬撃を繰り出すも全て棒先で受け流され、同時にカウンターを打たれる。

騎士はそのカウンターを剣で防御するも、捌き切れずに何発かは食らっている。

激しい打ち合い……大賢者様が優勢だ。

自分は目を疑った、神殿の団長クラスの騎士が、小柄な大賢者様に押されている!

「術中に嵌まっているわね」

フッフールさんが呟く。

「あの騎士は力み過ぎ、アイツの挑発に惑わされて、大振りが目立つ」

「騎士殿は実力が出せていないと?」

フッフールさんに問うと、腰に手を当て、頷いて見せた。

「アイツは騎士の剣術を熟知しているのに対して、騎士はアイツの棒術を見るのは初めて」

なるほど、彼が今までに遭遇をして来た棒を武器にする相手など、暴漢か人型の魔物位だろう。

ソレ等が振り回す棒など、武術の洗練された動きとは程遠いはずだ。

しかも大賢者様のソレは熟練度の高さが見て取れる、更に体術も絡め、動きがトリッキーだ。

「再戦したら、アイツの方が多分負ける」

「対策されたら勝ち目が無い、という事ですか」

フッフールさんは、溜め息で自分の言葉を肯定する。

「刃物の武器が嫌いなアイツにとって、棒術は最も得意とする武術、しかもモップの柄と思わせて騎士を惑わせてるのよ」

フッフールさんは肩をすくめる。

「女の子の前だからっていい所を見せたいのよ……ホントにアイツは、卑怯でズルい」

そう呆れたように語る、フッフールさんの顔は……。

眩しい物を見るかのように目を細め、その口元には微笑みを浮かべている。

普段の無表情なフッフールさんからは想像も出来ない、優しく暖かな眼差しだ。

女の子にいい所を見せたい……そういえばフォルは? この会話を聞かれたかと思い、彼女に視線を向ける。

フォルは胸元でこぶしをを固く握り、戦いに見入っている。

彼女は自分達の会話は聞こえないくらい、集中して観戦している。

見るからに強そうな、正に武力の象徴ともいえる神殿騎士団の団長。

それを小柄で華奢な大賢者様が、武術だけで圧倒しているのを目の当たりにしているのだ。

小柄なフォルは、大賢者様に己を重ねているのかもしれない……。

もちろん二人とも身体強化の術は使っているし、武器にも魔法付与はされているのが見て取れる。

ゆえに条件は同等だが、体格差を技量で埋めている。

「豊穣なる尊き橙色(とうしき)……」

呪文だと! 騎士が後方に退き、距離を取って詠唱を始めた。

大賢者様は、足を止めて動かない……詠唱を妨害しないのか?

詠唱を止めれば魔術は発動しない、近接戦では攻撃を仕掛けて呪文の妨害し、発動前に阻止をするのがセオリーだ。

「おのが剛質を転じ、柔に変ぜよ、溶けろ!」

騎士が詠唱を終えると大賢者様の足元、直径二(メートル)の範囲の土が泥に変わった。

溶解。

この魔術の名だ、土魔術に分類される。

地味な術だが実に効果的で、戦場などでは複数の魔術師が協力して術を施し、広範囲で土を泥に転じ、敵の足を沈めて動きを封じる。

そして身動きが取れなくなった敵にアウトレンジからスリングや矢で攻撃する、というのが一般的な使用法である。

大賢者様の足が膝まで泥に沈んでいる、動きが封じられた……。

騎士は剣を振りかぶり、大賢者様に接近する。

大賢者様は……棒で泥を騎士の目に向けて放った!

目潰しだと……そんな有り体な攻撃、一流の騎士に通用する訳が無い!

騎士は目に泥を受けても全く怯まず、剣をを右上に高く振り上げ、大賢者様に向かって刃を斜めに振り下ろした!

だが、その斬撃は空を斬る。

……。

消えた……?

そこにいた筈の大賢者様は、忽然と姿を消していた。

騎士も何が起きたのか理解出来ていない様子だ。

剣を振り抜いたままの姿勢で、驚きで目を見開ている。

突然、泥の中から棒が飛び出し、騎士の額に強烈な突きが入った!

直撃! 被っていた兜が頭から外れ、勢いよく宙を舞った。

泥の中から、大賢者様が上半身を起こす。

あの目潰し……騎士の攻撃に対してでは無く、視界を遮って泥の中に潜り、あたかも消えたか様に見せる為だったのか。

そのまま大賢者様は立ち上がる、頭から全身が泥まみれだ、思い切った事をなさる……。

大賢者様の体が、泥から上にスライドしてその境界に乗り、そのまま硬い地面まで後ろ向きに歩く。

泥の上を歩く……これは最初から出来た筈だ。

つまり、あえて術に掛り、自身は魔術を使わずに対処して見せたのだ。

足元の泥が土に戻る、効果時間切れだ。

大賢者様の体に、まとわりついていた泥も土に戻った。

「未熟者め……大賢者に魔術が通用する訳、無いだろ」

大賢者様は澄まし顔で、体の土を払い落す。

騎士も通用しないと承知の上で、苦し紛れに放った術だったのだろう。

賢者は一流の魔術師でもあり、相手はその最高峰の大賢者様だ。

魔術無しであしらったのは、そんな大賢者様の意趣返しといった所か。

大賢者様は右片手に棒を握り、半身に構えた。

大賢者様と騎士が、かなりの距離を取って対峙している。

決着が近い、そんな予感がした……どちらから動く?

固唾を飲んで見守っていると、先に動いたのは大賢者様だった。

しかも肉薄するのでは無く、なんと棒を槍投げの要領で騎士に投げつけた!

武器を投げただと? 丸腰で戦うのか! 

大賢者様は騎士に向かって走り出す。

騎士は投げつけられた棒を剣で弾くと、その姿勢から接近する大賢者様に突きを入れる。

大賢者様は、その攻撃を避ける様に横に大きく飛び、着地点から地面を蹴り騎士に肉薄する。

騎士が斜めに剣を振り下ろす、が大賢者様はタイミングをずらして空振りさせ、剣先に足で踏みつけ動きを封じる。

「オオォー‼」

大賢者様の声が響く共に、右ストレート一閃!

(こぶし)が騎士の顔面を捕らえて振り抜かれた!

クリーンヒット。

凄まじい勢いで騎士が地面に倒れ伏した。

大賢者様は拳を振り抜いた姿勢のまま、倒れた騎士を見下ろしている……これは……。

決着だ!

大賢者様は拳を天に突き上げると、フォルに視線を送った。

「フォル! 見たか、勝ったぞ!」

得意満面の笑みを浮かべ、大声で叫ぶ。

フォルは暫し茫然としていたが、ゆっくりと大賢者様の元に小走りで駆け寄る。

そして大賢者様に詰め寄ると、感情が高ぶった様子で両のこぶしを勢いよく上下させた。

「スゴい……スゴかったです! 賢者様強いです!」

「だろ! 大賢者は嘘はつかねえ」

興奮しているフォルの頭を、大賢者様は乱暴に撫で回す。

つい先ほど、自分を睨みつけて罵倒していたフォルが、大賢者様の元に寄り添っている。

何なのだ、これは?

大賢者は、フォルに言葉では無く、暴力を見せつけて説得した?

賢者なら言葉を紡いで説得するものだ!

こんなのオカシイだろ! 滅茶苦茶だ!

強烈な無力感が、自分の心を支配する……。

フッフールさんに上半身を起こされ、介抱されている騎士が目に入る。

あの人も、とんだ道化を演じさせられたな……。

大賢者様は、後からやって来て全部持って行ってしまった……本当にあのお方は……。

卑怯でズルい!

実況はマシィ、解説はフッフールでお送りしました。

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